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だけど、よくよく考えてみると、この男……私と別れてからも色々な女の子と付き合っていたわけで、そんな中で私が良かったとか言われても何だか嬉しくない。
私は、誰とも付き合って来なかったのに。
「馬鹿みたい。そんなこと言われても全然嬉しくないし。そもそも別れることになったのだって大和が浮気ばっかりするからじゃん。それなのに何被害者面してるわけ? 自分のせいじゃん」
何だか心がモヤモヤしてきた私は怒りに任せて今の気持ちをぶちまけていく。
それを、大和は言い返すことも無く聞いている。
「――そうだよな、俺が全部悪いんだよな……ごめん」
「……っ」
大和は、いつもそう。
そのときは本当に反省していて心から「ごめん」を口にしているのかもしれない。
でも、すぐに忘れちゃう。
そしてまた同じ過ちを繰り返す。
それに気付かなければ何も変わらないのに。
「……大和はさっき、私と別れてから誰と付き合っても私を忘れてない、私じゃなきゃ駄目って言ったけど……本当にそう思ってるなら、誰かと付き合えないと思う。例え、忘れる為だったとしても……。私は、付き合えなかったよ。大和以上に好きになれる人に出逢えなかったから。でも、もういい。私も新しい恋に、目を向けるから」
「和葉、ちょっと待って――」
「離して! 私はね、大和のこと、本当に好きだった。好きだから、浮気されても許した。でも、やっぱり私は、私だけを一途に想ってくれる人と、一緒になりたいから……大和とは、無理だよ。それじゃあね」
「…………っ」
今度こそ、大和を忘れて前に進む。
そう決意した私はそれをはっきりと大和に伝えて店の中へ戻って行った。
「すみません楠木さん、お待たせしてしまって」
「あ、和葉ちゃん。ううん、それはいいけど……話、終わったの?」
「はい」
「そっか。けど、元カレはまだ何か言いたそうな雰囲気だよ?」
店に入り先輩の元へ戻って行くと、私から少し遅れて大和も再び店内へ戻って来ると、離れた場所からずっとこちらに視線を向けてくる。
「いいんです。私はもう、話すことがないので」
「そっか。けど、あれだと落ち着かないし……和葉ちゃんさえ良ければ俺の家で飲み直さない? ここから結構近いんだよね、俺の家」
「え……っと……」
「駄目かな? まあ、二人きりで飲みに誘った段階で気付いてるかもしれないけど、俺、和葉ちゃんに気があるんだよね。だから、もっと知りたいなって思ってる。誰にでもこんなこと言わないし、家にも誘わない。本当だよ?」
楠木さんに見つめられながら気があることを伝えられて、正直戸惑った。
確かに、誘われた時点で何かあるというのは何となく分かるし、先輩だから断りにくいというのも理由の一つだったけど、楠木さんのことは良い先輩だと思っているから、誘いに乗ったところもある。
勿論、職場での彼しか知らないから実際のところどういう人かなんて分からない。
もしかしたら、大和みたいな浮気男だったりするのかもしれない。
でも、
それを知るにはもっと距離を縮めなければ何も始まらないわけで、
大和を忘れる為にも、
新たな恋をする為にも、
自分から歩み寄ることが大切だと思う。
「……あの、でも、いきなりお家はちょっと、ハードルが高いなって思ってて……もし楠木さんが嫌じゃなければ、別のお店で飲み直しませんか?」
ただ流石に付き合ってもいない異性の部屋に行くのは無理なので、別の店で飲み直すことを提案すると、
「――分かった。それじゃあ、とりあえず店変えよっか」
快く頷き、店を変える為に席を立った。