「レイバレットが効かない……」
射貫いたはずの鐘は、まるで邪教騎士の鎧のようにこちらの魔法を弾いていた。
(でもシルフィさんは一撃で粉砕した……魔力自体を弾いているのか?)
つまりあの一撃は純粋な物理攻撃だったのか…聖女とは一体……。
僕はあれだけの物理攻撃手段を持っていない。
さてどうしたものか……。
「……結局コレに頼ることになるのか」
手を上空に掲げ、神力の槍を形成する。
魔力じゃないし、邪教騎士にも通用するのだからこれならいけるだろう。
だがこれが神力だと気づかれるのは危険だ。
さっさと終わらせて次へ行くとしよう。
「シッ――!」
――――放った槍は、風切り音すらなく光の速さで鐘を貫いた。
綺麗に穴が開き、その部分からボロボロと自壊していく――――
……どうやら効果は抜群のようだ。
この調子で残りの4つも破壊してしまおう。
次の側防塔を目指し飛行していると、こちらの進路を遮るように塔の前で空中に浮遊している男がいた。
その身にローブを纏い、杖を持っている。
さらには高い魔力反応を感じたので、こちらも警戒しその場に静止した。
魔法使いか……なるほど、魔法を使える兵がいてもそりゃおかしくないよね。
しかも飛行魔法を扱える者は優秀で、宮廷魔導士レベルと聞いたことがある。
つまりこの人は――――きっと強い。
男の顔ははっきりとは見えない。
だがなんとなく貫禄を感じる。
そして男は長い白髭を弄りながらこちらへと杖を向けてきた。
「ふむ、一見すると小娘のようだが……悪いが加減はせぬぞ」
その言葉に、僕はゴクリと唾を飲み込んだ。
思えば強い魔法使いとの戦闘なんて碌に経験がない。
師匠は……まぁ参考にならないし。
などと考えていると、相手の杖に魔力が集中し始める。
そして……
「風よ…我の息吹を運べ 空よ…我の身を仰げ 天よ…我の声を聞け――――」
すごい魔力……これはきっと非常に強力な魔法を放つ気だ。
やっぱり強い人なんだ……。
詠唱中は一見隙だらけのように見えるが、きっと妨害されないように対策もしてあるに違いない。
だからこうやって僕がスタンテーザーを放っても――――
「――んぎッ!?」
特に抵抗もなくスタンテーザーが命中すると、男は短い悲鳴と共に落ちていった……。
うん…まぁ……きっと油断してたんだな。
じゃなきゃただの隙だらけなマヌケだよ。
僕は油断しないようにさっさと鐘を破壊しよう。
さっと神力の槍を形成し、スッと放って自壊する鐘を確認したら、即次を目指す。
残りの鐘は三つ。
この時、なんとなくだが嫌な予感がしていた……。
「フハハハハッ! 我が最強の盾、射貫けるものなら射貫いてみるがいい!」
次の側防塔の前では、全身鎧姿の男が大きな盾と共に待ち構えていた。
この盾がまぁでかい。
そしてすごく分厚いのが上空からでもよくわかる。
でも金属ならね、電気をよく通すだろうし……。
「雷よ、矢と成り敵を穿て、ライトニングアロー!」
動きが鈍そうだったので、僕は未だ詠唱に頼っている普通の魔法を放った。
もはや油断どころか相手を舐め切っている気がしたが、特に躱されることもなく命中する。
「――ぬぅッ!?」
男は一瞬だけ硬直したものの、倒れるようなことはなかった。
「この程度か……がっかりだぞ小娘」
さらには、やれやれと肩をすくめ落胆していた。
「これが効かないのは厄介だな……」
僕は素直にそう思った。
だってこれ以上強力なものだと、盾どころか鎧まで貫通して殺してしまいかねない。
それはちょっと後味が悪いかな。
かといって普通の人相手に神力の雷を使うのはね……。
「違うな、間違っているぞ小娘。効かないのではない……我にとって痛みとは受け入れるものなのだ」
男はそう言いながら、段々と鼻息が荒くなっていく。
「はぁ…はぁ…だからもっと、我に強い刺激を……はぁ…はぁ…」
「ヒェ……」
これはあれか、図体はXXLぐらいありそうだが、アレの趣向はM的な人なのか。
あまり関わらない方がいいのかもしれない。
僕はそう思い、男が邪魔にならない角度へと移動した。
「あっ、コラ、動くなよ……これ運ぶの大変なんだぞ」
男は悪態をつきながら、のそのそと盾を持ち上げる。
重厚な盾は、僅かに動かすだけでも苦労するようだ。
……なるほど。
待ち構えていたというより、移動そのものが困難なのか。
そういうことなら……
「また元の位置に……あーくそ、盾に滑車でも付けておけばよかった」
こちらがまた移動すると、男はあわてて盾を移動し始めた。
なので、この間にスッと神力の槍で鐘を射貫く。
(よし、これであと二つだな)
自壊する鐘を確認して、僕は颯爽とその場を去った。
「ふぅ…さぁ小娘、そろそろ本気で我を……ん?」
男はその場に立ち尽くした……。
(なんか……変わった人が多いのかな)
次の側防塔へ辿り着くと、その考えが確信に変わる。
「私は帝国一の忍びアゲハ! いざ尋常に勝負されたし!」
塔の前で待ち構えていたのは、黒髪のポニーテールを風になびかせ、忍び装束を身に纏う女性だった。
仁王立ちで待ち構え、強気な表情でこちらを指差している。
この世界にも忍者っているんだなぁ……。
……いや、忍者なのか?
「忍びって堂々と名乗るものなんだ……」
そのちょっとした疑問が、アゲハと名乗った女の表情を一変させた。
「――ッ! しまった、久々の任務でつい……」
その場で膝を付き、ガクリと項垂れる。
(……もうさっさと次行っちゃおうかな)
そう思い手を上空へ掲げると、サッとアゲハは立ち上がった。
「……名乗ってしまったものは仕方がない。でもこれ以上好き勝手はさせないわよ!」
そう言ってアゲハは背中の忍者刀を抜ッ――――
「あ、あれ? 抜けない……なんでぇ?」
アゲハは何もかもうまくいかず涙目になり始めた。
これが帝国一の忍びか……。
「よし! 抜けた――って錆びてる!? えぇ……これ今朝廃品回収に出したやつじゃ……。あれ? じゃあ私が捨てたのってもしかして……」
アゲハの顔が見る見る青ざめていく。
そしてこちらへと向き直った。
「……まだ間に合う? 間に合わない?」
僕に聞かれても知らんがな。
でもそれを言っちゃうとちょっとかわいそうな気がする。
「急げば間に合うかも……?」
間に合わなかったらご愁傷様ということで。
「そうよね急げばきっとまだ……。行くしかない……スピードの向こう側に――――
――その瞬間アゲハの姿は消え、遅れて砂煙が舞い上がる。
それはとてもじゃないが、僕の目で追えるものではなかった。
「はっや……」
なんだかすごくドジな忍者だったが、実力は本物だったのかもしれない。
そんなことを思いながら、特に障害もなく神力の槍で鐘を射貫いた。
そして辿り着いたのは最後の側防塔。
もちろんここにも一人の男が待ち構えていた。
「ふふふ……よくぞここまで来た。俺はカザール四天王最強の男、オーネストだ。言っておくが、俺は他の四天王とはわけが違うぞ。他のやつらは所詮数合わせの寄せ集めだからな」
そう言って男は長めの両手剣を抜いた。
そして「いつでも来い」と言わんばかりに手招きをしている。
だが、僕が気になったのは別の所だった。
「……四天王?」
たしかに変な人はこれで4人目だけど、誰も四天王なんて名乗ってなかったような?
「しらばっくれるな、カザール四天王だ。他の塔にいたはずだぞ」
「いや…あの……いることにはいましたけど、四天王だと名乗ったのはあなただけで……」
すると、オーネストの顔が赤くなった。
「クソッ、あいつら……ちゃんと名乗れって言っておいたのに」
いやぁ普通は恥ずかしくてそんなの名乗れないよ……あなたは名乗ったけど。
とは口が裂けても言えない。
「フンッ、まぁいい。俺が四天王の本当の強さというものを教えて――――
オーネストは突如膝から崩れ落ちる。
そしてその背後から、本当に強い人が現れた。
「――リズさん!」
「エル、ここで最後か?」
どうやら僕と逆回りしていたリズさんたちと、丁度合流したらしい。
「しかし、ホントにここの兵は練度が低い」
そう言ってリズさんは、気を失っているオーネストを邪魔にならない位置へと放り投げた。
四天王とは一体なんだったのか……。
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