…まだ朝の7時半だけど、早めに教室の席に座る。8時に近づけば、教室も人の話し声でいっぱいになった。
いつも通り、お馴染みの男子生徒が僕に近づいて、わざわざ隠していた痣や赤いマークをさらけ出すように、僕のシャツを破いた。
何に笑っているのかは分からなかったけれど、その人は愉快そうに鼻で笑っている。
「これ、キスマじゃねーかよ、痣までつけちゃってさ〜笑、もしかして、そう言うプレイで興奮するタイプ?きしょすぎんだろ」
敦「…」
「おい、なんか言えよ…ほんと気持ちわりぃ」
そのまま教室から便所に連れ出される。
すると骨の浮いた腹部に煙草をジュッと押し付けられて、思わず呻き声が出た。
そのまま殴られて骨に直接振動が届く。
みぞおちを殴られれば、朝も夜も何も食べてないせいか、胃液だけが飛び散る。
「汚ぇな、流してやるよ」
…バケツ1杯の水が僕と床を濡らしてから、その人は満足したように教室に帰っていった。
1時間目は、そんなことだけで時間が過ぎて、2時間目も、汚れたシャツの処理をしていたらあっという間に終わった。
乾いたシャツを着て3時間目は授業に出る。教科書も破られたから、ノートを取っているけれど、先生は其れをいつも通りと言った様子で何も言わない。
今日も全くいつも通りだった。
放課後、帰宅部の僕は、家を帰らなくてもいい理由を付けるために、机に勉強道具を出した振りをして眠りについた。
太「…つ、くん …あつしくん…敦くん!」
急に語りかけられて驚く。
振り向いて誰かを確認するまでも無く、その人が誰だか分かった。
敦「ん、嗚呼、また貴方ですか。…先生も僕のこの汚いマークや痣を笑いにきたんですか」
皮肉っぽく突き放すように言葉を放ったけれど、本当は少し嬉しかった。
太「そんな事しないよ、…それ、どうしたの」
敦「………、起こしてくれてありがとうございます、もう8時なので帰ります」
太「…待って」
鋭い目で見つめられて、手をぎゅっと引っ張られた。
太「…、隈が酷いよ。しっかり寝なきゃ駄目だ」
敦「…睡眠は…取ってますよ、少し」
太「食事は、?」
敦「………」
太「少し汚れているその服は、虐められていた証拠かい?」
敦「…よく聞けますね、。そうですよ、まぁ大丈夫ですけど、」
太「そんな、大丈夫じゃないに決まってるよ」
太「…お父さんとお母さんは君を心配しないのかい?」
敦「何も言われませんよ」
太「そうかい…、」
太「……なら、私が心配だよ」
…先生の腕が僕を優しくぎゅっと抱き締めるから、僕は思わず、ただ流れてくる涙に身を委ねるしか出来なかった。
…僕はずっと誰かにこうして貰いたかったのかもな。とふと思う。
僕をあやす様に頭を撫でてくれる先生の手が、今朝母さんが僕にしたものとまるで違うなと思った。
…今は其れが心地よかった。
少し経ってから、その手が離れた。
太「もしかして泣いてる?」
敦「な、泣いてません」
太「いいんだよ、隠さなくても。…君が何に苦しめられてるのか、私は知らないけどさ、話したくなったら何時でも聞くよ」
優しい声が僕の心を暖かくする。
冷め切っていた心が急に熱に触れたみたいで、心がものすごく痛くなった。
敦「…ありがと、ございます」
太「うん、…もう9時になっちゃうから、一緒に君の家に行こっか」
敦「はい、ありがとうございます」
席から立ち上がり、校舎から出たあと、先生と並んで歩いた。
…背、高いな。…包帯なんで巻いてるのかな、
厨二病??
…なんだか、昨日あったばかりなのに、この人の事を深く考えてしまう自分がいる。
嗚呼、今日はなんだか、本当に家に帰りたくない。
この人ともう少し一緒にいたい。
太「ねぇーえ、敦くーん、突然なんだけどさ」
太「私、先生って言ったの、あれ、嘘」
…突然の告白で、本来なら驚いて良いはずなのに、其れよりも何だか腑に落ちたような気がした。
敦「そうだったんですね」
太「おや、あまり驚かないね〜」
敦「納得の方が強いです」
太「私、夜の学校に不法侵入してるって事になるんだけど」
敦「じゃあ、もう来て呉れ無いんですか」
太「……、来て欲しい?」
敦「、べ、別に」
太「ふふ、素直じゃないなぁ。…職業柄、犯罪には慣れてるからさ、君が来て欲しいって素直に言ってくれれば、私は何時でも君に会いに行けるのだけど?」
…犯罪組織がなんだ、とか言っていたけれど、そんなことどうでもよかった。…今はただ、この人と一緒にいたい。
敦「これからも会って呉れますか?」
太「嬉しいな、いいよ。」
敦「ありがとうございます。せんせ、」
太「だから先生じゃないってば〜」
敦「じゃあ、太宰さん…」
太「うーん、私は治さん♡って呼んでくれてもよかったんだけどね〜」
敦「なんか嫌です」
太「けちー、まぁいいや」
あっという間に家に着いてしまってさよならをする時間になった。
…ほんの少しだけ言葉につまる。
ドアを…開けたくないな。
暖まった心がまた冷め切ってしまう気がする。
太「敦くんの家は此処?」
敦「…はい」
太「じゃあお別れだね」
敦「…はい、さよなら」
太「そんな悲しい顔しないでよ。“また”ね、敦くん」
ひらひらと手を振ってくれる太宰さんに
また明日、と告げて玄関に手を掛けた。
時刻は10時を過ぎようとしている。
怖くてゆっくり開けた扉の奥から父さんの手が伸びて僕の腕を引っ張った。
今日もまた、最悪な夜が始まる。
コメント
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涙出てきました……物語の書き方好きすぎます、、