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4話
時は過ぎ、私たちは小学四年生になった。
「行ってきまーす」
「行ってらっしゃーい」
「あっいらぁ!おはよ!」
「おはよ。飛びつくの禁止」
「イェッサ!」
「おはよう相羅。今日は髪結んでないんだね」
隣人の奏舞と空舞はあいかわらずのイケメンっぷりで近所のおばさん達の虜になっている。
「紗良ちゃんも、おはよう」
「おはようございます」
ちなみに、奏舞たちの妹は現在4歳で、空舞と性格が似ている。見た目はどちらかというと奏舞似だ。
小学校に行く途中で私たちが通っていた保育園があるから、そこに送ってから小学校に向かう。これがわたしたちのルーティーン。
「今日から小学四年生!知ってる?転校生が来るらしいよ〜」
「へー」
「もう、相変わらず興味なしじゃん相羅!」
6歳の頃に変わると宣言した私だが、全く変わるのかの字もなかった。
人に興味なし困っている人がいてもそっちのけ。友達を続けている奏舞たちがすごいと感じてしまうほどだった。
「性格って治すの難しいもんよ」
「なんでドヤ顔で言ってんの…」
奏舞は少し引き気味だった。
私なりに努力をしていたつもりだが、1ヶ月で無理だなと思い努力することをやめた。三日坊主じゃないだけマシだと空舞に言い訳をしたらマジのマジで怒られた。本当に怖かった。
「転校生って、最初はチヤホヤされるけど後から調子乗るクソ野郎が多いんだよね」
「めっちゃ言うじゃん…」
「紗良の前でそう言う言葉遣いやめて」
空舞が珍しく厳しい目をする。
空舞は紗良ちゃんにはまともに育って欲しいと思っているのか、過保護になりすぎている。奏舞の無茶な遊びにも遠ざけたり発達によくない言葉遣いがあれば聞かせないようにしたり。いわゆるシスコンというやつだろうか。溺愛っぷりがすごかった。
「じゃ、4時ぐらいにまた迎えに来るからね」
「うん。行ってらっしゃい」
『イッテきまーす』
いつも通りの流れをして小学校を目指す。
「転校生、どんな子かなぁ」
ワクワクしながら言う奏舞を尻目に空舞と私は歩き続ける。
学校までの道のりは、遠いほどでもないが短いとも言い切れない。だから話していればすぐついてしまう。いや、これは時間の進み方への感じ方の違いだろうか。
「早く会いたいなぁ。男の子かな?女の子かな?」
「奏舞、もうちょっと落ち着いて、もう四年生なんだよ?」
「四年生だから落ち着かなきゃいけばいってことはないでしょ」
2人がいつも通りの口喧嘩を始めようとする。それを止めるのは無理だろうとなんとなく感じ、そのまま放っておく。
昔は仲睦まじい可愛い双子だと思っていたが、成長すると正反対なタイプの2人はよく喧嘩するような双子になってしまっていた。でも、その喧嘩はただの喧嘩とは違って、慣れ親しんでるような喧嘩とも言えるだろう。これが、喧嘩するほど仲がいいと言うやつだろうか?
その時、視界に入ったものに気づく。
「あ、あの子じゃない?転校生」
「えっ、どこどこ⁉︎」
私の言葉と指を刺した方向に奏舞が反応する。それに連られるように、空舞も同じ方向を見る。
指差した方向には職員室があり、その奥に児童と思われるこどもがいた。大人が陰になって姿形まではよく見えない。性別を判断するのも難しい。
「女の子な気がする…!」
「なんでそう思ったの?」
なぜか奏舞が性別を予想していたから疑問に思う。
たまに奏舞は野生の勘を頼りに物事を言っている時がある。その時は大体当たっているのだ。
「なんか、そう思ったから!」
今回も野生の勘を頼りにして言ったらしい。なら、転校生は女子だろう。
教室につくと野次馬ができており、そこには空席の机と椅子があった。机の上には、教師の誰かが書いたであろうお迎えカードが置いてあった。
普通、こういうものはクラスのみんなで書くだろうに、と呆れながらもカードに書いてある名前を見る。
『滝川ティナ』
やっぱり奏舞の野生の間は当たっていたらしい。
「ティナって…ハーフ⁉︎」
奏舞の一言でクラス全員が声を上げる。
「やっぱりそうだよな!キラキラネームじゃないかって声も出てたんだけど、やっぱりハーフだよな!」
「でも、ハーフかはわからないよ?外国人同士の結婚で日本人の名前をつける人だっているじゃん」
空舞の違う意見でクラス中はもっと騒がしくなる。
「そんなことある?だって外国人は外国の名前をつけるだろ」
みんな頭の上にはハテナマークをたくさん浮かばせていた。
実際、テレビでも欧米系の俳優が日本人っぽい名前だったことなんてザラにある。それは、両親が日本人ではなかったけど、日本で出産し、戸籍自体も日本にしていたときの場合だ。その場合、日本人に近い名前を付けたり外国の名前と日本の名前二つを持っていることがある。
でも、今回は名字が日本で名前が外国だ。ハーフであると言うことは確定しているだろう。
みんなの終わりがない論争に区切りをつけたのはドアが開く音と同時に聞こえた先生の声だった。
「みんな、新しいクラスメイトを紹介するわ」
先生の手招きによって入ってきたのは、さっき見たであろう子供だった。
「滝川ティナです!日本に来て3年だからちょっとカタコトになるかもしれないけどよろしく!」
元気な声と共に深々と頭を下げる。きっと親に日本の礼儀と言葉を教えてもらったのだろう。
滝川ティナは欧米系に近い顔をしており、髪は綺麗な金色で、瞳は空色に近いブルーだった。
多分、誰もがその容姿に目を奪われただろう。だって、滝川ティナは顔が整ったモデルみたいな体型をした子だったから。
「ティナさんの席は総一郎君の隣の席だよ」
「総一郎いいなぁ!」
滝川ティナが席に座ったのを確認して今日の日程を伝える先生。始業式で転校生の紹介があるらしい。
私は始業式はいつも寝れる時間を認識しているタイプだからあまり興味はないけど、今回は少し、起きていようかなと思った。
「ねぇティナってどこ出身なの?」
「アメリカ!お父さんがアメリカ人で、お母さんが日本人!」
「日本語上手だね〜」
「ありがと!」
休み時間には滝川ティナの席にたくさんの野次馬がいた。それも女子ばっかり。
隣の席の総一郎という男子は少しうんざりしたような顔をしていた。
「ずっとティナのこと見てるね。相羅」
空舞が野次馬を見ながら言ってくる。
「空舞はずっと私のこと見てたんだ?」
少しからかうと、空舞は目を見開いて、そのあとに少し笑った。
イケメンが笑うとその周りがより一層明るくなるこの現象に名前をつけたい。
「ずーっと質問責めされてるよね。プライバシーとか気にしないのかな」
「相羅、ティナはアメリカの人だよ?」
空舞の問いかけるような訴えに私は笑ってしまう。
それもそうだな。アメリカは日本とだいぶ違ってプライバシーとか気にしない国だった。
そこで生まれ育ったティナはきっと、今の状況は楽しいと思っているのだろう。
私は野次馬の軍団を見る。さっきより落ち着いてはいるが、なんだかその中に違和感があった。
「奏舞も野次馬の中に入ってる…」
「奏舞って性別の壁を超えるからね」
女子たちと一緒になって質問している奏舞を見ていると、なんだか私たちが保護者になった気分になる。
ちょうどチャイムが鳴って、ティナの周りから野次馬が消えると隣の席の人はやっと消えたか、みたいな上から目線の顔をしていた。
学校が終わり、下駄箱で靴を履いているとティナが話しかけてきた。
「相羅!一緒に帰ろ!」
その言葉を放つと靴を履き始めるティナ。急な出来事で頭の中が混乱しまくっている。
どういうことだ?ティナと私は一緒に帰るほど中が良くなる瞬間があっただろうか?答えはノーだ。全く話していないのになんで私のことがわかるんだ?そもそも、なんで家の方向が一緒だと思えたんだ?
帰り道が同じでなければ一緒に帰ろうなんて言わないだろう。ということは、ティナの家は私の家の方向を同じということになる。
「えっと…なんで?」
私のたくさんの疑問を一気に聞ける言葉がなんだかそっけない人の受け答えみたいになってしまった。
ティナは私の疑問に首を傾げている。
「相羅ぁ!待ってよ〜!」
気まずい空気を切り裂くように奏舞の声が聞こえる。
声の方向を見ると、奏舞がごった返す下駄箱の中で靴を履きながら走ってきた。少し奥を見ると、空舞も走ってきている。
確か2人は先生の手伝いをしていたから、遅れてきたんだろう。
「あっ、ティナ!相羅捕まえといてくれてありがと〜」
「your welcom」
「よあ…なんて?」
「どういたしましてって意味だよ、奏舞走るの速すぎ…」
息を切らしながら意味を答える空舞。
「奏舞、ティナに何頼んだの?」
「ティナの家が僕らの近所だったからじゃあ一緒に帰ろうってなって、それで、相羅が先に行く可能性大だから捕まえといてほしいって頼んだの!」
満足げに話す奏舞になんで私に事前に言わなかったと言うと、奏舞は忘れてたという単純な答えが返ってきた。
「私、2人置いて帰るほど薄情じゃないから」
「相羅、さっきのなんで?ってどういう意味?」
ティナからさっきの私の質問に答えようとしているらしく、理解しようと聞いてくる。
「あー…ううん。気にしないで」
キョトンとした顔をしながらも頷いてくれたティナ。それを見ながら安心する。
「じゃ、奏舞と空舞の妹ちゃんを迎えにレッツゴー!!」
ティナが先陣を切って駆け足で進んでいく。足が長いからか、一歩がとても大きくて私はついていくのに必死だ。
そんな私に気づいたのか、空舞は手を繋いでひっぱってくれる。
こういうところがモテ男の特徴なのだろうか。
紗良ちゃんを迎えにいくと、紗良ちゃんはティナにびっくりして少し警戒してしまっていた。元々人見知りということもあってか、ずっと空舞の外良を歩いていた。
「あのさ、ずっと一緒に歩いてくるけどティナの家って…」
「ここだよ?」
自分の家を指差す。その家と周りの家を見る。
「真向かいじゃん⁉︎」
まさかの真向かいに住んでる人だった。