「はーい、ホームルームここまで!みんな気を付けて帰ってねえー」
チャイムが鳴り、担任のおかめ先生が声をかけるとみんな一斉に席を立つ
部活に行く人、このあと何処に寄り道するか相談する人
バイトだぁ~と私の隣で叫ぶ同級生に、おつかれ、と笑いかけると
大きな影が私にかかった
「…先生?」
「◯◯、図書の整理手伝って」
「あれ?今日は1年生が担当ですよね?」
「二人とも休みなんだよね〜 ◯◯、図書委員長でしょ?」
「わかりました」
お気の毒、なんて同級生に軽口を叩かれながらおかめ先生の後に続いて図書室へ向かう
私の通う高校は比較的自由な校風で、どちらかといえば部活に熱心な子が多い
また立地的に、区の図書館が近いこともあって、学内の図書室はほとんど人が来なかった
図書委員長といっても名ばかりで、誰が見ているかもわからない掲示物を作ったり、毎週委員の子たちが持ち回りで行う掃除のチェックをたまにするくらい
それでも私は、殆ど入れ替えのない古本の匂いと、夕日が差し込むカウンターが好きで、一人ひっそりと通い詰めていた
おかめ先生は担任でもあり、図書の担当だから、よく顔を合わせる
最近は慣れてきたのか、「◯◯またおんの?物好きやねぇ」なんて、滅多に聞くことのない関西弁も溢れるようになって少し優越感
飄々とした雰囲気のおかめ先生は、そのスタイルの良さと分け隔てない優しさで非常に人気がある
私も例に漏れず憧れを抱いているけれど、あくまでもそれは身近な格好いい大人へのそれで、表立ってきゃあきゃあ言うことはなかったから、先生には気づかれていないだろう
最近気づいたのだけれど、おかめ先生はおそらく、図書室へサボりに来ている
「あんま俺がここにいること、言わんといてな」
特に般若には、と笑いながら私の頭を撫でる姿にどきりとしたのは、良い思い出だ
そんなことを考えながら図書室に着き軽く清掃をした後、先生に言われたように背表紙が破れた本を修復していく
補修用の分厚いテープが上手く貼れず悪戦苦闘していると、先生は「案外不器用やな」とケラケラ笑った
「もー!見てるだけなら手伝ってください!」
「ええー、そんな量多ないやん」
「般若先生まだ職員室にいるかなあー」
「うそうそ、手伝うから!」
慌てて、関西弁と標準語の混じる先生に、してやったりと笑う
そうしたら大きな腕が伸びて、私の背中にピッタリと先生が張り付いた
「っ…びっくりした…」
「ほら、テープぐしゃぐしゃやん」
後から抱きかかえられるような体勢で私の手からテープを奪い、先生はさくさくと背表紙に貼り付ける
先生の体温と微かな香水の匂いに胸が高鳴って、体が動かない
私は今、どんな顔をしているのだろう
「…◯◯?」
「あ、はいっ…」
名前を呼ばれて顔を上げると、いたずらっ子のようなおかめ先生の顔
「も…う…イケメンを理由に生徒をからかわないでくださいよ!」
「あはは、ごめんて」
「不覚にもドキドキしたじゃないですか」
「えー、ドキドキしてくれたの?」
私の髪を優しく耳にかけるおかめ先生は、いつもより色気があってくらくらする
目が離せずにいると、先生は修復に使ったテープを小さく切り取り、私の口に貼り付けた
「っ…んんんん?」
「ふふ、かわええ」
先生の顔がゆっくりと近づく
あ、と思った瞬間、テープ越しに感じる先生の柔らかな感触
思わず目を閉じると、そのまま大きな体に閉じ込められた
「…卒業まで我慢できなくて、ごめんね」
切なげな先生の瞳が揺れて
私達はゆっくりと重なり合った
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