「第2話:傲慢な皇女になりきってやる」
それからというもの、毎日父である皇帝から罵声を浴びせられた。最初はどうにかして良い娘になろうと、必死に努力してみた。しかし、どれだけ尽力しても、皇帝の冷徹な目は私を認めてはくれなかった。やがて、私は心の中で諦めを覚え、このまま傲慢な皇女を演じ続けることに決めた。自分の誇りを守るため、演技を貫くしかないと悟ったのだ。
『ねぇ。まだお出かけの許可を取れていないの?』
メイド「申し訳ございません…陛下が城の外に出るのは駄目と仰っていました。」
『は?どうして? 貴方使えないのね。』
メイド「そうです。私は使えないメイドなのでこっそり抜け出してしまうのはどうでしょうか?」
『え…?』
メイド「じ、実は私、少し前から皇女様の堂々としたその振る舞いが素敵だなと思っていて…何を言われても曲げないその意志がとても素敵だなと…」
『あら、そうなの。ありがとう。いいこと言うじゃない』
メイド「これ…良ければどうぞ!皇女様の瞳色だったのでつい衝動買いしてしまって…笑 」
すると、優雅に装いを整えたメイドが私の前に現れ、静かに膝をついて手にした箱を差し出してきた。その中には、私の瞳の色に似たアメジストの宝石が埋め込まれた指輪とネックレスが、柔らかな光を放ちながら並んでいた。宝石の輝きが、まるで私自身の内に秘めた力を象徴しているかのように、静かに私を見つめ返している。
『…貴方名前は?』
メイド「私はリサと申します」
『そう。リサ、ありがとう』
つい笑顔になる。その笑顔は、まるで花が咲くように美しく、見た者を虜にしてしまうほどの輝きを放っていた。
リサ「…!皇女様は笑った顔が素敵なのですね!」
『あ、ありがとう、』
『初めて褒められたわ』
リサ「どうして皇女様を非難する人が沢山いるのでしょうか…」
『え、?』
リサ「皇女様が悪事を働いているという噂が立っていますが、実際に悪行を行っているのは妹のニコリ様なのでしょう…?私、知っています」
『…どうして?』
リサ「この目で見たからです」
リサ「このままずっと陛下に叱られるのムカつかないですか?」
『ムカつくけど…私、どうしたらいいのか……』
リサ「では私がお手伝い致します!」
リサは豪華なドレスを私に着せ、細やかな手つきで身支度を整えていった。
リサ「ディトリヒ殿下に会いましょう!」
『えっ?ディトリヒ殿下に…?』
リサ「はい!たしかニコリ様は殿下のことがすきでしたよね? 」
『そうだったとおもうけど、、』
リサ「そして殿下の心を皇女様が奪うのです!そしたら復讐は完了しますよ!」
『そんなに上手くいくかしら…』
リサ「皇女様ならいけますよ!」
ディトリヒ殿下の姿を見た瞬間、私の頭は一瞬で真っ白になった。
(黒い髪に赤い瞳…まさか、この前の方と同じ…?でも、どうしてこんなにも違って見えるのかしら…?)
『ディトリヒ殿下、初めまして。キュリアスでございます。突然の訪問、どうかお許しくださいますようお願い申し上げます。』
ディトリヒ「傲慢な皇女様が、私に何か用ですか?もしかして、私が処刑される覚悟でも決めたのでしょうか?笑」
『私と結婚していただけますか?もちろん、その代償はきちんとお支払いします。』
ディトリヒ「何を言い出すかと思えば…まさかの求婚とはな。面白い、いいだろう。式はいつ上げる?」
『3日後はどうでしょう?』
ディトリヒ「3日後か?随分と急ぐようだな。それなら、準備を進めなければな。」
『ありがとうございます。では…』
ディトリヒ「待て。今から帰るのは危ない。今日は泊まってけ」
『ですが、』
ディトリヒ「婚約者の部屋には入りたくないのか?」
『…わかりました。今日は泊まっていきます』
ディトリヒ「結婚するんだし俺のことはディトリヒと呼べ」
『…では私のこともキュリアス、と。 』
ディトリヒ「分かった。そして敬語も辞めろ」
『分かったわ。これから宜しくね』
彼は静かに手を差し出し、私はその手を取る。握手を交わす瞬間、冷徹な瞳が私をじっと見つめている。
ディトリヒ「契約結婚だと評判が悪くなる。周囲には、あくまで良好な夫婦に見えるように振る舞わなければならないな。」
『ええ。そうね…』
ディトリヒ「この辺りは人通りが多い。ハグを一度だけ交わすのはどうだろうか?」
「嫌なら無理にとは言わんが。」
『ぁ、えっと…1回だけなら…』
ディトリヒ殿下は静かに私を抱きしめた。その冷徹な目の奥には、何も見せないような深い感情が隠されているように感じられた。私は恥ずかしさから顔が赤くなり、無意識に顔を隠すようにして彼の胸に寄り添った。彼の冷たい外見に反して、その体温は予想以上に温かく、私の心は揺れ動いた。しかし、殿下の前で表情を崩すわけにはいかず、必死に自分を抑えながらその瞬間を過ごしていた。
ディトリヒは冷たい目で私を見つめながら、ふっと唇を緩める。その言葉は、私の胸を一瞬で締めつけた。冷徹な殿下が口にした言葉が、どうしてこんなにも温かく感じられるのだろうか。
「顔が赤いようだが、照れているのか?」と、彼の声は鋭く、けれどどこか優しさを感じさせる。私は一瞬、言葉を失った。その後、彼が続けて言った言葉がさらに私の心を揺さぶる。
「可愛いところがあるんだな。噂とは全く違う可愛らしい女性のようだが」
その言葉に、私はますます顔を赤らめ、視線を逸らした。どうしてこんなにも、殿下の一言一言が私の心を掴んで離さないのだろうか。
ディトリヒ「そろそろ部屋に戻るか。あまり綺麗な状態ではないかもしれんが、少しばかり我慢してくれ。どうせお前にとっては、我が身を気にすることなど無駄なことだろう」
部屋に到着すると、ディトリヒ殿下は無言で私をソファに座らせた。その後、彼もそっと隣に腰を下ろし、私の顔をじっと見つめてくる。その視線は鋭く、まるで何かを探し出そうとするかのように、私の表情の一つ一つに注がれた。
ディトリヒ殿下は、わずかに冷ややかな笑みを浮かべながら言った。
ディトリヒ「そろそろ風呂に入るか?俺も一緒に入ってやるよ。」
『んなっ?!』
ディトリヒ殿下は、少し不敵な笑みを浮かべながら、冷静に返す。
ディトリヒ「冗談に決まってるだろ…まだ会って初日だぞ。」
(なんなのこの人ー!?!?)
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