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「ふあっ。」
手で口を抑え、大きくあくびをする。昨日はあまり寝られず、寝不足になってしまった。電車通勤であるため、早くに家を出ることも関係している。
「眠…。」
短く言葉を吐いて、電車に揺られながら本を持つ。パラパラとめくっていると、余計に眠気が襲ってくる。
(だめだ、少し寝よう。それで、学校で色々──…。)
寝落ちした。朝日に加え、電車の中であるため、ゆすられているのと変わりない。そんな環境が、とても心地よい。
肩を揺らされた。ハッと目を覚まし、周りを見る。自分の学校が山の方にあるからだと思うが、周りには誰もいない。だが、自分の横に、同級生の髙橋健(はしもと けん)が居た。見る限り、どうやら肩を貸してもらってたらしい。
「あっ、ご、ごめん…!」
すぐに体勢を正し、謝る。この健は苦手だ。周りが空いているのにも関わらずわざわざ横に座ってきたのにも、肩を貸した恩を作ろうとしてたのかも知れない。
「別に良いけどよ、寝ないとニキビ出来るってよ。」
この馬鹿にしてくる感じがどうにも鼻につく。
「うるさいってのっ。」
「怒んなって、短気なやつ。」
こっちを見てニヤニヤしている。しつこい奴め、と思い、そっぽを向く。ふと見ると、健が自分の本を持っていた。寝ながら持っていたため、落とすだろうと思い持っててくれたのだろう。健の手から本を素早く奪い、
「…ありがとね。」
と言った。奪われても笑っている健は、急に取られたことを気にしている様子もない。
「何?寝れない理由でもあったか。」
「別に。関係ないじゃん。」
あ?と言われつつも、無視を決め込む。
「肩貸してやったのに。そういうとこなんじゃねーの?」
何がそういうとこなのか分からないが、確かに肩を貸してもらったのは一理ある。
「……後輩に…。」
「声小さくて聞こえねぇ、もっかい言ってくんね。」
イライラしてはいけない。冷静になろう。こんな健であっても役に立つ時は来るかもしれない。
「…後輩に、されたの、告白を!!」
断片的に言い、絶対に聞こえるように言った。だが、反応は無い。どうしたかと思い、横をチラ見する。
そこには、口を開けたままの健が居た。
(え?そんなに驚く?)
と思っていたら、健がゆっくりと口を開く。
「…ガチで?」
(…なんか昨日の瑠璃見たい…。)
「ホントだよ…、こんな嘘言わない。」
そういうと、
「マジか…。」
と何故か絶望したような声を出した。
(後輩から告白ってシチュエーションにそこまでびっくりしたのか。確かに、健には全く縁のない事だし! )
「いやしかし、お、お前でも告白なんてされるもんなんだな…。」
「何よ、お前でもって。私もびっくりしたんだから。」
ふうっと溜息をつき、向かい側の窓から見える景色を眺める。
(やっぱり、今日返事をするべきかな。長引かせるほど期待させても悪いし…。それに、どうせ断るか受けるかの2択なんだから、沢山考えてもしょうがない。後輩には悪いけど、今のままの関係で──…。)
「断るのか?」
突然回想を邪魔されて、肩がビクッと揺れる。
「急に話しかけないでよ。驚くでしょ。…でも、正直断ろうかなとは思ってる。」
「そっか…。」
やけに安堵した健を見て、少し変なのと思う。
(何よ、私より驚いたりして。)
電車に揺られながら、2人で学校へと向かう。やはり一人でいるより、嫌味なやつでも一緒にいた方が落ち着く。