煌めく世界の片隅で
現在から約100年前。人類の技術は進化していた。例としては、クローン技術で人々の病気が治り、人間の排泄物で発電ができる。そして技術の進歩のおかげか、人の生活は豊かになっていた。
買い物は脳チップやDNAスキャンで済ませ、街の中には監視カメラのようなスキャナを設置し、脳チップで誰が何処にいるのか瞬時にわかるため、犯罪も年々減少していた。
そして、中でも特筆すべき技術がある。
「ラヴ、先日開発されたワープゲートの技術について、話を聞いてもいいか?」
「授与式があるんだ。手短かに願う。」
ラヴは誇らしげに新聞記者へ技術がいかに画期的かを事細かに伝えた。
「このポットはワープさせたい物を入れると転送先に送られるんだ。初めに姿形を。次に細胞を。それから分子構造をコンピュータにインプットするんだ。」
「それをインターネット回線から転送先に送るのだね。」
「そうだ。ワープゲートの仕組みである。」
ラヴは一躍、時の人となった。しかしワープゲートでの人の転送は実験段階であった。
猿での転送は成功していた。それでも人となると手続きが必要で、実験を始めることができなかった。海外の科学者に先を越されるのを恐れたラヴは、内緒で自分を使い、人体実験をやり始めた。
結果は大成功。ラヴはすぐさま実験結果を世界に公表した。世界中の賞を得て、人間用ワープポットを作る会社との契約も決まり、世界で8番目の大金持ちとなった。
後日、ラヴは交際相手と結婚し、子宝に恵まれ、仲良く、幸せに暮らしていた。
何ヶ月か経過し、人間用ワープゲートが発売前日のこと、ラヴは車で景色を眺めながら感傷に浸った。
「この街も趣味の人以外は車を使わなくなるんだろうなぁ…。」
ラヴがベンチで景色を眺めていると。
「やっと一人きりになったな…」
後ろからの突然の声に驚き、ラヴは腰を抜かした。
「この時を待っていた、お前が一人になるこの時を。」
ラヴは、この謎の人物に見覚えがあった。初めに、人間用ワープポットの発表会。次に賞の授与式。それから家族との旅行先。様々な場所にこの人物がいた気がしていた。
「お前は誰だ。」
「私はお前の影だ。お前に全てを奪われた影だ。お前は逃げられない、お前の考えは全て分かる。なぜなら私は…」
「私はお前だからだ。」
謎の人物がマスクを外すと、ラヴの視界に現れたのは、自分と全く同じ姿をした人物だった。何故ラヴが二人いるのか。原因は、ラヴの実験にあった。
ワープポットでは、転送が途中で止まるとポットの中の物がバラバラになってしまうため、エラー対策のため、途中でエラーが起きたときは転送先のポットのプリントを中止し、元のポットの中の物を生き物だけ元に戻す仕組みになっていた。 しかし自分での人体実験のとき、誤作動が起き、転送は成功したが元のポットにも復元してしまった。
よって目の前の自分とそっくりな人物は、ワープポットの誤作動で消えなかった、転送前のドクターラヴ、つまり元ドクターラヴだった。
緊急復元プログラムは、生き物だけが復元されるため、脳チップも復元されなかった。脳チップが無いと、買い物も。電車に乗ることも。病院に行くことも叶わなかった。
何も出来ない、社会で存在しない生き物となった元ドクターラヴは、橋の下でお店から盗んだ食べ物で生活していた。その苦しい生活とは違い、転送後のラヴは、本当は自分が生み出した筈のワープポットで脚光を浴び、自分がする筈だった幸せな生活を続けている。
元ドクターラヴは激怒した。復讐を考え、もう一人の自分を殺し、脳チップを取り返す計画を立てた。
そして今、その時が来た。
「お前のせいで私がどんな思いをしてきたか。今のお前の幸せは、私がやってきた研究のおかげなんだぞ…」
「な、何を言っているんだお前は…?」
「お前が私から奪った物を返してもらうぞ…」
それから何日か経ったとき、人間用ワープポットの発売記念パーティーに、ラヴも出席していた。このラヴがどちらのラヴかを、知る人は誰もいなかった。
そしてワープポットは大量に生産され、世界に散らばった。ラヴに起こった、不具合を残して。
コメント
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ラヴが残した、不具合は何で起きたかはわからないけど、興味深い話になっていた、最後のミステリー感は、考察の余地がありそうだと、思った