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「いけ、メレイズ」
「はいっ!」
ピアーニャの号令で、メレイズが手を上にかざした。するとメレイズの横に浮かんでいる白い球……『雲塊』が変形、細長く伸びていった。
「おそいっ、もっとシュッとのばせ!」
「はぁいっ!」
”出たな、全然怖くない熱血教官”
”俺もあんな風にピアーニャ様から厳しくされてぇ!”
”メレイズちゃんは必死についていこうとしてるけどね”
”そこが健気で可愛いのよ”
”あーお菓子あげてぇ……フヒヒ」
ピアーニャとメレイズのやり取りの直後、光妖精の周囲に沢山の文字が浮かび上がる。様々な言葉が並んでいるが、そのほとんどが応援や解説、そして妙にねっとりとした雰囲気のコメントばかりだった。
「なんかあの文字が色々言ってるのよ……」
「今の戦いを見ている応援コメントです。中には悪意のあるものもあったり……しませんね? やはりお二方が愛らしいからでしょうか」
「あいらしいとはシツレイだなソコ!」
”いや愛らしいだろ”
”メレイズちゃんとセットで大人気なんだから、いい加減認めたら?”
「うっさい! ちょっとはトシウエをうやまえ!」
”無理”
”抱っこさせてくれたら敬いますぜ”
”ムリ”
”やだ”
「そりゃ無理よねぇ」
「うぐぐぐ……テリアまで……」
「あのっししょー! やっていいですか!?」
「ん? ああ、やれやれー」
「なんてやる気の無い師匠……」
「オマエらのせいだろ!」
大人達のかけあいの横で、メレイズが真剣な顔で大きな鳥と対峙している。
明らかに襲いに来た鳥が、どうして隙だらけの集団を襲わないのか。それはピアーニャの雲が原因だった。鳥がある程度降りてきた瞬間、雲を鋭い刃状にし、鳥の周囲に展開していたのだ。そのせいでメレイズも手を出せなかったのだが。
気が散っていたピアーニャが意識をメレイズの方に戻し、雲の檻を解除した。
「ギュアアアアアッ!!」
「なんか怒ってません!?」
「そりゃそうなのよ」
”いきなり閉じ込めてたらそりゃな”
「あわわわ……」
”あの子怯えてる、可愛い、撫でてあげたい”
大人達とコメントは冷静に分析。ネフテリアの横ではニオが鳥の怒号に怯えている。
メレイズは気を取り直して、鳥と対峙。
「アイツのコトはおぼえてるな?」
「はいっ、巨鳥の『アシュカー』です!」
”うんうん、覚えてたねー、えらいえらい”
”いやお前は師匠じゃねーだろ”
「それじゃ、たおしかたは?」
「翼を攻撃して、飛べなくしてからトドメです!」
鳥型のヴェレストは近接戦闘による対応が難しいので好き嫌いが分かれやすい。しかし、遠距離攻撃を得意とするファナリア人や、空中戦や遠隔戦闘を得意とするハウドラント人にとっては、むしろ対応がしやすい格好の的、そして練習相手となる。
”で、なんで雲を棒にしたんだ?”
”そりゃおめえ、決まってんだろ、アレだ、えーっと、アレだよ”
”はよ言えや”
「こほん、解説しましょう。メレイズちゃんはまだ経験不足で、雲の変形は遅く、そんなに大きく出来ない。だから、空中で打撃を与えやすい長い形にしたのでしょう。棒なら回せば速度のある打撃になるし、それだけで相手の攻撃や動きを阻害する事も出来る。ハウドラント人の戦闘の初歩でもあるのよ」
”いやアンタも誰だよ詳しいなぁありがとう”
「あー、これが終わったら自己紹介しましょっか」(アリエッタちゃんやニオの迷子対策にもなるし)
ピアーニャとの付き合いが長いネフテリアがハウドラント人について解説しながら、コメントとのやり取りについて考えをまとめていく。ライブをする場合、見ている人々を味方につけるのも生き残る術の1つなのだ。
「ほえ? あたし、アリエッタ!」
”ごはぁっ”
”いや可愛いなオイ”
”喋るの下手なのか? そこがいいんだが”
「うんうん、それは後でいいからねー」
「?」
部分的に会話を読み取ってフライングしたアリエッタに応え、メレイズとコメントを見守る。しかしこの時、ネフテリアは気づかなかった。アリエッタがポーチに手を入れていた事に。
メレイズが細く伸ばした雲を空中でクルクル回し、戦闘態勢に入った。対してアシュカーはピアーニャの雲から解き放たれ、ピアーニャを睨みつけている。しかし、自分に敵意を向けているのが目の前の少女だと理解している為、メレイズへと視線を向けた。
「いくよっ」
「ギュアアアッ!」
回転する細い雲を操り、アシュカーへと向かわせる。避けにくいように、上下左右へとフェイントをかけながら。
アシュカーは鬱陶しそうに大きく回避した。動きは軽そうに見えるが、高速回転している棒が当たれば確実に痛い。特に翼に当たろうものなら、ただでは済まないのだ。
「にげるなー!」
雲を操作し、アシュカーを追尾する。が、回転に向ける意識が解け、棒がはっきり見える状態でアシュカーへと迫った。
ガッ
「ああっ!」
その隙をつき、アシュカーが雲を足でつかんで止めた。
”おお、やるなぁ”
”メレイズちゃんがんばれー!”
「おちつけメレイズ。つかまれたらすぐにヘンケイだ」
「えーっとえーっと、うやあああああ!」
”叫び声かわいい”
ピアーニャのアドバイスに従い、雲をそのまま紐のように動かし始めるメレイズ。そのままアシュカーを捕らえに向かわせる。
その動きに驚いたアシュカーは、慌てて雲を離す。しかし離れようとして羽ばたいた翼に、曲げ伸びていた雲が当たってしまい、羽が削ぎ落ちてしまう。
「ギュイエエエエエエッ!」
「きゃーーーーっ」
アシュカーとニオから悲鳴が上がった。
「なんでニオまで叫んでるの……」
「ふぇ……しゅみましぇん……びっくりしちゃって……」
”かわいすぎか”
”守らせろください”
コメントのニオ人気も高いようで、ネフテリアがちょっとムッとした。
「こうげきチャンスだ!」
「はい!」
メレイズが気合を入れて手をかざすと、雲の形が鋭い円錐状に変形。動きが鈍くなったアシュカーに対し、一気に決着をつける気である。
しかしピアーニャのように瞬時に変形とはいかず、少しだけ時間がかかっている。ハウドラント人の実践経験の差はこういう所に如実に表れるのだ。
それでもメレイズの目はアシュカーをしっかり捉えている。多少避けたところで追尾も出来るので、負傷は免れないだろう。
「いっけええええええ!」
メレイズが尖った雲をアシュカーに向けて射出した。
アシュカーはなんとか躱そうと、大きく早く羽ばたく。
そうはさせじと、緑色の蔓がアシュカーの体を絡めとり、地面へと墜落させた。
どすん
「……えっ?」
”へ?”
”あれ?”
思いがけない展開にコメントも含めて静かになった。
すぐに植物の蔓である事を理解したピアーニャとネフテリアが、慌ててミューゼの方に向いて口を開いた。
「ちょっとミューゼ!?」
「ナニやってんだ、ちょうどいいトコロ……で?」
メレイズの邪魔をしたミューゼを非難しようとしたが、その途中でミューゼがアホ面で首を傾げている事に気づく。魔法も発動していない。
(ミューゼのほかにこんなコトできるのは……)
視線を横にずらすと、気合の入った顔のアリエッタと、空中に描かれた小さなミューゼの絵があった。蔓もそこから出ている。
「メレイズ、まもる! あたし!」
「ちょおおおおおまえええええええ!!」
ピアーニャはがっくりと膝をついて、叫んでいた。
”あの子話聞いてなかったの?”
「言葉覚えたてなので、まだ話を半分以上理解出来ないんですよ……」
”ええ……”
「不幸な事故ね」
「なのよ」
”事故で済ませちゃうんだ”
アリエッタがやってしまったのならば仕方がない。そもそも絵を描いている事に気が付かなかった大人達が悪いという事になる。
「子供の行動はちゃんと見ておかないと、何が起こるか分からないの」
”それ赤ちゃんとかじゃ”
”やってることは結構凄くない?”
そんな小さな犯人は、メレイズのもとへ駆け寄り、手を取った。
「メレイズ、だいじょぶ?」
「大丈夫だよっ、アリエッタちゃんも強くなったんだね!」
なんだか嬉しくなり、メレイズはアリエッタに抱き着いた。
”やべぇ、かわいい”
”尊い……”
”ありがてぇ……”
”ああ、心が癒されていく~”
「初めての同年代?の友達だから、すごく嬉しそうね」
「メレイズちゃんとニオは、もうアリエッタになくてはならない友達だから」
「えっ、いや、あの、うちはその……」
”その友達の片方は怯えてるけど?”
”なんかおもしろい事情がありそうだな”
大人達が見守る中、蔓に絡まれて必死にもがく巨大な鳥を背景に、2人の少女は喜び合うのだった。