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「…雨……」
外を見ると窓に透明な水滴が幾つも付いていた。
静かな雨の音が静寂な部屋の中に響き渡る。
俺はあの日、ないこが病院に運ばれて行った後意識を失い倒れたらしい。
そのせいか今は病院で少しばかり入院している。
検査の結果が出るまでは外に出てはいけないらしい。
消毒の匂いややたら全てが白い部屋が病院らしさを感じさせる。
後で聞いた所ないこは亡くなったらしい。
体の損傷や大量出血が酷く病院に運ばれた時にはもう手遅れだったらしい。
俺が手に触れた時点で冷たかったのだから当たり前だろう。
助かる訳がない。
「あの日……ないこが死んで無ければ…」
事故の事を思い出し、ないこの事を考える。
、、最近ないこが出てくる夢ばかり見る。
俺と話していた時の実際の記憶や存在していない記憶までもが出てきた。
俺が見る夢の中のないこは死んだと思わせない程元気で明るくて優しくて
愛おしくてっ、。
夢で無ければ今すぐにでも抱き締めたかった。
あぁ、雨の日なんて嫌いだ。
ないこが居なくなったあの日は雨の日だった。
俺からないこを奪った雨は嫌いだ。
大嫌いだ。
思い出したくもない。
そんな事を考えていると病室のドアが突然開いた。
「失礼します」
少し高めな声が病室内に響き渡る。
その声の主は足音をたてながらこちらに近寄り俺に声をかけた。
「まろ、体調大丈夫そうか?」
ぼんやりとしながら声の方を見るとそこには籠を持ったあにきが立っていた。
「あにき?」
「、そうやで。まろ聞いたよな、。ないこの事」
「うん、聞いた、。ないこ亡く、なったんやろ?」
「……未だに信じられへんわ。ないこが亡くなってもうたなんて」
あにきが少し寂しそうな泣きそうな顔をしながら呟く。
「なぁ、あにき」
「ん?」
「、これから活動どうするん、?いれいすも、」
「その事やねんけど、。まろ抜きで1回他メンと話してんよ。
りうらと初兎は解散した方が良いんやない?って話になってもうたんやけど
まぁ、俺も正直そうした良いと思ってた。
でもな、ほとけがそれを本当にないちゃんが望んでるの?って言われた時気付かされたわ。
ないこが作ってくれたグループなのにそれを蔑ろにする様な解散なんて考えはあかんって、」
ないこが望んでいるか、。
確かに考えてみればないこは1番にグループを優先していた。
自分が体調を崩そうとも、何よりも企画や会議を大事にしていた。
何よりも大切にしたグループなのだから解散なんて言ってしまったらないこに申し訳ないだろう。
「だから、俺はいれいすは解散せずに続けたいと思う。
でも、まだまろにだけ意見聞けとらんからそこだけゆっくり考えてまた聞かせてな。
他メンの気持ちもそうやけどまろの体調も心配やし、今日は一旦帰るわ」
そう言ってあにきがドアの方に向かおうとする。
「え、でもまだ来たばっかじゃ」
「笑ええの。まろも検査の結果が出るまで安静にしとかなあかんし。
あ、良ければこれ」
あにきが思い出したという風に手に持っていた大きな籠を俺に手渡す。
「?何これ、?」
「それ、果物。色んなの入っとるから。お見舞いといったら果物やろ?
栄養も糖分もしっかり摂らなあかんからな」
「、あにき、ありがとう」
「ん、全然ええで。はよ、元気になってな。
退院する頃にはメンバー全員で迎えにくるから。じゃ、またな!!」
そう言ってあにきは俺に手を振り病室から出て行ってしまった。
俺は暫くあにきが出て行ったドアの方を見つめ籠に目をおとす。
桃、林檎、めろん、葡萄など様々な果物が大量に詰め込まれていた。
沢山あり過ぎてとてもではないが俺1人で食べれる気はしない。
俺は籠を棚の上に置き、ふと考える。
きっと、ないこなら目を輝かせながら美味しそうに全部食べ切っただろう。
「ないこ……」
俺もメンバーももうないこのあの明るい笑顔や声を聴くことはない。
もう俺達の傍にないこは居ないのだから。
そう考えると涙腺が緩みずっと溜め込んでいた涙が溢れ出してくる。
「、っ、はっ“ぅッ、ぁ“あ」
喉から嗚咽が漏れ、ぼろぼろと涙を流す。
「ごめ“んッ、ごめん“なッないこっ、」
目の前に居たのにないこを助けられなかった。
俺せいだ。俺が何も考えずに歩いていたから。
もっと周りをよく見ていれば
ないこは
死ななかったかもしれないのに。
全部、全部
俺のせいだ。
本当にこんな自分が嫌で嫌で仕方ない。
ないこではなく
「俺が死ねば良かったのにッ、」
そう呟いた時だった。
『そんな事ないよ。まろ』
「え?」
突如、微かに何処からかないこの声が聞こえた。
びっくりして思わず周りを見渡す。
でも、勿論ないこの姿はない。
、ないこの事を考え過ぎて遂に幻聴まで聴こえる様になってしまったのだろうか?
窓の方を見ると先程と変わらず、雨が降り続けている。
風でふわりとカーテンが揺れる。
「!?ないこ、?」
目の前には窓際で悲しそうに微笑むないこが立っていた。
見間違いだと思い2度見するが間違いない。
ないこだ。
あの桜色の髪もピアスも宝石を連想させる様な煌めく目もないこにしかないもの。
俺が驚きを隠せないでいるとないこがゆっくりと口を開き、俺にこう言った。
『まろのせいじゃないよ。
だから俺が死ねば良かったなんて事言わないで』
ないこは先程の俺の言葉を聞いていたのだろう。
だから、こんな事。
「……分かった。ないこが言うならもうこんな事言わへん」
俺がそう言うとないこは安心した様な顔をする。
「っ、ないこ!!俺ないこに伝えたい事がッ!!」
俺が何か言おうとするとないこはゆっくりと此方に近寄り俺の唇に人差し指をおく。
『もう時間ないから、また今度ね』
ないこはそう言うと少し微笑み、俺の唇から手を離した。
『次の雨の日。俺の家に来て』
ないこは静かに俺に場所を告げるとカーテンが再度揺れると同時に姿を消した。
「……桜の香り…」
ないこが居なくなった病室には桜の香りとすっかり雨が止んだ空から差し込む太陽の光だけが残った。
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