ホテルへ帰ると、チャーリーが駆け寄ってきた。
「よかった!早めに帰ってこられて。ちょうど今からエクササイズをやろうと思ってたの。早く来て!」
彼女は意気揚々と私の手を引く。私はまだ薬の入った状態の体を動かして皆のいる暖炉の前に歩いた。
「今日のエクササイズは……」チャーリーが手を広げる。「今鞄に入ってるものチェック!」
私は鼓動を早まらせた。
「ズルはなし。私だって見せるんだから」
チャーリーは自分の鞄を前に出す。私は、薬は確か側面に付いたジッパーの中だと思い出し、バレないことを祈った。
「じゃあまずエンジェルから」
チャーリーが促すと彼は、するすると沢山のものを出した。誰のカバンにも
別に怪しいものが入っている訳でもなく、次々と私の番が近づいてきた。
「サベラ! あなたの番よ」
全員私の方を見ていた。私は出すのを躊躇っていたが、ニフティがちょこちょこと走ってきて、私の鞄を漁り始めた。
「スマホ、お財布、うわぁ何これ! 風船?」小さなニフティにはまだ分からない。「チョコレート、それにキャンディ!」
私は彼女の確認はもう済んだと思い、鞄を取り上げようとしたが、ニフティは詮索を続けた。薬の入った場所が開けられ、それは露になる。
「細長いストローみたいなのに、お砂糖?」
ニフティは首を傾げる。場の空気が固まる。
「ちょっと返して!」
私は大声を上げてニフティの手からそれらを取り上げた。チャーリーやヴァギー、エンジェル、それにハスクらと目が合う。彼らはそれぞれよく分からない感情の顔をしていた。
「……ごめんね、私どうしてもやめらんなくって。何が心が埋まるようなモノがここにはある訳でもなかったし。バーのお酒も、みんなも、私の気持ちを埋めてくれるものじゃなかったの」
下を向いたまま訳の分からないことを言った。彼らの視線が突き刺さる。このまま、昔みたいに行き場を失ってしまうのか。何も知らなかったあの頃みたいに傷付いたまま、誰にも相手にされなくなるのか。
そんなことを考えていると、チャーリーが前に進み出た。
「ねぇ、どうか自分のこと責めないで。そうよね、続けてきたものって中々やめられない。それに良い印象を持ってたら尚更……。私の方こそ貴女に負担をかけてしまってたんじゃないかしら。無理矢理過ぎたわよね、ごめんなさい」
私は、自分が悪いのにも関わらず相手が謝ってくるのに心底驚いた。
「なんで怒らないの……?」
「怒るったって、何を?」
ヴァギーが加入する。私は足から崩れ落ちるように地面にぺたりと座り込んだ。
許せるのは、あなた達が優しいから。私はその優しさに漬け込んで、またいけないことをする。どうして私をそうやって許すの?
「……めて」
「え?」
「……やめて」
私はそう言い放つと、鞄を奪い返して自分の部屋へと走った。
「……っ」
走っている間は、声を殺して、目から溢れ出る涙を堪えた。
それから部屋に着くと、扉を勢いよく閉め、扉にもたれかかって子どもみたいに泣いた。
なんで、なんで、なんで。許されていいはずがないのに。
スマホが鳴った。ヴァルからの連絡だ。恐る恐る開いてみる。
『I recently hired some cute new sluts to work with me. They are fuckin’ awesome, why don’t you come my room? We’re going to start drinking now.
(最近新しい子たちを仕事に入れたんだ。サイコーだぜ、お前も来いよ。今から景気付けに飲むからさ)』
涙を拭って返信する。
『I’d love to, but not now. Sorry, darling…
(とっても行きたいんだけど、今は無理かも。ごめんね、ダーリン)』
すぐに既読がつく。何も返信は来ない。
私はスマホをドレッサーに置き、そのままベッドに倒れ込んだ。
「あーあ、つまんねぇ。お前らにアイツを見せてやりたかったんだがな」
ヴァレンティノはスマホをソファに投げ捨てて、新人たちのほうに向き直った。
「まぁ、今日は俺らだけで楽しもうぜ。ほら、何するか分かってるだろ?」
コメント
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valが怒らずに認めた?!愛されてる証拠ダァ?!?!そしてカバンの中を見た瞬間眉が自然に下がったり甘いもの入ってて可愛かったりと表情筋がめちゃ動きました⭐︎valの口調がvalらしく作られててめちゃ好き…!!!!