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2.やっと見えたあいつ
「…潔ぃ…?」
「あ、起こしちゃった?ごめん。」
目が覚めるとベットの上には潔はいなかった。
上半身を起こすと目の前で潔がパーカーを着ているのが目に入る。
「早いな、どっか行くの?」
「ん〜、まぁ。一応メモ残したんだけどお昼ご飯外で食べてくるね」
「凛?凛のところ?期待、期待」
「なんで期待なんだよ笑」
潔は手慣れた手付きでカーテンを勢いよく開けた。
眩しい光が窓から差し、俺を照らす。
「今日は凛のお兄ちゃんに会ってくる。」
リビングから帽子を二つ持ってきて潔は俺に見せてくる。
「どっちがいいと思う?パーカーが黒だから帽子も黒で統一させるべきかな?」
珍しく潔の声がワントーン高く聞こえた。
昨日の夜も中々寝なかったわりには夜中に泣きもしなかったのは楽しみだったからだろう。
「黒のほうがいいと思う。」
「やっぱそうだよな!!やば、時間」
「どこまで行くの?」
「ん〜、電車で隣町まで出かける。」
潔は鏡の前で帽子を脱いだら被ったり繰り返しながら髪を整えている。
「じゃあ行ってくる!」
潔がソファの上に置いてあった鞄を手に取って玄関へと向かおうと動く。
無意識のうちにベットから起き上がりスリッパを無視したまま潔へと向かう。
そのまま離れていく潔の背中に飛びついた。
「楽しんできて、遅くなってもいいから。帰ってこいよ。約束、約束。」
「…黒名、大丈夫。もう1人にはさせない。」
潔は優しく俺の手を振り払うと扉を開けて出て行ってしまった。
玄関の扉が閉まる音と一緒に俺もしゃがみ込む。
「潔…」
俺は、潔が好きだ。
好きで好きでしょうがなかった。
もう誰にも渡したくなかったはずなのに、今の俺には潔を幸せにする覚悟がなかった。
今の俺に足りないものを理解できなかった。
そんな時、ふと潔のスマホが見えた。
玄関で靴を履き替える時に横に置いたまま忘れて行ったのだろう。
電話もできないし、走っても今頃電車に乗っているだろうか。
混乱していると潔のスマホが着信音と一緒に振動した。
携帯画面には糸師冴の文字が映っている。
「…糸師、冴。」
またも無意識に自分の指は応答ボタンを押していた。
「ん。」
『潔かお前…?』
「違う。黒名蘭世。」
『あぁ、潔と一緒に住んでるやつか。まぁいい、潔は?今どこにいる。』
「それより先に教えて欲しい。………?」
『何するつもりだ。』
この選択が間違っていてもいい。
後悔したくない。もう一度潔に笑ってはほしい。
その為にこの男、糸師冴を潰す。
潔にはもう泣いてほしくないから。
「やっと来た。……。」
「本当に何のようだよ。サッカーしてぇなら他をあたれ。」
「俺は、潔世一が好きだ。だからライバルだな。糸師凛。」
「あ”?潔のことなにもしらねぇ癖によく喋る口だな。二度と顔見せんじゃねぇ。」
「これ、潔の寝顔。これは潔とネトフリ三昧した日の感動して泣いた潔。これは…」
俺のスマホを奪い取り机に伏せると自身のスマホから写真を見せてくる凛。
「イルミネーションの時、ハワイに行った時、初めて手繋いだ時、初めて…」
「…でもそれって全部過去でしょ。じゃあ俺にとっては価値なんかない。」
俺の言葉に凛の表情が更に曇った。
凛は決心をつけるようにため息をつくと椅子を引いて俺の正面に座る。
「何が目的だ。今更何がしたい。」
「話が早い。助かる、助かる。 」
待ってて、潔。