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次の日、周辺の街なども見回り、最後に森へと寄った時には昼を過ぎていた。
ふと視線を上げると、レイが少し離れた場所で森の奥を見つめている。険しい表情が木漏れ日に照らされ、いつになく鋭い印象を受ける。
「結界の異常って……自然に起こるものなの?」
恐る恐る問いかけると、レイは表情を崩さず、低い声で答えた。
「あり得ない。それこそ、お前に何かあればそれも考えられるが……そうでない限り、誰かが意図的に仕掛けたと考えるべきだ」
その言葉に、思わず唾を飲み込む。
意図的……誰が、なんのために?そんな疑問が胸の中を渦巻く。
「兄さんの推測は鋭いね」
けれど俺たちが会話を続ける前に軽やかな声が割り込んできた。
振り返ると、アランが微笑みながらこちらに歩み寄ってくる。
その飄々とした態度は、場違いとも言えるほど無防備に見えるが、その目だけは冷静な光を帯びていた。
「だが、犯人探しは後にしたらどうだい? まずは帰って様々な事をまとめるべきだろう?」
彼の言葉にレイは短く息を吐いたが、それ以上の反論はしなかった。
その場の空気が少しだけ緩むような気がしたが、俺はどこか落ち着かない。
レイの慎重な態度とアランの飄々とした振る舞い――二人の対比が、どうにも引っかかる。
その後俺たちは馬に乗り、森を後にした。
森を抜けると、一面の草原が広がる。暫く馬を走らせていると柔らかい夕日が地平線に沈みかけ、空が赤と紫に染まっている。
森の中の重たい空気が嘘のように、外の景色は広々としていた。
レイは無言のまま先頭を行く。その背中は、森の中で見たとき以上に険しく、どんな考えが巡っているのか、俺には分からない。
ふと、横に馬の蹄の音が近づいた。
振り向くと、アランがいつの間にか俺の隣に並んでいた。
「君がここに来なければ、兄さんは一人で解決できたかもしれないね」
突然の言葉に、俺は驚いて眉をひそめる。
「……何が言いたいんだ?」
こいつの言葉は核心を交わしたようなものが多い気がする。
少しの苛立ちを覚えながら俺は聞き返す。
アランは柔らかい笑みを浮かべたまま、気にした様子もなく続けた。
「いや、ただ思っただけさ。兄さんはいつだって自分の正しさを信じて動く。でも、それが君を苦しめていないか、少し心配でね」
その言葉に、胸がざわめいた。
「そんなことない……俺はレイが……」
反論しようとしたけれど、アランの口調があまりに軽く、余計に言葉を封じられる。
「そうか。ならいいんだよ。ただ、君が兄さんにとってどれほど特別な存在か、よく考えてみるといい」
そう言いながら、アランは馬の手綱を引いて少し速度を落とし、俺から離れていった。
俺は何も言えずに馬を進める。
彼の言葉に怒りを覚えながらも、頭の片隅にほんの少しだけ、拭いきれない不安が残った。
レイとの関係は、俺にとって揺るぎないものだ。
そう自分に言い聞かせる。
しかし、草原の風が頬を撫でても、胸の中の重たさは消えなかった。