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「菊、いいこで待ってるよろし。我は今から学校に行ってくるネ。あの女が帰ってきても絶対にこの布団から出ちゃ駄目アルよ。見知らぬ男が来たら、この布団の中に潜って息をひそめるよろし。」

「はい、にーにも気をつけて。いってらっしゃい」

こうしてにーには家を出ていった。にーには小学校というところに行っている。私も本当は行かなければいけないらしいが、行かせて貰えてない。それどころか、私は一回も外に出たことがないのだ。否、出させて貰えてない。だって私は、無かったことにされているからだ。お母さんは、朝はいない。夜になると帰ってきて知らない男の人をつれてくるか、私達を殴ってくるかだ。だけど、にーにが庇ってくれるから傷が増えていくのはにーにだけだ。食事だって勿論十分に食べさせて貰ってない。夕方になるとにーにが帰ってきて、学校であった楽しいことや、勉強を教えてくれる。私が問題なく喋れるのはにーにのおかげだ。

にーにが学校に行ってる間は、布団の中でにーにが図書館で借りてきてくれた本を読んでいる。本は大好きだ。だって怖いこと、嫌なこと、何もかも忘れさせてくれる。今日もそうやってにーにの帰りを待っていた。

空がオレンジ色になり始めた時、玄関からガチャリという音がした。にーにが帰ってきたんだと思った。だけど、にーににこの部屋から自分で出ちゃいけないと言われているから、飛び出したい思いを必死に抑え込む。そして、私の部屋が開いた。 それは

「にーに、おかえりなさい!」 「にーにじゃなくてごめんねぇ、菊ちゃん」

にーにではなかった

この男は、昔一度お母さんが家に連れてきた男だ。その時、何故か男は私のことをなめまわすような視線を寄越してきたのだ。その時に本能が悟った。この男はやばいと。それからあの男が来ることは無かったから安心していたのに。

「な、なんのごようですか」 「菊ちゃんと、遊びたいなぁ…って」 そう言ったとたん男は私の服に手をかけてきた

「いやっやめてください、にーに、たすけて」

「ちょっと、だまろうか」


あいやー、今日はいい日だったある。プリン争奪戦にも勝てて、菊へのお土産もゲットできたあるからな。菊も喜ぶあるな!そう思いながら、玄関の鍵を開けようとした。おかしい、鍵が開いている。今朝はちゃんと閉めておいたはずだ。ものすごい、嫌な予感がした。 「きくーッッ」我は、一心不乱に菊がいる部屋に駆け出した。そこには、昔あの女が連れてきた男と、身体の至る所に痣があり、白い液体と涙で顔がぐちゃぐちゃな菊がいた。それからはあまり覚えていない。ただ、視界が真っ赤に染まって、菊の止める声で我にかえったときには、青アザだらけの顔で気絶している男と、泣き崩れている菊の姿があった。我は慌てて菊を抱き上げて、体を洗いにいってやった。菊はずっとびくびくしながら我に抱きついてた。そんな菊を見ると、あの男への殺意がまたわきあがりはじめた。

「菊、遅くなってごめんある」 「いえ、いいんです」菊の声は少し渇れていた。 「菊、この家を出るある。この世界にはな、我達を助けてくれる奴らもいるある。そうあるよね、もっと早くこうしとけば…我はお前と離れたくなくて、ずっと一緒にいたかったあるが…」 「にーに、」 「よし、早速出るあるよ!菊、あるけるあるか?」菊は小さく首を振った。 「じゃぁ我がおんぶするあるよ、ほら肩につかわるよろし」

にーにの背中は暖かくて、世界で一番安心できる場所。そして、私は初めて外を出た。眩しくて眩しくて、目が焼けてしまいそうだった。でも、それ以上に綺麗だった。

この後私達はけいさつしょ、という所にいった。私はよくわからなくて、気づいたら眠ってしまっていた。起きると、優しい眼をしたけいさつかん、という人がもう大丈夫だからと声をかけてくれた。 「君たちはね、新しい人たちの所へ行くんだよ。その人たちはとってもいい人で、1人まだ小さな息子さんがいるんだよ。」 「我と菊は離れ離れにならないあるか?」 「勿論、君達はずっと一緒だよ」


 「にーに、次の家族は大丈夫ですかね?」  「大丈夫あるよ、何があっても我が守ってやるある」

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