―――第四次聖杯戦争で、聖杯はとある魔術師と”セイバー”の手により破壊された。
第三次聖杯戦争にて、”多数の魂を犠牲にして願望を叶える存在”と変貌した聖杯が破壊された事により、収まるはずの器が消え去ったが故に中身が溢れ出してしまった。
その結果、『冬木』の街の一部が壊滅し大勢の人間が死んだとされている。
そして、聖杯未使用と断定された後にたった十年で『冬木』に聖杯が出現した。
それが第五次聖杯戦争の始まりである。
七人の魔術師と七騎の英霊が集まり、聖杯を求め争い合った。それぞれが希望や祈りを掲げ、真っ当な戦いが続いていた。
しかし、その第五次聖杯戦争の結末は悲惨なモノだった。
召喚不可能なはずだった”八人目のサーヴァント”が召喚された事により、第五次聖杯戦争は予想外の方向に進み続けた。
その”八人目のサーヴァント”の正体は『復讐者』とされ、時計塔内では大混乱が巻き起こる程の問題となった。
しかし、その『復讐者』は第三次聖杯戦争に召喚された英霊とは全くの別物。
第五次聖杯戦争で召喚された『復讐者』のマスターとなる魔術師は存在せず、ほぼ単独での顕現とされている。
『復讐者』は七騎の英霊の内、四騎を消滅させた挙句、人間(マスターである魔術師を含む)を計十八人も殺害した。
その後、協定を組んだセイバー・アーチャー・バーサーカーの手により瀕死状態となったのだ。
セイバーの宝具により聖杯は孔ごと破壊され、聖杯は中身を欲して『復讐者』を取り込んだ事で、『復讐者』は本格的に第五次聖杯戦争を脱落するのだった。
聖杯に取り込まれる前に、『復讐者』はセイバーのマスターに向けて一言。
「此度の聖杯戦争は無駄足だったな。次回の聖杯戦争に期待している、精々人類には足掻いて貰わなければならぬからな」
と言い残したと、記録がされている。
そして、第五次聖杯戦争から23年後。
この地に再び、聖杯が姿を現した。
「この時を待ちに待っていたぞ!!『復讐者』と名乗る英霊を呼び覚まし、今度こそ私は聖杯を手に入れる!!」
片腕を失った老人が、紅く染った空に向かって叫び続ける。その目は狂気に満ち溢れていた。
鏡石市の中心部。
市で一番の広さを誇る公園、波白石公園のはるか上空に、聖杯が出現する。
「アレが聖杯……私の追い求めていた叡智の結晶!!嗚呼、今すぐにでも触れて聖杯を堪能したいぃ……!!」
老人は崇めるように聖杯の出現を見届ける。
だがそれは”聖杯”と、とても呼べない程に醜い造形をしていた。
聖杯の器は 真っ赤な鮮血で染まった皮膚の様なモノで形成されており、形は”杯”と言うより”人間の頭蓋”に近い。
ソレは見るだけでも嫌悪感に苛まれ、今すぐにでも視線を逸らさなければ平常心を保っていられないかもしれない。
だが、この老人は既に狂っている。
「さぁ『復讐者』よ!!私と共に、この聖杯戦争を蹂躙し尽くそうでは無いか!!フハハハハハハハハハっ……」
「――― 五月蝿い輩だ。この俺を服従させる程の実力者では無いな、身の程を知れ」
老人は目を見開いたまま、聖杯のすぐ真下。 血塗られた地面で座っている男に目を落とす。
ソレを認識した瞬間。老人の眼球はドス黒い色に染まり、大きな音を立てて破裂した。
激しい痛みと視覚を失った老人はその場に膝をついて絶叫する。
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!私の……私の大事な眼が!!何をするんだ『復讐者』!!この私を裏切るつもりか!! 」
「――― 裏切る?いつから俺はお前たち人間の味方になったと勘違いしているのだ。それに”聖杯戦争を蹂躙し尽くす“? 」
「――― 馬鹿言え、俺はサーヴァント同士の争いなど微塵も興味が無い。俺は英霊では無く、人間を鏖殺する」
「――― それが俺に課せられた罰であり、使命でもある。分かったなら即刻その頸を落として自死するがいい 」
「あぁ……あ”あ”あ”あ”あ”!!『復讐者』ァ”ァ”ァ”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”!!」
「――― しかし、はっ。此度の聖杯戦争は面白い英霊が勢揃いだな!!……微塵も興味無いとは言ったが、余興程度にはなりそうだ!!」
「絶対にお前を殺して!!私が聖杯を手に入れてみせ
「――― これだから人間は嫌いだ、死ねと命令されれば直ぐに死ねば良いものを。それに、人間の死体はどうも醜い」
「――― さて、何処から始めようか。……そうだな、肩慣らしにまずは 『賢王』と『聖処女』に挨拶代わりの洗礼を」
「―――第五次聖杯戦争の続き、『虚構の聖杯戦争』の開幕だ」
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