「僕が怒る権利は無いなって思ったんだ」
そう言いながら翡翠のはまった金杖で円を描くように振る。
「***** 」
小さく詠唱したリョウちゃんの周りから、妖精たちが飛び立つ。
瞬時に葉のある茎が現れ、クルクルと大きな輪が空中へ作られる。
輪の中全体へ、キラキラと淡いグリーンの光が降るように落ちてきた。
「パーティー全体へ行き届くヒール。基本ヒールより効果が高くて、こないだの傷程度なら治せる。これは僕のイメージで作られる魔法だから、同じ詠唱でも水魔法のイメージを作ったらいい」
「さすがだなぁ…」
とても美しい光景に見とれながらも、先ほどの続きが気になる。
そんな俺の顔を見て察したらしいリョウちゃんが歩き出す。
後ろからついて行くと、近くの大きな木の下へゴロンと寝転んだ。
芝生が生えていて、日がよく当たる場所。
茂る木の葉で程よい日陰もあり、気持ちよさそうだ。 真似をして寝転ぶ。
「僕さぁ、ずっと自信が無かったんだ」
「うん」
ぽつりと呟く。
時折吹く風に前髪が揺れた。
「妖精が見えても信じてもらえなくて、変な子って思われてたし。見た目がこうだから揶揄われることばかりで」
「…うん」
「だから、モトキにスカウトされた時はびっくりしたぁ~」
〝すごい!沢山の妖精たちに好かれてるんだね!ぜひ僕と同じパーティーに入ってくれませんか?〟
キラキラ光る目で、年下の男の子から突然誘われて驚いた。
見せてくれた炎の魔法は凄すぎて圧倒された。
同時に何で誘われたのか、益々解らなくなった。
「わかいに受け入れられてなかった時も、そうだよなって思った。ここに自分は必要なんだろうかって…」
「あの時はごめん。リョウちゃんの力も、中身も、見れてなかったから…」
ううん、と寝ながら首を振るリョウちゃん。
優しいから闘うのは向かないよね、そう言ってもらえることはあった。
弱々しいと、意地悪や揶揄いの言葉をかけられることもあった。
本当の優しさって、なんだろう。
「モトキは優しい言葉も、厳しい言葉も言ってくれた」
最初はショックだった。
でも真剣な目と言葉で、 強くなれるんだから踏み出そうよって。
嫌われるかもしれない言葉でも恐れずに、ただ僕のためだけに。
「すごい愛と勇気だよね」
ふふふっと思い出したのか、リョウちゃんが嬉しそうに笑った。
「防御しなかったことはすぐ気づいた。あんな回復魔法がいきなり出来るなんて思ってなかったから呆けちゃったけど」
「そうだったんだ…」
ふわふわしてるリョウちゃんだから気づいてないなんて。
守るつもりが侮ってしまってたのかもしれない。
タイプはまるで違うけれど、気持ちに敏感な所が2人は似ているんだと知った。
「僕のせいでそこまでさせてしまったって、落ちこみそうになったけど。違うって思った」
上半身を起こしたリョウちゃんの頭に、葉っぱが落ちてくる。
「逃げずに応えたいと思ったんだ。2人を傷つけないないように。守れるくらい強くなりたいって」
そうだよ
きみがねがったから
きみはつよくてやさしいんだよ
妖精たちの声と共に。
落ち葉がブワッと花吹雪のように舞い踊る。
「うわぁ」
祝福。
まるで祝福だ。
「妖精たちが踊りまくって喜んでるな」
「本当だぁ~」
これ見せてやりたかったな。
自分を大事にしないから悲しくて怒ってしまったけど、あいつがどれだけリョウちゃんを思ってたか知ってるから。
「へぇ…。今これを見せたいって願ったでしょ?2人も妖精たちに気に入られたみたい。いいよ、だって」
「まじでっ?」
その頃。
どうにも今日は怠くて、ベッドで寝転び本を読んでいたモトキ。
「ん?」
なに…
何か大きな流れが自分へ向かって来ていることを察知して飛び起きる。
「…っ」
突然部屋の窓がバンッと開き、大量の葉っぱが部屋で舞い踊り始めた。
「ぅぎゃあああぁっ!」
実は怖いことが大の苦手なため、半泣きで固まっていたらリョウちゃんの妖精たちが笑いながら現れた。
あはははっ
なきむしー
こわがりー
ふたりにいっちゃお
きゃはははという笑い声が響いて消える。
後に残るは、部屋中に散らばり溜まった大量の葉っぱのみ。
「…あんのふたりいぃ~、なにしたんだよおおぉっ」
しかも怖くて泣いたことまで知られるとか。
くそ妖精たちめ…っ
学校行ったら、絶対ゆるさなああああい!!
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!