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朝見た男子生徒がまさかの隣の席だったというお約束的展開にびっくりしている私こと実嶺鈴香はたくさんの男女に囲まれていた。
「どこから来たの?」
「地方から…」
「なんで東京に?」
「親の転勤で」
「誕生日いつ?てか髪めっちゃ綺麗」
「9月12日。みんなの髪の毛も綺麗だよ」
「どこらへん住んでんの?放課後カラオケ行こうよ」
絶え間ない質問と提案に私の頭はすでに限界を超えていた。
転校は小学校の頃に一回経験済みだけどその時よりもみんなの食いつきがすごい。先生共に生徒も人懐っこいんだなぁと思う。チラッと隣を見ると潤伊くんは本を読んでいた。横顔がとても綺麗で、まつ毛の長さが際立つ。
「カラオケいいね」
その返事にみんなが今日カラオケ行ける人〜、と人数を増やしている。またカラオケで何か聞かれるのだろうか。今みたいなことがま起きるのではないかと思うと少し気が引けた。けど、みんなと喋ることは楽しいから自然と気持ちが明るくなる。
昔から人といることは好きだ。人といればいざこざが起きるけど、それもつきものだと思って生活している。それが嫌いだという人もいるから、そういう人には近づかない。私はケンカを望まないから。このまま、平和に穏便に楽しく明るく学校生活を送れればなんでもいいのだ。
学校が終わり、集まれた男女8人でカラオケに向かう。その8人の中に潤伊くんも入っている。学校からカラオケまで約徒歩10分。その近さに驚いていると、「前いた所どんだけ田舎だったのw」と興味を示していた。いつの間にか私の周りには女子が集まっていて、学校の先生の愚痴や恋愛について聞かされていた。都会の恋愛を聞いた瞬間背筋が凍った。
「スズちゃんはどの先生が1番人気だと思う?」
渡辺美桜こと美桜ちゃんが聞いてくる。他の女子はクスクス笑っている様子から、もう知っているのだろう。
今日の始業式で一部の先生は覚えたから、とりあえずイケメンと美女な先生から攻めていくことにした。
「社会担当の佐々木先生は?イケメンだよね」
美桜ちゃんは、私の自信満々な答えに引っかかったとでもいうような顔をして首を振る。いつの間にか男子も私たちの会話に入っていた。
「じゃあ、音楽の広瀬先生は?優しそうな顔してたし」
「あの人は1番人気ないよ。なんか所々うざいんだって〜」
曖昧な理由に首を傾げながらも、先生たちの顔を思い浮かべて頭を捻る。他にいるとしたら誰だろうか。北高の先生の人数は多く、あまり覚えられていないからその中にいる可能もある。諦めて答えを聞くと意外な答えだった。
「我らがはっしーだよ!」
はっしーは橋本先生のあだ名だ。どうやら、橋本先生が1番人気らしい。
「はっしーは26歳で体育教師だから体格いいし何よりさ、顔がいいんだよ」
顔がいいという言葉に周りの女子は頭が取れそうなほど頷いている。その姿に男子と私は少しだけ引いていた。
確かに、職員室に行った時も第一印象はお兄さん系の人だった。顔もかっこいいという類に分類されるのだろう。
「だから1番人気なんだ」
「結局は顔だわな」
男子たちが女子たちを引いた顔で見つめる。ちょうど会話に区切りがついたところでカラオケに着いた。
8人だから広い部屋に案内され、ドリンクバーで各々好きなものを注いでから席に座る。私の隣には美桜ちゃんと潤伊くんが座っていた。すると、美桜ちゃんが急にドリンクを持ちみんなを見る。どうしたのかと思い、みんなの視線も美桜ちゃんの方へと向けられる。
「今日のカラオケは、スズちゃんの歓迎会だよ。スズ、これから私たちと2年間よろしくね。乾杯!」
『乾杯‼︎』
息ぴったりの乾杯に私だけ1人取り残されてしまった。まさか私のことで乾杯するなんて思わず動揺してしまう。びっくりしていると、隣から控えめに肩を触られた。潤伊くんだ。
「隣の席同士、よろしくね。乾杯」
「う、うん!よろし…」
ゴツっ
「ッ…たぁ⁉︎もう、今日で何回ぶつけるの⁉︎」
「大丈夫…?」
潤伊くんが心配そうな声で聞いてくる。それとは裏腹にみんなは爆笑していた。美桜ちゃんに至っては笑いすぎて涙が出ている。
「流石にみんな笑いすぎじゃない⁉︎」
「だってw1日にそんなに頭ぶつける奴がいるかよwww」
「これからは授業の終始挨拶で周りに物置かないようにしないとね」
「逆にどうやってそんなに頭をぶつけるのか知りたいぐらいw」
数分ほどみんなで笑い転げた後、男子から歌い始めた。完全にウケを狙っている歌い方がツボに入ってしまい、私は終始思い出し笑いで腹を抱えていた。
4時間程度歌ったところでみんなと解散する。こうやって学校終わりにどこかへ行って時間を潰すという事をしたことがなかったから今日は初めての経験だった。充実した気持ちになっていると母からメールが十件ほど届いていたことに気づく。慌ててスマホを開くと、そこには文字からも怒っていることがわかる文が届いていた。
そういえば、朝、午前中に帰ると言ったきり遊ぶことを伝えていなかった。そのことに気づき、私は超特急で家に帰る。玄関を恐る恐る開けると母が私に抱きついてきた。心配性でもあるからきっと事件があったのではないかと心配したのだろう。
「友達とカラオケ言ってただけだよ。心配しないで?」
「そう…ならなんでメールで教えてくれなかったの?都会って危ないことが多いんだからね⁉︎」
母は安心した顔をした後すぐ鬼の形相になって私を叱った。その日の晩御飯はおかずを減らされて、もう二度と連絡するのを忘れないようにしようと誓った。