「……うん」
小さく息を吐き、俺は視線を落とす。
静かな食堂の空気が、ひどく重く感じる。
「全部、話すよ……俺……本当に、子供がいる」
その言葉を口にした瞬間、何かが喉の奥で詰まったような気がした。
母は黙って微笑み、父は深く頷く。
レイはそっと俺の背に手を置いた。
「でも……まだ、ちゃんと実感がないんだ。最初に聞いたときも、信じられなくて……」
声が震える。
自分でも、こんなに感情が揺れるとは思わなかった。
「それに、アランのことがあったし、隣国の動きも不穏だった……だから、レイと世話をしてくれてるエミリー以外は誰にも言わなかったんだ」
「守るため、か……」
父が静かに言う。
俺は小さく頷いた。
「……俺だけじゃない。レイも、エミリーも、みんな、気を遣ってくれた。でも、本当は……」
——自分自身が、まだ受け入れられなかっただけなのかもしれない。
その言葉は飲み込む。
けれど、母の瞳がすべてを見透かしているようで、思わず目をそらした。
「あなたらしいわね」
母はふっと笑った。
「でも、もう隠さなくていいのよ?」
「……母上」
「あなたがどんな道を選んでも、私たちはあなたを支えるわ。ねえ?」
「もちろんだ」
父が頷く。
「何があろうと、お前は我が息子だ。それは変わらない」
言葉が胸に染みる。
家族は、ちゃんと受け止めてくれるんだ。
それがわかった瞬間、肩の力がすっと抜けた。
「……ありがとう」
俺がそう呟いたとき——
——カンッ!カンッ!
屋敷の外で、甲冑がぶつかるような硬質な音が響いた。
「……?」
父が眉をひそめる。
「屋敷の前が妙に騒がしいな」
「昨日から王城の警備が厳しくなっているそうですよ」
執事が静かに言う。
「昨夜から王宮でも何か動きがあったとか……」
「……王宮が?」
俺とレイが顔を見合わせた瞬間——
——ドンッ!
扉が勢いよく開いた。
「失礼します!」
一人の騎士が慌ただしく駆け込んでくる。
「エルステッド家当主殿、そしてフランベルク領主ご夫妻!」
騎士は深く頭を下げ、鋭い声で告げる。
「陛下が至急、王城へとお呼びです!」
「——陛下が?」
レイが眉をひそめる。
俺の胸にも、ざわりとした不安が広がる。
「一体、何が……?」
「それは……まだ詳しくは」
騎士は言葉を濁す。
それが、さらに嫌な予感を募らせた。
「……すぐに向かおう」
レイが立ち上がる。
「カイル、無理はするな」
「わかってる」
俺もゆっくりと立ち上がる。
父と母も立ち上がった。
「……行ってきます、母上」
「気をつけなさい」
母がそっと俺の手を握る。
「どんな決断をしても、あなたの帰る場所はここよ。お姉さまがそろそろいらっしゃるから、あなたたちの好きなものを用意してここで待っているわ」
その言葉を胸に刻みながら、俺は王城へ向かう決意を固めた——。
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