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それでもいいから…

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それでもいいから…

21 - 第21話 気持ちいい理由

♥

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2024年10月14日

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「これから、どうします?」


林がバックミラー越しに聞いてくる。


「んー。どこかのビジネスホテルで下ろしてくれればいいや。今日は帰らないから」


「というか、明日からはどうするんですか?」


「しばらくはホテル泊まるわ。んで、秋山さんに弁護士でも紹介してもらおうかな」


「そうですね。警察でも弁護士でも、プロに頼んだ方がよさそうです」


「………な」


名刺入れを盗られたのが致命的だった。

興信所なんかを使えば、そこから住所を割り出すことも案外簡単なのかもしれない。


「やっちまったなぁ」


市内にもう一つマンションを借りて、ほとぼりが冷めるまでいてもいい。なんなら、別にそっちに引っ越してもいい。


生きていく箱はあればいい。

どこでも。

どんな所でも。


紫雨は目を瞑った。


「なんか最近、ついてない気がする」


つい弱音が唇から漏れだす。


「そうですね」


何もわかっていないだろう林が呟く。だが助けてもらった手前、不思議と今日はムカつかない。


「そう言えば、昨日、お前あの子とヤッたの?」


顔の角度を変えた林の顔がバックミラーからは見えなくなった。

直接運転席を見ると、その無表情な顔の中で唇だけがぎゅっと結ばれてる。


「え、マジ?」


なぜだか笑いが込み上げてきた。


「よかったじゃん、おめでとう!」


紫雨は腕を背面シートにかけて笑った。


「あの飲み会の時から、あの子お前狙いっぽかったもんな。いやあ、めでたい。赤飯だな」


「……………」


答えない林を勝手に照れていると解釈しながら、紫雨は流れていく天賀谷の夜景を見た。


「ホテルなら、どこでもいいですか?」


やっと林が口を開いた。


「ん?ああ」


言うと林は、【フェアリー】とピンク色のネオンが眩しい、ホテルに車を滑りこませた。


「おいおい、ここラブホだぞ?」


紫雨は驚いて振り返りながら言った。


林は無言でその個別の駐車場に車をバックで停めている。


「え、そうなんですか?」


「ばっか、お前、入ったことねえの?」


「はい」


「まあ、いいけどさ。一人で入る分には何も言われないし」


「—————」


「男二人ではダメなところが多いからな」


「そうなんですか。なぜですか」


紫雨は何も知るわけもない男を見つめた。


「まあ、衛生上、じゃね?クソするとこにチンコ突っ込むなんて、綺麗とは言えないからな」


「—————」


急に黙った部下を、紫雨は見あげた。


「どうした?」


「いえ」


「————?」


紫雨は鞄を持ちあげると、シートに尻を滑らせ、ドアを開けた。


「じゃあ、ありがとな」


「いえ」


こちらを振り返りもしない部下を見下ろす。


「そう言えばお前さ、なんであのとき、俺のマンションの前にいたんだよ?」


「—————」


その顔がゆっくりとこちらを振り返った。


頬は真っ赤に染まり、目はまるで親の仇を見るかの如く睨み上げている。


「わかりませんか?」


「は?」


林は運転席から自分も降りると、紫雨の手を掴んだ。


「おい…?」


駐車場からのドアを乱暴に開けると、続く階段を紫雨を引きずるように上り始める。


「あ……おい!林!!はや……」


防音の厚いドアが開く。


紫雨はその中に引きずり込まれていった。




「な、何なんだよ、お前!」

強引に部屋に引きこまれた紫雨は、林から手を振り払うと、こちらを睨み上げた。


「何って。紫雨さんが言ったんじゃないですか。なんでマンションの前にいたのかって」


「はあ?」


「だからそれを説明しようと」


「説明するために、ラブホテルの部屋に野郎二人で、か?」


「そうですよ」


紫雨が呆れたように部屋を見回す。


「…………」


「どうしましたか?」


「まあ、この時点で電話がかかってこないなら、男同士が禁止されてる所じゃないみたいだけど」


「…………」


その慣れた発言にカチンとくる。


「それはよかった」


「意味わかんねぇ」


出来るだけ感情を隠して言うと、紫雨は林を睨んだ。


「………お前の顔見ると、何考えてるかわかんなくて、やっぱりムカつく」


「ーーーー」


「すかしてて、なんか人生に余裕がある感じで。別にここで花開かなくても他で適当にやるからいいんで、って感じで。新谷みたいにがむしゃらさも、落ち込んだりもしなくて」


ーーーがむしゃらなんだけど。


ーーー落ち込んでるんだけど。


やはりこの人は俺のことをわかっていない。


「頼ってきたり、甘えてきたり、喜んだり、感謝したりもなくて」


ーーーへえ。


頼っていいの?


甘えていいの?


「なんか、求められてる気がしねえんだよ、お前から」


林はその細い腕を再び掴むと、ベッドに押し倒した。


「なっ!」


「……求めていいんですか?」


色素の薄い金色の瞳が、林の左右の目を交互に見つめる。


「俺、いつでも、あなたを求めてるんですけど」


「ふっ。そう言う意味じゃねえ馬鹿!」


紫雨が鼻で笑う。


でも顔は引きつっている。

額にうっすら汗の玉が浮かんでいる。


部下である自分に対する恐怖。



紫雨さんは今、俺を怖がっている。



「童貞じゃ、役不足だって言いましたよね」


わざと追い詰めるように、怖がるような言葉と声と言い方を選んでしまう。


「俺、童貞じゃなくなったんで、いいんですよね」


「は?」

瞳が揺れる。


「まさかお前、そのために……」


「紫雨さん。先ほどの話ですが、弁護士が必要なら紹介しますよ。何人か知ってるんで」


急に飛ぶ話題に紫雨の眉間に皺が寄る。


「俺も“上司”から受けたセクハラで、相談している最中なんで」


「……!」


口から出た出まかせに、紫雨が黙る。


「頭のいい紫雨さんなら、わかりますよね」


「…………」


「悪いけど、あなたに拒否権はないんですよ」


押さえつけた両手から力が抜ける。



あなたを追い詰めるのは、


篠崎じゃなくて、


あなた自身でもなくて―――。


俺だ。




篠崎からの着信は、案外簡単に切れた。


「何だったんでしょうね。気になるなぁ」


自分が与える刺激にただ耐えている紫雨は、ギラリとこちらを睨んだ。


「嫌ですか?俺にされるのは。でもあの男に抱かれるよりかはマシでしょ?」


言うと紫雨は唇を噛みながら顔を逸らした。


鋭い犬歯で唇の端が切れる。


林はその赤くにじんだ血液を優しく嘗めとった。


熱い接合部をいたわるようにゆっくり腰を動かすと、紫雨が切なそうに左右に首を振った。


男どころか女も抱いたことがない。

こういう反応が気持ちいいのか、苦しいのかわからない。


「大丈夫ですか?」


不安になって聞くと、


「なんで……」


紫雨が絞り出すような声を出した。



なんで?

“なんで俺を抱くのか”?


そんなの決まってるじゃないですか。

俺はストレートなんですよ。

若い義母で抜いているような男なんですよ。


それなのに、同性の男を抱く理由なんて。


一つしか、無くないですか?



「なんで、こんな………気持ちい……」


「………?」


気持ちいい?

俺とのセックスが?


こんなに無理矢理抱いてるのに?


紫雨の目の端から涙が零れ落ちた。


「また……イク……ッ!」


強張っていた身体から力が抜ける。



林は紫雨のソレを見下ろした。


なんだか直視するのが申し訳なくて今まで見ていなかったそれは、何度放ったかわからないほどドロドロに濡れていた。



紫雨の口が開き、顎が上がる。


「紫雨さん?」


意識を手放した紫雨が枕に沈んでいく。



―――なんで気持ちがいいか。


経験豊富なはずの彼が、ろくに性経験もない自分から、無理矢理に犯されて、どうして気持ちいいのか。


それに答えがあるとするならば―――。


「俺があなたを、好きだからですよ」


林は意識のない紫雨にそう告げると、その唇に自分の唇を落とした。



思えば、紫雨とキスをしたのは、これが初めてだった。



それでもいいから…

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