(いや…違う)
元相棒に似た人を見つけ、少し動揺してしまう。
「いるわけ…ないよな。こんなところに。」
いつの間にか期待していたらしい。少しがっかりしてしまった。
「…うっし!始めるか!」
準備運動を終え、人がたくさんいるサッカー場の隅でサッカーをする。
体は覚える。というのは本当だということを実感する。 正直、こんな場面で実感するなんて思わなかった。
「…キョロキョロ」
1人なのに、自然と仲間を探してしまう。これも体が覚えているのだろうか。人体とは不思議なものだ。
「おにーちゃんっ!サッカー上手だな!」
1人の子どもが尊敬するような、嬉しそうな顔をして話しかけてきた。
「ありがとう。そう言ってもらえてお兄ちゃん嬉しいよニコッ」
そう言い、その子の頭を軽く撫でた。
「へへっ!なーおにーちゃん、俺らと一緒にサッカーしようぜ!」
サッカーの誘いを受けるとは思ってなかったから、少し驚いてしまった。
「ダメ…かな」
驚きが顔に出ていたのか、断られるのかと肩を震わせている。
「…ううん。いいよ。やろっかニコッ」
不安にさせてしまったお詫びも兼ねて、一緒にサッカーをすることにした。
「…!わーい!あのねあのね!赤い髪のおにーちゃんもねっ!いるんだよ!」
そう言う子どもに、少し疑問が浮かんだ。
(赤い髪…?…まさか…)
「ねぇ君、その赤い髪のお兄ちゃんって、髪の毛が長くて、左側に編み込みをしてるお兄ちゃん?」
どうしても気になってしまい、子どもに聞く。
「わぁっ!すごいね!なんでわかったの?」
どうやら、当たっていたみたいだ。
「そのお兄ちゃんね、俺のお友達なんだニコッ」
「へぇー!そーなんだ!じゃあ早く会わせてあげる!!早く早く!!ニコニコ」
そう言って男の子は俺の方を見ながら、俺の手を引っ張って走り出した。
「危ないよ!」
と注意しても、
「へへっ、大丈夫だよー!!それより早くおにーちゃんたち会わせてあげたいの!」
と言って聞かない。それでも、これくらいの子はそれがかわいいものだ。
「うわぁっ!」
そんなことを思っていた途端、子どもと俺の体が大きく傾いた。転んでしまったのだろう。
(やばい…子どもまで怪我させちまう…)
そう思った瞬間、赤いものが目の前を通った。
「あっぶねぇー…大丈夫か?めぐるくん、」
間一髪だ。ギリギリで受け止めてくれた人は、見覚えがある奴だった。
「そして…久しぶりだな、潔。」
「ああ…久しぶり。千切」
千切豹馬 同じく22歳で、驚くほどに足が速い。
元ルームメイト、元ライバルって感じの仲だ。
「まさかこんなところで再開するとはなー…蜂楽とは、どうだ?」
「…」
「…そうか、悪かったな。」
俺が答えられずにうつむくと、あっちも気づいたみたいだ。
「…?おにーちゃんたちどーしたの…?元気ない…?」
不安そうに俺と千切の顔を覗き込む。
「ううん!なんでもない。そうだ!君の名前教えてくれる?」
そういえば名前を聞いていなかったことに気づき、名前をたずねる。
「俺!めぐる!廻って漢字!」
それを聞いた千切と俺の顔が引きつる。でも、めぐるくんに心配をかけさせるわけにはいかない。
「めぐるくん!すてきなお名前だねニコッ」
「えへへっ、俺も気に入ってるの!だってかっこいーし!」
子どもらしい理由に、頬がゆるむ。
「それに…お母さんがつけてくれた一番最初のプレゼントだもん。お気に入りだよっニコーッ」
無邪気な笑顔に目を奪われる。
「あ!おにーちゃんたちのお名前も教えて!」
今度は俺達にたずねてくる廻くんに、俺は笑顔で答える。
「俺は、潔。潔世一だよニコッ」
「俺は千切豹馬。覚えてなニコッ」
同じく千切も笑顔で答えた。