私事で更新が遅くなり、待ってくださっている皆さんには申し訳ないです。これから更新がこのペースになるかと思いますが、ご了承ください。
脳のオーバーヒートを起こしてしまった💡。体調不良。機械ifではありません。
嫌な人は回れ右。ご本人様とは関係ありません。
「こっちか…」
凩に震えながら病院に向かう。どうやらカゲツが怪我をしたらしく、検査も含み入院をすることになったらしい。その日予定の無かったライはカゲツのお見舞いに行くことを即決した。
しばらく歩いて部屋まで行くと、意外にも明朗な忍者が幽天を眺めていた。
「あ、ライ。来てくれたん」
「うん、なんか意外と元気そうだね」
「まあね。なんかでも結構入院せなあかんらしい」
ライは長期入院ということに驚いた。それほどの怪我とは。それでも明るいカゲツに、無理矢理笑顔を作った。
「…そうなんだ。ま、任務は任せてよ。カゲツはしっかり回復してね」
また、また頭痛。ここ最近、高頻度で起こりすぎている。もう瓶の中の薬は半分を切った。その耐え難い頭痛が原因で、いつものようにハンマーを軽々と振れないほどの情けない有様である 。
それでもカゲツの任務の範囲の半分までをも担っているライは、カゲツにああ言った以上、全て完璧にこなしたかった。
西の拠点にまだ忍者の姿はない。いつも騒がしいここも、一人一人の仕事量が増えた今では静寂が響いていた。
ライの体はいつも以上に思うように動いてくれず、いつも進んで行う機械の整備も後回しにしてしまった。頭痛に伴う体のだるさ。ライは久しいこの感覚を知っている。体温計を棚の奥から引っ張り出す。
ピピピ、という溌剌とした機械音。それを見れば、所謂微熱とされる体温が表示されていた。思い当たる節があり、休むべきだというのは十に承知だった。それでも、多量の任務要請がくる中、ライの責任感は軽い体調不良では休ませてくれなかった。
「…オレが、がんばらないと」
「おい、ライ行くぞ」
この響く低音は聞き馴染みのある白狼の声だ。
そうだ、今日は一緒にパトロールに行くんだった。
「うん、行こ」
今日も変わらない頭痛と、立ち上がった時の目眩。上手く誤魔化せただろうか。
KOZAKA-Cは最近活発化しており、会議によってパトロールの強化を指定された。Dyticaは西でも強いヒーローとして知られているため、パトロールだけでなく任務量も各々増えていた。
東に比べ現代化の進んでいない西では、機械を使った襲撃は対応が難しく、主に駆り出されているのはライだ。それが最近多い事も含め、ライは休むことを躊躇するようになってしまった。この体では動くだけでもしんどはずなのに。グルグル巡る思考を遮るように肩を軽く叩かれる。
「ライ、あれ迷子じゃね」
「ほんとだ、ロウ行ってきなよ。オレあっちの方行ってくるからさ」
「いやお前が…」
「ほら行った行った!」
無理矢理ロウに任せたライはまた歩き出す。本当なら行きたいところだが、一瞬の耳鳴りを境に目眩が酷く、まともに話せる気がしないのだ。座って休まないと。そう思った時点で遅かった。意識はあるのに、90度、視界が転ぶ。
「ッは、っ?」
息が整わず、ずっと肩で息をしたまま立ち上がれない。焦りの気持ちだけが募り、うまく考えが纏まらない。鼓動が頭まで伝わって早く起きろ、とライを急かす。
そうだ、早く立ち上がらないと。
力を振り絞って体を起こす。まだ動悸は収まらなかった。足音が近づいてふと後ろを振り向く。
「送ってきたぞ、お前押し付けやがって」
「…あ、ごめんごめん!」
ロウは無表情ながらに少し驚いた顔をした。珍しく焦りの漏れた表情で駆け寄られ、ライにまでそれが移りそうだった。 綺麗な瞳が近づく。
「何で泣いてんだよ」
親指で頬を拭われる。
ライは全く自覚も無く、この涙はいつから出ていたのだろう。何で_。何も分からないけれど溢れる雫は止まらなかった。心配そうに見つめられ、ライは焦るばかりだった。
しっかりしないと、あぁ、だめだ、休まないと、でも休んだら。
ぼやける視界と静かな嗚咽。ライには自分が泣いている理由はまだ分からなかった。
「退院早くね?」
「うん、なんかもういいらしい」
「そうなんですか、まあ良かったです」
カゲツが退院し、また今まで通りの管轄に戻るようだ。既にいくつかの任務を終え、疲労困憊のライはそんな会話を静かに聞いていた。
まだあの時から、しっかりした息抜きはできていない。だから今日は任務が終わり次第休むつもりだったのだ。カゲツには申し訳ないが、限界を通り越しているライは今すぐに寝てしまいそうだった。せめて自室で、と眠気と戦いながらも残る理性が訴える。
立ち上がった瞬間、また前と同じように視界が傾く。目眩がいつもより酷くてバランスを崩してしまった。床とぶつかる鈍い音が拠点に響く。視界の端で三人の驚いた視線がライを突き刺す。
早く、早く立たないと。笑顔で大丈夫、って言わないと。
心臓の音がうるさくて自分の呼吸すら遠く感じる。笑顔を作る余裕なんてもう無い。表情どころか体を動かす力が湧かない。
この数秒、一瞬の静寂を破り、初めに動いたのはロウだった。ライの額に手を当てると、鋭い感覚を持つ白狼は気付く。ロウは鋭い目つきでライを見た。
「お前熱あるだろ」
「ぁ、」
気付かれてしまった、ひたむきに隠した体調不良。喉から漏れ出た喘ぐような声。
なんでこんなに頑張ってたんだっけ、なんでオレは。
今までせき止められていたマイナスな思考は焦りと共に涙となって溢れ出す。三人は先程より驚いた表情を隠さない。
「ご、めん、っ…は…」
震えたか細い声しか出なくて、それがまた三人の不安を煽る。ショウが体温計を取って、ロウが脇に無理矢理挟んだ。しかしまだカゲツは理解が追いつかない様子で、ライを見つめるだけだった。しばらくして機械音が鳴ると、ロウが素早く取った。
「…今日はもう寝ろ」
二人がロウの持つ体温計を覗き込むと、同じように顔を顰めた。
涙が床を濡らす。まだ力が入らなくて、立ち上がることはできない。今日はカゲツが退院する嬉しい日だったはずなのに、その雰囲気を壊すように倒れてしまった。申し訳なさや罪悪感、ライは思考を止められずに息苦しく感じた。
「なぁライ、もしかして立てん?」
「…うん、力入んない…」
そう言ったところで、カゲツがライを背負って立ち上がった。カゲツはライと大して体格も変わらず逆に心配な気持ちが芽生えたが、歩き出すと意外にもがっしりとする背中は安定していて心地良い。優しい背中で、安心するようにライは目を閉じた。
「っは〜…マジこいつ… 」
「やぁっと寝てくれたぁ〜…」
安堵と疲れのため息を漏らす。ロウはライの体調不良に最も早く気付き、最もその対応に手を尽くした。Dyticaとして共にヒーローをして、ライのここまで心身弱った姿を見るのは初めてだった。恐らくそれは全員同じであろう。こちらまで不安になってしまうような、壊れた泣き方に動揺を隠せないのは無理もない。今度は最初から、安心させなければ。
「ライの部屋まで行ったらいい?」
「うん、で、誰か一人は絶対ライの傍いて」
今の不安定で危うい彼を一人にさせるほど、大切な仲間に対して無関心ではなかった。
カゲツの背中で揺れる彼はロウにとって幼く、小さく見えた。
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