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とりあえず一晩のんびり過ごし、夜が明けた。
ヴェレスアンツでも昼夜はあり、空の渦となる雲の色が変わっていく。昼は白い雲に、時間が経つにつれて白から黄、黄から橙へとゆっくり変わっていき、夜には紺、そして黒へと変化。そのまま徐々に明るく灰色になり、昼には再び白くなるのだ。
(変わった空だった。まさか空じゃなくて雲の色が変わるなんて)
家の窓から空を見上げるアリエッタ。
ジルファートレスは巨大な建物だが、上を見上げるとちゃんと空が見える。そこが1階であっても、上を見ると天井ではなく外の空が見えるようになっているのだ。
「不思議です」
「家の中はちゃんと普通に天井なのよ」
同じように空を見ているニオとパフィ。ニオはちゃんとアリエッタから離れて過ごしている。そしてメレイズは、アリエッタをニオから護るようにずっと間に入っていた。
「なんでそんなに警戒してるの……」
「あんな強敵が来ちゃったもん。油断できないよ」
なんとメレイズは、ニオをライバルと勝手に認めていた。
会話が聞こえているニオは、パフィの後ろに隠れて首をぶんぶか振っている。
そんなニオにメレイズは駆け寄り、手を取った。
「ニオちゃん。アリエッタちゃんのお友達同士仲良くするけど、負けないからねっ」
「うちは負けたいです負けでいいですっ」
「むっ、油断させようったって、そうはいかないから。ね、アリエッタちゃん!」
「はいっ」(え? 反射的に返事したけど、何て?)
「なんでぇ……」
しっかり断っているのに、なぜかそこだけスルーされるニオであった。
朝食後、特訓に来ていたシーカー達は足早に家から出ていった。というのも、ツーファンの他にも女性が1人、男性が2人同行していたのだが、女性率が一気に高くなったせいで男性陣がいたたまれなくなり、イディアゼッターと共に玄関で一晩過ごしたのである。ピアーニャは申し訳なく思い、今日は自由にさせる事にしたのだった。
そんなピアーニャは、ネフテリアとイディアゼッターに言われ、ヴェレスアンツの案内をする事になった。
「ゼッちゃんにまかせちゃ、ダメなのか?」
「駄目ですよ。大人なんでしたらちゃんとしてください」
「ぐぅぅ……」
アリエッタを案内すると疲れるが、ここで否定したら大人である事まで否定した事になる気がし、断る事が出来ない。なにより、メレイズがアリエッタと一緒にいられると喜んでいる。そもそもの最終目的がメレイズをアリエッタにぶつける事なので、ここで断ると本末転倒になってしまう気がするのだ。
「はぁ、しかたない。2ソウまでだからな」
「それくらいならば、よろしいでしょう」
安全に守れる範囲までならと、イディアゼッターも行先を承認した。
まずは2階の主要部分である商店街を紹介。ある程度は昨晩話していたので、少し覗いて終わりとなった。
そして1階。
「お、おじょうちゃん達ぃ。はぁはぁ、おぢさんとあっちでイ──」
ドゴォッ
「ブヒイイィィィィ!」
突然寄ってきた中太りのおっさんが、雲の拳によって思いっきりぶっ飛ばされた。
「これだけ見目麗しい女性が一緒にいると、変なのが寄ってきますねぇ」
「アイツ、ゼンインにコエかけたようで、ニオのことみてたぞ?」
「ふえぇぇ……」
「ニオも将来有望だから仕方ないわね」
ニオは儚さを感じさせる可愛らしさなのだ。変質者に狙われる素質は充分にある。
「なによ、アリエッタちゃんも負けてないんだから!」
「いや貴女も充分に可愛いからね?」
これまで沢山の人々を魅了してきたアリエッタは言うに及ばず、メレイズはニオとは正反対で、元気いっぱいな愛らしさである。
ニオは心底望んでいないが、大人達はこの3人で組ませたら、それはもう大変な事になるのではと確信していた。
「エルトフェリアは無敵になるわね」
「なのよ」
「とりあえずファナリア征服しちゃう?」
「なんとも平和的ですね……」
勉強半分で始めた商売が、アリエッタのお陰でライバル不在のまま最先端を進んでいる。既に3カ国が味方になったも同然なので、このままファナリア中をフラウリージェブランドで埋め尽くすのも夢ではないかもしれない。まぁ、そうならないために高値をつけているのだが。
「ふっふっふ。頑張ればエルトフェリアは各国の王族よりも大きな存在になりえるわ」
「それはそれでどうなんだ」
「将来王族から離れそうな王女様がなんか言ってる……」
「テリアはほっといて、あっちいくぞ」
話を戻したピアーニャが向かったのは、中央にある受付である。
ここでは外に出る為の手続きをする。誰が外に出たか、そして戻ってきたかを管理しているのだ。
「1層はある程度命の保証がされているので、やられても戻ってこれる事が多いです。ただしライブを行わないコースは何があっても自己責任となります」
「えっと……」
言ってる事があまり理解できなかったミューゼは、困った顔でピアーニャを見た。
「もうわすれたのか。しょうがないヤツだな。とりあえずついてこい」
「はーい」
ピアーニャはライブありで2層まで行く事を告げた。メンバーはピアーニャ、メレイズをはじめ、ミューゼ、パフィ、アリエッタ、ネフテリア、そしてイディアゼッターとなる。
受付の者も、ヴェレスアンツ初心者が多いんだなと、特に気にも留めようとはしなかったが、手を繋いだちびっこ3人娘を見た瞬間思わず2度見した。そしてちょっと紅潮した顔で見送るのだった。
「なんであんな可愛い子達が、こんなただムサ苦しいだけのリージョンに?」
目の前にいたせいでその呟きが聞こえてしまった圧の強い悪人面の男達が、全員黙って同意していた。
「外に来たよ、アリエッタちゃん!」
「ほあー」(生で見るとやっぱりすっごい雲だなぁ)
案内された出口から外へとやってきたアリエッタ達。目の前には草原が広がり、遠くには森と山も見える。ごく普通の風景に見えるが、遠くではいくつものグループが様々な見慣れない生き物と戦っているのが見える。
「グラウレスタより平和なのよ」
「いやあそこのヘイゲンはオカシイからな? モリのちかくしかキョカしていないだろ」
「1層は初心者向きだから、ヴェレストにも優しいのがいるわ。気絶したらここまで運んでくれたりするから。ほら」
丁度、蹄がやたらろ巨大な馬のようなヴェレストがやってきて、ジルファートレスの入り口近くにあるごみ捨て場のような場所に、気絶した人を放り投げた。そこにはすでに数名の人が転がっている。
「優しくないヴェレストに負けると、食べられたりするから気を付けてね」
「それ気を付けてなんとかなるんですかね?」
「見分けつかないから、結局勝つしか生きる道が無いのよ……」
「まぁそこは大丈夫。すぐに……ほら来た」
『?』
ネフテリアにつられて見上げると、上空から7つの光が飛んできた。丁度人数分である。それらは少し離れた空中で停止した。
「アレが1人1人に追従して、中に浮いてた板に、わたくし達の様子を映すの。家からも見れるわ」
「あの板って、ここで戦ったりする様子を見せてたんですね」
「これなら危なくなったら助けに来てもらえるって事なのよ?」
「それもあるけど、それだけじゃないの」
よく見ると、光には虫のような羽が生えていて、下には小さく数字が見える。
「あの数字は?」
「みてる人の数」
「……どーゆー意味ですか?」
ミューゼがその意味を教わろうとすると、突如光の周囲に文字が現れた。
”うおおめっちゃ可愛い子の集団キタアアアアア!”
”まってましたメレイズちゃん……だけじゃない! だれあの子ねぇ誰!?”
”緑の子デカッ、えっまって、でかっ”
7つの光の、特にそのうちの2つの近くに次々と文字が現れ続ける。
「あれはピアーニャとメレイズちゃんのかな」
「え、え、なに?」
「どゆことなのよ?」
意味が分からず慌てるミューゼとパフィ、そしてニオだが、アリエッタは文字をまじまじと見つめていた。
(挨拶は分かるけど、他のは雑談かな? ってことは、これは実況バトルかなにか? そんな世界もあったのかー)
なんとなく前世のアニメなどで見たようなシステムなので、いち早く理解していた。ただし何が発言されているかは瞬時に読む事は出来ない。なのでとりあえず挨拶する事にしたようだ。
(つまりアレはカメラだな)「おはよっ!」
”ぐはっ!”
”ぎゃあああかわいいいいいい!!”
”あんな子産みたいいいいい!”
「おいおい……」
「説明していないのに理解したようですね」
「えっ、うそぉ」
コメントのリアクションを見て、光と会話出来る事を知ったミューゼ達。
イディアゼッターの補足によると、光は『光妖精』と呼ばれ、ジルファートレス内にある『影晶板』に見ている光景を映すという。そして『影晶板』で拾った人の声を、文字にして自らの周囲に投影するという能力を持つ。
その『光妖精』と『影晶板』による中継とコメントする能力をひっくるめて、ここでは『ライブ』と呼んでいるのだ。
「……(ここの神様って)筋肉の塊じゃなかったの?」
「そこまでは言ってませんが、あの妖精は(他の神々の)手伝いのお陰です」
「うわぁ」
聞けば聞く程、ヴェレスアンツの神の酷さばかり知ってしまい、もう聞くのは止めようとおもったネフテリアであった。
”なになに? 何の話?”
”プライベートな話だろ。そんな事より来たぜピアーニャ様”
「……様?」
何が?と思ったパフィだったが、それ以上に『ピアーニャ様』という発言が気になって仕方がない。
そんな時、上空から1羽の少し大きな鳥が、奇声を上げながら目の前に降りてきた。