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5話
私の近所はクラスメイトがたくさんいる。隣には相模原家、真向かいには滝川家だ。ここまでくるとちょっと怖くなってくる。
今日も私はいつも通りの朝を迎えて空舞たちと紗良ちゃんの保育園へ向かう。でも、いつもは私含め4人で歩いているのを、今日からは五人になるらしい。滝川ティナも一緒に登校することになったからだ。
「今日あったかいねぇ」
ティナが眩しそうに目を細めながら太陽を見る。
今は春であり、ちょうどいい気温と言えるだろう。だが、春にはあの強敵がいる。
「僕は春は苦手だな…ズビッ」
ちょうど、その強敵にやられている人が1人、空舞は確か花粉症だったな。
そう、花粉だ。春になると人間も元気になるが植物も元気になる。南風と共に花粉を撒き散らして花粉症の人たちを苦しめる。といっても花粉達はただ子孫を残そうと頑張っているだけで、ただ人間が勝手に苦しんでいるだけだが。
「奏舞は花粉症じゃないんだね」
「うん!」
元気よく頷く奏舞。
双子ならなんでも一緒だと思っていたが、そうでもないらしい。確かに、性格は真反対だし好きな物も嫌いな物も異なっている。どういう原理なのか調べたいぐらいだ。
「アメリカには花粉症って概念あるの?」
「あるに決まってるでしょ。スギとか多いもん」
ティナが当然だとでもいうような顔をして言う。
ちなみに私は花粉症ではない。多分遺伝の問題だ。
いろいろ話している内に紗良ちゃんの保育園に着き、別れた後でまた楽しそうに会話を始める。一体どこからそんなに話題が出るのか不思議に思っていると、空舞からある一言が出た。
「そういえば、今日って漢字テストあるよね。3年生の復習の」
その一言にぎくっと肩を揺らした奏舞とティナ。
ティナは日本にきて三年だからまだわかるとして、奏舞は日本で約10年も暮らしている。さすがに人並みにはできていないと困る。
私は青ざめている奏舞の顔を見た後、空舞に勉強させてないの?と言った。空舞は奏舞に対して勉強をするように言っているから心配はないと思っていた。
「勉強させたよ。昨日の夜みっちりとね」
にっこり微笑む空舞の顔がとても怖い。奏舞は昨日の夜なにを経験したのか。
「みっちり勉強したなら大丈夫じゃないの?」
「奏舞って、予想以上にアホなんだよね。さっきやったこともすぐ忘れるの」
私の言葉に唖然とするティナ。きっとティナは勉強してしまえばすぐに覚えるタイプなのだろう。
そうこうしている内に学校についた。いつも通り児童会の人たちが挨拶活動をしている。朝から大変だなぁと思いつつも児童会には少し興味がある。人の上に立って指示をして、行事の裏のことまで知っているなんてなんだか憧れるからだ。と言うか楽しそう。
「奏舞、わかってるよね?もしも50点以下なんてとったら…」
「はわわわわわ…」
なんだか奏舞が少しかわいそうに見えてきたので、空舞を少し落ち着かせる。
「あっ、奏舞もテストの後にご褒美があったら頑張れるんじゃない?」
ティナが閃いたというような顔をして提案する。
確かに、ご褒美があることで人のやる気は何倍も起きることは研究で証明されている。奏舞にとってもいい方法だと思い、空舞もご褒美をなににするか悩んでいる。
「じゃ、みんなで遊ぶのは?もしも50点以上とれなかったら復習勉強会をするとか」
私はなんとなくで言ってみる。するとさっきまで暗かった奏舞の顔が一気に明るくなった。
空舞もティナもそれに賛成のようで、漢字テストの時間なるまで必死に勉強していた。
「ところでさ、遊ぶってなっても勉強会やるってなってもどこで?」
ティナが首を傾げる。
「誰かの家とかどう?」
空舞が提案する。でも私は首を横に振った。
「空舞の家も私の家もダメでしょ。紗良ちゃんいるしこっちには親がいて集中できなさそうだし」
そっかーと言いながら頭をひねる空舞達。あわよくば、とティナの方を見てみたが、親が嫌がるらしく首を横に振った。
となると、近くの図書館になる。でもそんなところに奏舞を連れて行ったら注意される未来しか見えない。
頭を抱えていると、ティナの隣から声が聞こえた。
「じゃ、俺の家はどうだ?」
反射的に声の主を見ると、眼鏡をかけた水色メッシュの男の子がいた。
確か名前は…
「…誰だっけ」
漫画のようにみんながズコーとこける。
いち早く水色メッシュが起き上がって名乗った。
「総一郎だよ!古谷総一郎!」
どこかで聞いたことのある名前だなと思い記憶を掘り返す。でも思い出せなくて諦める。それを察知した空舞が少し引き気味の顔をしていた。
「保育園も一緒だったのに覚えてないの…?」
「一緒だったんだ」
さらっと言うとその場にいたみんなが引いた顔をしたのがわかった。
私は昔から人の名前と顔を覚えるのが苦手だ。名前だけ覚えるのは可能だとしてもそれを顔も一緒に区別するとなると頭がパンクする。
「総一郎の家いってもいいの⁉︎」
ティナが総一郎に一気に詰め寄る。まるでさっきの空舞と奏舞だ。
「総一郎じゃなくてソウって呼んでくれ」
少しいじけた顔で言ってくる総一郎を見て私の苦手なタイプだ、と思ってしまう。
「ソウの家ってどの辺?」
「下町」
「反対方向じゃん⁉︎」
奏舞がびっくりした顔をした。
下町は、学校の北側である。私たちの住んでいる場所は上町。全くの反対方向であり、もし行くとなったら子供の足ではキツいだろう。
奏舞の顔を見て訂正をする総一郎。
「いや、下町って言っても学校のすぐそばの下町だからな」
それを聞いた奏舞は安心したようになんだ…と安堵の息をついている。
それなら、私たちの足でも問題はない。そう判断して結論を出す。
「じゃ、総一郎の家で勉強会ね。遊ぶってなったら近くの公園でいいでしょ。総一郎もくるよね?」
「総一郎って呼ぶな。ソウと呼べ」
私の質問には答えず、呼び方を指摘する総一郎。
「なんだこいつめんどくさ…」
「コラコラコラ」
つい本音が出てしまった私の口を多く空舞。総一郎は少し不機嫌気味だ。
「なんで総一郎って呼ばれたくないの?」
ティナが首を傾げながら質問する。
確かに、こんなに呼ばれ方にこだわっている人は初めて見た。
総一郎は少し顔を赤らめながら「総一郎って名前、古臭くて嫌なんだ」と言った。その言葉に全員が首を傾げる。
総一郎という名前は別に古臭くもなんでもない。あだ名にしやすい名前というだけだろう。
「古臭いかなぁ?」
私たちの気持ちを代弁するように奏舞が言葉にした。
その時、私は気づいた。総一郎という名前は古臭くもないのに古臭いと思ってしまう理由。それは、私たちの名前が少々近代化した名前だからだ。特に私と空舞。
「私たちみたいな名前に憧れてるんだね…総一郎」
私の言葉に総一郎が反応した。その反応が憧れているという言葉に対してなのか、総一郎という言葉に対してなのかがわからない。
「だから、総一郎と呼ぶなと何度言ったら…」
茹でタコみたいにしながらいう総一郎。どうやら名前の呼ばれ方に反応したらしい。
「私の中ではあんたは総一郎ってインプットされてるの」
「強情だな」
「総一郎が強情なんでしょ」
軽い会話をする。
やがて、もうなにを言っても聞かないと判断した総一郎は諦めて漢字の勉強を始めた。それを見てティナと奏舞も勉強を始める。
「空舞の目標点数は?」
なんとなく聞いてみる。どうせ100点だろうけど。
「もちろん100点だよ。相羅は?」
逆に質問されてびっくりする。
「別に、極端に低くなければなんでもいい」
私の質素な答えを聞いて空舞は「そうだね、相羅ならそう言うと思った」と笑っていた。