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62 - 第62話 三校合同模試バトル

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2024年09月15日

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「あれ?来月だっけ?模試バトルって」


結城がシャーペンを鼻と唇の間に挟みながら言った。


「学園祭も終わり、ミヤコンも終わり。もう受験まっしぐらって感じですよねー」


清野も蛍光ペンのキャップを閉めながら言う。


「そろそろ遊んでる場合じゃないよねー」


言いながら加恵が世界史の年号カードを捲る。


「――――」


誰からともなく、冷房をガンガンに効かせながら、換気のために窓を開け放った生徒会室から、夏の空を仰ぎ見る。


「………平和だな」


バンと大きな音が響いて、生徒会室の扉が開いた。


「俺は全っ然、平和じゃないっ!」


右京が鞄を振り回すように駆け込んできて、そのすぐ後ろから永月が追いかけてくる。


「なんだよ、右京!一緒に帰ろうって言ってるだけだろ…!ついでに俺の家に寄って、勉強しようよ!もうすぐ模試バトルだろ!」


生徒会室の長机を盾に永月から距離を取ろうとする右京が、永月を睨み上げる。


「なんだ模試バトルって!それにお前、推薦で大学行くんだろ!成績関係ないんだから、サッカーの練習に勤しめよ…!」


「えー、冷たーい。ある程度は成績も関係あるんだよ?」


「じゃあ勝手に一人で勉強しろよ…!お前の部屋に行くのは危険すぎるから嫌だ!この間もうっかり帰りの時間が被っただけで、家の中に引きずり込まれそうになるし……!」


「……ああ。あんときか。なぜかあの日、気づいたら玄関に転がってたんだよねー」


笑いながらも永月は長机を回りながら右京との距離を詰めていく。


「思いっきり立場が逆転してる……」


加恵が2人を唖然と見つめる。


「永月君ってあんなキャラでした?」


清野が結城に顔を寄せる。


「もともとどんなキャラだったのか、思い出せない…」

結城が呆れてため息をつく。


とそのとき、


「いい加減にしろっ!」


諏訪が永月の新しいユニフォームの襟首を掴んだ。


「サッカー部、グラウンドで待ってるぞ!大事な時期に部長が恋にうつつを抜かしてどうする!」


「恋も勉強もどっちも大事だよ!ね?右京!」


永月が諏訪に掴まれたまま手を伸ばす。


「俺に振るな!第一俺はお前とは恋愛する気はないっ!」


窓際に追い詰められた右京は青ざめたまま仰け反った。


「じゃあ誰と恋愛する気なんだよ。他に好きな人とかいるの?ついこの間まで俺に夢中だったくせに!」


永月が両手で宙を掴む。


「お、お前には関係ないだろ……!」

ますます仰け反った右京は窓枠に手をついた。


「――あ、会長」

結城が立ち上がる。


「今、換気中……」

清野も口を開ける。



右京は開け放たれた窓に向かって背中から傾いた。



「……うわ……!」


その手首を諏訪が引っ張った。


「……たくっ!危ねえな…!」


「――――!」


体勢を戻した右京が慌ててその腕をひっこめる。


「…………?」

諏訪がきょとんと右京を見つめる。


「さ、サンキュー」

右京は目を逸らしながら、きまり悪そうに頭を掻いた。


「………え。待って」

そのやり取りの一部始終を見ていた永月が右京を睨む。


「もしかして、諏訪?」

「は?」

振り返った右京に永月がまた近づく。

「ダメだよ、こいつは!ただの筋肉馬鹿だろ!」

「おい……」

諏訪が睨む。


「セックスだってド下手だよ、きっと!」


「――――え」

「…………げ」

清野と結城がドン引きする。


「ねえ、右京。悪いことは言わないから、俺と―――」


「さっさと部活いけ!!」


業を煮やした諏訪が永月をつまみだすと、生徒会室は再び静寂に包まれた。



「……嵐は去ったか」

結城が小さく呟く。


「これで模試バトルの勉強ができますね」

清野も眼鏡を直す。


「―――模試バトルって?」


右京はテキストに視線を戻したメンバーを見下ろした。


「そっか。右京君は初めてだもんね」

加恵が顔を上げた。


「この地域の伝統で、志望校を決めるこの時期に、大々的に付近の進学校を集めて、合同で模擬試験をするの。上位20位までは個人名も発表されて、表彰式まであるのよ」


加恵は微笑みながら言った。


「宮丘学園を中心にして、北側にある松が岬北高等学校と、西にある城西高校の三校で行われるの。毎年3年生を中心に、結構盛り上がるのよ」


「へえ」


右京は結城が持っている『夏からでも間に合う!必ず志望大学に入れるテキスト!』と書かれた参考書を見つめた。


「会長は1位狙えるんだから、頑張ってくださいよ」

清野が眼鏡をずり上げながら言う。


「もし1位を取ったら、宮丘学園設立以来の快挙ですからね」


「―――ふーん」

右京は興味無さそうに唸っただけだった。


「ところで会長は」

結城が視線を上げる。


「どこの大学目指してんの?」


「――――」

右京は結城の顔を見つめた。


「?」

結城もその大きな目を見上げる。


「―――いや、実はまだ決まってなくて」


右京は苦笑いしながら、自分も加恵の隣に腰を下ろした。


「とりあえずはセンター試験目指してがんばろっかなっ!」


言いながら筆入れを取り出すと、自分も鞄の中から数学のテキストを取り出した。


「あ、やった。右京君!私、数学で聞きたいとこあったのー」


言いながら加恵が嬉しそうに椅子を寄せる。


「え、どこ?」


「微分積分なんだけどー」


諏訪は嬉しそうに顔を寄せる加恵と、唇を少し窄めながらテキストを覗き込む右京を交互に見つめ、小さく息を吐いた。



「諏訪君。もう十分換気したから、窓閉めてくれます?」


清野が諏訪を見上げる。


「あ、ああ」

諏訪は窓枠に手をかけた。


と、昇降口から蜂谷と尾沢が並んで出て行くのが見えた。


蜂谷が尾沢を振り返り、珍しく笑っている。



あの事件以来、右京と蜂谷が話しているのを見たことはない。


それは右京と同じクラスである永月が、朝夕問わず彼を追い掛け回しているせいでもあるが、蜂谷が右京に接触しないように避けているせいでもあった。


願わくば―――。


このまま右京と距離を置いてほしい。


蜂谷は公私ともに目立つ存在だ。

それゆえ敵も作りやすい。


今は仲良くしているが尾沢だっていつ反旗を翻すかわからない。

さらには学園祭に乱入してきた見るからに危ない男たちだっている。


このまま近づかないでほしい。


振り返り、右京を見下ろす。


彼が山形に帰るまで―――。



◆◆◆◆◆


あ。もしもし。私です。


はい。毎日見張っているのですが、仲のいい同級生が二人いるみたいで、いつもそのどちらかと一緒に帰ってまして、なかなか一人になる機会が……。


いえ、そうではなく。


1人はサッカー部のエースで、もう一人は生徒会の副会長しているみたいです。


ええ。難しいです。二人ともガタイがいいので。彼らの目の前でことを起こすのは困難かと……。


そうですね。

必ず一人で下校する機会はあると思いますので、引き続き張らせてもらいます。


ええ。わかっています。


今後一人になる機会があれば。



手筈通りに、右京賢吾をお連れします。





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