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「――― まぁ良い。この地に集いし全英霊・魔術師共、刮目せよ!現時点を以て我達の勝利は確定した!……利用出来るモノは全て使い切る。それが我の極意よ」
有り得ない、不可能なはずなのに。何故彼は『アレ』が使える。彼のクラスは”アーチャー”では無く”キャスター”だ。適正では無い体で『アレ』を使用すれば身体諸共消滅するに決まっている。
だが、この聖杯戦争は壊れている。異常な事態が起こるのは当然だ。つまり彼が『アレ』を発動出来るのは、
「不完全が故に、本来のクラスと混ざり合わさっている……?セイバー!奴の地点まで飛翔出来るか!?」
俺は問い掛けと同時に急いで魔術式を編む。この程度の魔術で彼の攻撃を防ぐ事は無理難題だ。それでも、無駄だとしてもやれる事には手を尽くさなければならない。
「………否定、はしません。私の宝具なら彼の宝具を止められる。上手く行けば彼を狩る事も可能ですが、あなたの令呪は残り一画。それに確率は五分五分です」
それは好都合だ。宝具の阻止と討伐が同時に行えるのはこれまで以上に良い情報。それに、五分五分なんてまだ希望だらけだ。賭けてみる価値はある。
魔術式は完成し、俺は左手を天に翳しながら告げる。その行動に、辺りに居た魔術師やサーヴァント達が目を向ける。
この動きの意味を理解した者も少なからず存在していた。速攻で使い魔(ハイウルフ)を放ち、俺の首元を引き裂かんと迫ってくる。だがそれを、俺のサーヴァントは許さない。狼の俊敏な動きを予測して先に刀を振るう、予測地点に獲物が到着したその瞬間に命を刈り殺る。
2匹、3匹と次々に近づいてくる狼を全て斬り伏せ、俺の命令を待つ。
待たせて悪かったな、
「―――令呪を以て、我が英霊に命ずる!」
左手に浮かぶ紋章が輝きを放つ。これまで全ての犠牲者や散っていった同胞達の願いと力を込めて告げる。
しかし、彼は俺の行動を赦さない。
「―――天と地は堕ち、万人の生命を破却する。開闢を告ぐ原始は無に還り、世界を裂くは我が乖離剣!」
詠唱と共に何も無い空間から、深緋と黄金に煌めく一本の剣が顕現する。それは無名にして最強の剣。正真正銘 “彼”だけの宝具 。
アレを阻止出来るのは、やはり―――
「聖杯による強化は既に終わっている。残るは俺の魔力と令呪で全てを補う。さぁこの時代で全力を出せるのは今、この瞬間だけだ!!お前なら出来る」
「宝具を展開し “▇▇▇▇を打倒せよ”!!」
「――― その命令、承った」
一瞬にして辺りの空気が一変する。それを察知したのは俺だけではなく彼も同じだ。
“セイバー”の宝具で”キャスター”の宝具を相殺する。可能か不可能かは神のみぞ知る……否、俺の英霊のみぞ知る。
「――― 初太刀による一刀両断を尊ぶ、それは正しく私の剣技である。万物を斬り伏せるは私の望、この一太刀を以て終幕に致す」
「――― 断想と宙を廻し 、慟哭の時は来たれり。………”▇▇▇▇“と言ったか。無様な剣技で我を退屈させるでないぞ!」
最凶と最強のぶつかり合い。これを見ずして『虚構の聖杯戦争』の全ては語れない。
「―――『示現流・―――――――――!!
「―――『天地乖離す――――――――!!
夢を見ていた。俺が魔術師(マスター)と成り、聖杯を手にする夢を。長いようで短い様な、けれどあの時の感覚はまだほんの少しだけ残っている。
これは本当に夢なのか、それとも現実なのかは分からない。もしかすると誰かの記憶かもしれない。それに、この夢はあまりにも残酷で―――
「起きてください!!ほら、起きてってば!!」
窓から光が差し込み、暖かな空気が部屋を包み込む。そして、布団を揺さぶりながら俺を起こそうと試みている少女が一人。
この少女はこの間『魔術協会』から逃亡し、隠れ家を探していた俺を住まわせる代わりに魔術を教えて欲しいと交渉してきた少女 『ユリ』だ。
本来であれば、俺は魔術を教えないし教える気は無かった。だが、背に腹はかえられぬ。居場所を提供して貰ってる身であるが故に教えるのは当然。
そんな訳で、今に至る。
「お〜き〜ろ〜!!ほらほらほらほらほら!!」
「嬢ちゃん、もう起きてる。起きてるから揺らさない……ちょ、起きてるって!」
本当にこの娘は、命を救って貰っておいて言うのは何だが。やはりネジが一本外れているのかもしれない。
体を起こし、朝食が用意されている部屋へと案内され、ユリの自慢話や世間話を聞かされる。これを毎日聞かされるとなると、少し面倒臭いが良しとしよう。
食べ終わった朝食の皿洗いは”居候の身”である俺がしなければならない。ユリは「いいよ、私がやるからあなたは隣の部屋でテキトーにゴロゴロしてて!」と言っていたが、それを無視して皿を洗う。
ユリの顔が泣きそうな表情になっていたが……まぁ大丈夫だろう。
皿洗いをしている合間に、俺が参加しようとしている聖杯戦争について説明しておこう。
『第六次聖杯戦争』―――第五次聖杯戦争から約23年後、鏡石市で再び聖杯が顕現。本来であれば冬木の聖杯戦争以降の聖杯顕現は有り得ないとされていた。
それに聖杯は既に解体済み、存在すら消されていた聖遺物が、何の因果か冬木と関係性が全く無い都市で再び姿を現した。だが、姿を現した筈の聖杯は行方不明。誰の手に渡っているのかすら不明である。
魔術協会(時計塔)からの情報によると、異変に気づいた聖堂教会がとある人物に聖杯戦争への介入を依頼。恐らく”アーチャー”か”ライダー”のマスターとして潜り込んでいると予見しているらしい。
更には『万物の願いを叶える願望器』を我が物にしようと多方面の国から使者が送り込まれている。
今現在確認出来ている人物は、アメリカ合衆国のとある組織から派遣された若い魔術師『キャロル・ブラット』に架空宗教団体 “バルバッコア” 率いるオッドバルド帝都から派遣された姿不明の魔術師『オーメン・ワトソン』の二人のみ。
この聖杯戦争に紛れた大半の人物は偽名を使い、素性が明かされない様に行動するだろう。
そしてこの情報は全て盗み聞きした重大機密情報が故に、俺は時計塔から追われている。
そんな訳で二度目の、今に至る。
「で、嬢ちゃんは本当に魔術を学びたいって事でいいのか?俺の魔術はそこまで便利なモノじゃないし、ましてや魔術師相手に身を守れるかどうかって言われたら即答出来ない程の魔術なんだが……」
「あぁもう、そんな事分かってるわよ!よく聞きなさい!私はあなた―――師匠から魔術を教えて貰いたいの、それ以上でもそれ以外でもないわ!お分かりで!?」
「えっと………はい………」
俺の返事を聞くや否や、少女は立ち上がって何かを取りに部屋を出て行ってしまった。恐らく魔術に必要な宝石やその他書類を探しに行ったのだろう。まったく。
聖杯戦争開始前に行われる”英霊召喚の儀”は原則深夜2時と決められている。
この情報が届いたのはこの腕に”赤い紋章”が浮かび上がった2日後。まるで最初から参加する事を予見していた様なタイミングで”監督役”を名乗る人物『エルライフィルアル・フォン・アインツベルン』と言う人物から直接電話で連絡を寄越してきた。
アインツベルン家と言えば、第五次聖杯戦争終結後に家系は途絶えた筈だった。だが何故か”アインツベルン”の名を名乗る人物が居た。本当ならこの事を時計塔に連絡すべきなのだが、生憎今はおわれている身なので伝える手段は無い。
それに、今は時計塔を信用出来るかと聞かれたら、俺は首を縦に振る事は無いだろう。聖杯戦争が始まる時点で、信用出来る人間はゼロに等しい。
いや、唯一信頼出来る人間が居たな。
「あれ、師匠は魔術使う為の準備とかしなくていいのかしら?はっ…もしかして、魔石とか必要無い魔術でしたか…?!」
―――此処に。
時は満ちた。
現在の時刻は深夜1時59分。決められてた、英霊召喚の儀が行われる時間。
今回俺が呼び出そうとしているサーヴァントのクラスは”セイバー”。どのクラスにも負けず劣らずの最強の英霊。
触媒となる聖遺物は、時計塔から逃亡する際に盗み出した”太古の英雄が所持していた鞘”。だがこの鞘は現物では無くレプリカだ。まず”触媒”として機能するかどうかすら怪しい。下手すれば召喚の際に不具合が生じ、最悪な展開を迎える可能性がある。
だが、それを承知の上で英霊召喚の儀を行わなければ聖杯戦争に参加する事は出来ない。
なんて説明している内に時刻は深夜2時。時計の針がピッタリ重なるその前に、詠唱を始める。それは一騎当千、万夫不当の英霊達を呼び出す為の詞。
「―――素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。 祖には我が大師シュバインオーグ。
降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
「閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」
「――――――告げる……っ!?」
陌壽ァ九?閨匁擶謌ヲ莠峨↓蜿ょ刈縺吶k蜈
刹那、触媒である聖遺物に”ズレ”、空間的な”バグ”が生じる。それを見ていた俺とユリは寸秒遅れてその場から少し離れ、触媒は空間の捻りで消滅する。
まさか、失敗?
そんな回答が脳裏を過ぎったが、目の前の光景がそれを否定する。触媒を失っても尚、俺の左手に宿っている紋章と魔法陣は光り続けている。
“ズレ”―――亀裂は時間が経過する度に広がって行く。このまま亀裂が広がって行くとユリと俺にどのような影響があるか分からない。何も分からない以上、このまま放っておくのは危険。なら、
「―――汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
“亀裂が広がる前に英霊を召喚して、終わらせる”。
「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」
「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――ッ!!」
ゆっくり侵食していた亀裂が一気に、一瞬で広がり、辺りの空間を歪ませる。召喚に反応するかの様に魔法陣は不均一に点滅する。
広がった亀裂は空間を進み続け、ユリの右肩に触れる。その間、約0.7秒。俺が気付くより早かった。
「――――――――っ!!」
遅い、俺が手を伸ばした先では最悪な光景が待っていた。ユリの右肩から先が歪みに巻き込まれ、消滅。ユリは意識を失ったかのように地面へと倒れる。
急いで応急処置をしようと歩き出した俺の足を狙うかの様に、足元に一本の刀が突き刺さる。のと同時に、俺が進もうもしていた先に亀裂が大きく広がる。
「申し訳ありませんが、その先に進むことは不可能です。えぇ、私だって早急に彼女の手当てをしたい所ですが……今この状況では自殺行為です」
背後から女性の声が聞こえ、俺は思わず振り向く。そこに立っていたのは、侍の様な甲冑を身に纏い、腰に日本刀を刺している人物だった。
数秒後前までここに居たのはユリと俺のみ。そしてこの部屋は完全なる密室。外部からの侵入は不可能。
そして、彼女に反応するかのように左手の紋章が赤く光り輝く。まさか―――、
「そのまさかです、マスター。クラス”セイバー”、召喚に応じ参上致しました」
不完全な英霊召喚の儀は、此処に成功した。