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次の日、生徒会室では口を開けたままのメンバーが、黒板に書かれた集計結果を見て口を開けていた。
「おいおい。どんでん返し過ぎるだろ……」
結城が呟く。
「ダークホースとはまさにこのこと……」
清野も眼鏡をずり上げる。
「そんなこと言っちゃ失礼よ……」
加恵もチョークを持ったまま固まっている。
「は、発表します」
結城が小さく咳ばらいをした。
「2024年度、ミスター宮丘コンテスト、優勝者は、261票を獲得した、諏訪君です!拍手!!」
日が傾きかけたオレンジ色の生徒会室に結城の拍手だけが鳴り響く。
「………おい。拍手しろよ」
諏訪は隣で茫然と黒板を眺める右京を睨んだ。
「あ、悪い。計算してた……」
言いながら右京が黒板を見つめる。
1位 諏訪 261票
2位 蜂谷 138票
3位 永月 136票
4位 右京 48票
「サッカー部全員が永月に入れたとして、他は16人しか入れなかったってこと?」
「そうみたいだね」
結城はふうとため息をついた。
「アンチ永月の女子達からさ、通告があったわけよ。永月にだけは入れるな。ついでに永月と仲良しの右京にも入れるな。できれば永月をかばった蜂谷にも入れるなって」
「――――」
その話を聞いてまた右京が黒板を見上げる。
「つまり脅しに負けて流れた票がそのまま諏訪に入った?」
「もともと野球部の80人という固定票もあったとはいえ、一番人気がいなくなって結構ばらけたはずだけどねー。それにしても会長とは違って蜂谷は人気ね」
結城が笑う。
「なんだと?」
右京は彼を睨んでから軽く息を吐き言い放った。
「ま!こちらは公正かつ的確に選挙を運営し、開票しただけなので、結果は結果としてちゃんと生徒たちに伝えましょう。はい、解散!」
皆が立ち上がろうとしたところで、生徒会室のドアが大きく開け放たれた。
「よかった!間に合った!!」
入ってきた人物に皆ぎょっとして目を見開いた。
「永月……」結城が言い、
「くん……」清野が続ける。
「―――か、開票結果なら捻じ曲げられませんよ!」
諏訪の陰に隠れながら清野が言う。
「身から出た錆でしょうよ!恨みっこ無しだよお!」
諏訪の後ろに回りながら結城が言う。
「開票結果……?ああ、それか」
永月は黒板を振り返ると、ろくに確認もしないで視線を戻した。
「いいんだよ、そんなのどうでも!」
言いながら一直線に足を進め、口を開いたまま座っている右京に近づいてくると、その細い腕を掴んだ。
「あ、おい…!」
諏訪が立ち上がったところで、永月は右京に言い放った。
「右京!一緒に帰ろう!」
「―――は?」
「………え?」
「―――それって」
「――――どういう?」
生徒会メンバーがそれぞれの頭上にクエスチョンマークを浮かべる。
永月は2日前まで浮かべていた爽やかな笑顔で右京を見下ろすと、今度は彼の掌を両手で掴んだ。
「俺、女とかもうこりごり!お前さえいればそれでいいんだっ!」
「はあ?」
諏訪が片方の眉を吊り上げる。
「愛してるよ!右京!!」
その華奢な体を永月が抱きしめる。
「―――お前!!寝言は寝てから言え!!」
諏訪が怒りながら永月を引っ張り、
「不純交友はんたーい」
清野が呟き、
「せ、先生呼んでくる?」
加恵が焦り、
「そうね?お願いできるかな?死人が出る前に!」
言葉とは裏腹に結城が写メで撮る。
「……………」
右京は一気に騒がしくなった生徒会室の真ん中で、黒板に書かれた【蜂谷】の文字を見上げて、ため息をついた。
◆◆◆◆◆
それと時を同じくして、校門の前に一人の男の姿があった。
「……宮丘学園高等学校。ここだな」
男はまだ煌々と照明のついている生徒会室を見上げ、
「右京、賢吾……」
確認するように呟き、ふっと鼻で笑った。