室町——闇と策謀の時代。将軍の権威は揺らぎ、火は各地に燻っていた。霧島家は名門として、独自の立ち位置を築いていた。
屋敷は、杉林に囲まれた隠れ里にあった。そこには、重厚な石垣と、静寂に包まれた庭が広がっている。
風が吹けば、竹林がかすかに鳴る。その音さえ、まるで何かの前触れのように不吉だった。
「……異能演舞が使えなくなって久しいな。」
霧島宗連。当主にして、当代最強の異能使いだ。彼は甲冑姿のまま、太刀を膝に置きながら、庭を静かに眺めていた。
「ですが、父上。噂によれば、畿内のほうで”伝染”が始まったとか……。」
跪いているのは、宗連の長男・霧島連雅。まだ20代半ばだが、すでに一騎当千の者。家伝の双刀「黒風」と「白雷」がいる。
宗連は目を細めた。
「伝染か……。ならば、そろそろ目覚める頃合いかもしれんな。」
異能演舞——その力は、この時代は”神通”や”妖術”と呼ばれ恐れられていた。しかし、発動には条件があった。
長き間、異能が使われぬ時代には、封印されたかのように力を発揮できなくなる。
だが、ひとたび誰かが目覚めさせると、その波は他の異能者にも伝染し、力が覚醒する。
そして、畿内の乱世が、まさにその”時”を告げていた。
「……ならば、我らも動くか。」
宗連はゆっくりと立ち上がる。武者の気迫が、まるで嵐の前触れのように広がる。
その夜。霧島家の精鋭、”霧島十二獣士“が集められた。
「お前たちに命ずる。霧島の名の下に、異能を取り戻す。異能演舞を解き放ち、国を新たに染め上げるのだ。」
十二の獣を象った異能を持つ戦士たちが、一斉に頭を下げる。
——そして、霧島家は、室町の乱世の闇へと、静かに歩みを進めた。
「さあ、”物語”を始めようか……。」
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