きらびやかに着飾られた人形
鏡に映るそれはどうやら自分のようだ。
ゲストを前に剥がれない笑顔は
注がせたシャンパンを喉に流していく。
「それでねぇ…?♡」
酔って抱きつくゲストを軽く慰める
しょうもない話で泣くゲスト達
クダ巻いて吸ってまた吐いての繰り返し
酒のつまみにもならない話たち
聞き流すことだって仕事で。
「…なんだぁ、、どう思う、、?」
「ん…?
…ごめん姫が可愛くって…話の内容入ってこなかった、」
「えっ、もぉっ!」
善良に特化した神対応
「お時間です。」
店の閉店
ゲストは締め出され ポツリと最高級のシャンパンが残る
口を付ければ 甘く辛い味が舌を絡めた
ちら、と目に映るは目の前の鏡
真っ赤に染まった頬と目元
酒に溺れ、もう今日何をしたかさえ覚えていない
それでも、もういいんだ
それが、この仕事だ。
なんて思いながらも
「…」
幸せに、なりたいなぁ、なんて。
もがき足掻いている様は
周りから見れば まるで
浜辺に打ち上がった魚のようだろうな。
覚束無い足取りで帰路につけば
ふわりと見慣れた姿が前方に現れる
「…おかえり」
車用意してあるで、なんて笑って手を引く彼
「今日も……覚えてないんやろうな」
ぽつりと呟く言葉に 違和感を覚えて
「なにが、、?」
「……いや、、」
そう言って首を弄る
「今日も…そーゆー所にいったん、?」
「んー……??1回も行ったことないよぉ」
「……そか、」
乗った車のバックミラー
映る自分の首筋で
朱が存在をアピールする。
「あ…」
自分はこの朱を知っている。
ゲストの酔った勢いで噛まれた所だろう。
“そういう所”は行っていない。
だけどそれを、彼は知らない。
「今日は…覚えてるん、?」
「……いやぁ、?思い出せない。何やろね これ」
怒って欲しい
あわよくば嫉妬で狂って欲しいのに。
「しゃぁない、わな…ホストなんてそんなもんよな」
傷付いた素振りは見せずにハンドルを動かす
へんてこりんな不安材料
他のゲストにはこれでもかと言う程に効くのに
そんなのたいして意味無い、と
彼は涼しげな表情を見せる。
「あにき」
「?」
「そこ…寄ろ?」
それならもう
「、は、?」
「お願い」
「…ほんまに言ってるん?今日だって疲れてるやろ。早く帰って寝た方が___」
「あにき」
「っ、」
言葉と言葉の隙間に身を任せて。
「お願い。悠佑」
気がついた時には 裸体はベッドに投げ出されていて
洋服は乱雑に床に落ちていた
「…あれ、?」
隣には誰も居ない
ぱさ、と器用に被せられた毛布が落ちる
「…!」
狭いベランダ
探している後ろ姿は
そこに静かに佇んでいた、
「あにき おはよ」
「っびびったぁ、、おはよ」
「あれ…声枯れてもうてるやん?
…どしたん?」
「は、??」
「え?」
「あぁ…ここが何処かも分からんくらい酔ってたんか昨日、」
「…えへへ、」
違う、覚えているよ
覚えているけど
君と過ごした夜を、もう一度
本当だったって
確認したいだけだ
「……」
でも
「…気にしやんでいいよ。どうせこれもすぐ終わる」
君は何も話してくれない
「、まろ」
「ん?」
「もう、終わりにせえへん?」
「え、?」
優しく語るような声
言葉の理解は未熟な俺には到底出来なかった
「…愛のない、そーゆー行為は……辛いねん」
あいのない、?
違う、
「違う、!」
「いいよ、全部わかっとーから」
「あにき、」
「終わりにしよう、いいやろ、?」
「待って、」
乱雑に付けられた身体の朱
痛々しく付けられた歯型
あぁ、なんて俺は馬鹿なんだ。
「あにき、まっておねがい、」
財布を取り出しお金を出す彼に手を伸ばす
彼は優しく振り払った
「まろ…これ以上、やめて…ほしい」
「っっ、」
彼の声は想像以上にか細かった
「……愛してる」
「、そっか」
「違う、本当に、」
「大丈夫、呼ばれたら……また来るから」
「違うんだって、悠佑が好き、」
「一旦頭冷やせ、わけが分からんくなってるて」
「違う、俺はっ、!」
「ぇ……?」
背中を向けた彼の腕を引く
涙を流していた。静かに、倓に。
「………もう、、、やめてや、」
絞り出さた声は震えていた
押し返されるかもしれない、嫌われる恐怖は何よりも大きい
だけど
抱きしめずにはいられなかった。
「っ、」
彼は何も抵抗しない
「…ごめん。」
今の彼に、俺は謝る権利があるだろうか。
「ごめんね、俺…あにきが、俺の、彼女になってくれたって、、嬉しくて……だけど、どこまでも優しいあにき、が……あにきの本心が、分からなくて」
だからホストをやって
嫌って止めてくれるかな、と思っても
君は何も言わなくて
「俺の行動一つ一つが、あにきを、悠佑をこんなにも不安にさせてたんだね。
本当に、ごめん。」
心の底から愛しているから
君がいないと、俺はもうダメなんだ
「悠佑が居ないと……いや」
「悠佑の為なら、死ねるくらい」
「悠佑の事……っ」
そこまで言うと、彼は俺の口を手で塞いだ
「それ以上言うと、戻れんくなってまうよ」
「っ」
優しく微笑む彼
俺は 彼女になんて事をしてしまったんだ
信用度、信頼度そんなものはゼロに等しい
だけど
尽きない愛は、今も尚俺に向けてくれている
こういう所が
「好き、大好き」
「……」
残念そうに
彼は微笑した。
「俺結構メンヘラやねん、まろに迷惑かけた無い」
「やから良いんやろ、俺は悠佑が好きや」
「……そっか」
「っ」
どうすれば、伝わるだろう
ベッドに押し倒す、いや
そんなのでは、絶対伝わらない
「……なぁ」
「あにき、嫉妬する?」
「……」
彼の目に 黒が足された
「どうやと思う?」
薄ら笑う君の顔は 随分と…
「……答えてや、」
「…」
「答えんくても、分かるやろ?」
決して口を裂こうとしない
だけど もう答えはみえる
「……」
「、俺なぁ、?すっげぇあにきのこと好きやねん」
「…」
「あにきは?」
「、?」
「俺の事……好き?」
「……」
「答えて。悠佑」
「っ」
視線を合わせる
俺以外 何も見て欲しくない
「あぁ、もう……」
「好きやで、好きに決まってるやん、!」
「怖い、怖かったんよ、まろが分からんかった、まろに嫌われたくないから、いつも流れに身を任せた、」
「まろは好きちゃうんかなって、ただ夜の相性で俺といるんかなって、思うと辛かった、」
「やけど、やけど俺まろの事好きすぎてん、っ、体だけが目的でも、一緒いられんならいいやって、思って、、っ」
俺は彼を抱きしめた
強く 離さない
彼も抱き締め返してくれる
優しく、だけど強く。
「ずるいよ、まろはずるすぎる、いつもそうや、俺は、俺は……っ」
涙が零れ 言葉が止まる
小さな嗚咽さえも、聞き逃さないように
俺は押し黙る
「……何も、出来んくなってまう、まろがいると、俺が俺じゃないみたいや」
「……まろ」
「俺の事、好き?」
縋り付くようなその姿
俺は誤魔化す事も 濁す事もしない
「好きだよ。」
仕事鞄の中に入っていた護身用ナイフ
近くにあったそれを引っ張り出して彼に持たせる
そしてその手を握って
俺の心臓部分に軽く当てた
「…あにきの為なら、なんだって出来る」
彼はきゅっと口を噤む
「……それ程まで、愛してるからね」
「やれる事なら、あにきに殺して欲しいくらい、愛してる。」
小さく微笑んだ
「それは無理やな、」
「…」
「俺だって」
「まろに殺されたい」
「、」
優しく唇を重ねる
「愛してるよ」
「もう、君しか見られない」
愛してる
愛してる
アサルトラブ。
コメント
3件
ありがとうございます…あまねさんのおかげでどっぷり青黒ハマりまくってます…はぁなんでそんな神作をかけるのですか…尊敬しかないです
アサルトラブって何だ?と思って調べてみたら、そういう曲があるんですね…… そして安定の神ってる曲パロ……!!! 本当に大好きです。愛してます。 あまねさんは言葉選びが綺麗ですよね…。尊敬です。 こういう雰囲気の青黒大好物です。ありがとうございました。