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「おらぁっっ!!! くたばっちまいな!!」
アルシノエの大剣一振りで手前に見えていた魔物は一斉に吹き飛ばされ、とり逃がした魔物は他の戦士がとどめを刺すという流れのようだ。
「魔物が襲って来る度にこの町では最強が誰かを決めているんですよ。と言っても今のところ姉しかいないんですけど、以前は私が組んでいたパーティーメンバーの中に~……」
「……うん」
さすがギルドマスターだけあってアルシノエの強さは確かだった。重量のある大剣で吹き飛ばし攻撃。これなら確かに魔物の種類は関係無い。しかし魔物全てを吹き飛ばしても完璧ではなく、数匹は攻撃から外れている。攻撃の破壊力はありそうだが取り逃がしてしまうのは、大振りな攻撃にはありがちだ。
この戦いを見ると魔物を殲滅させるわけではないらしく、むしろあえて逃がしているようにも見える。軽傷を負う戦士もちらほら見かけるし、圧勝というわけでもなさそう。
それならここは俺が出て回復を――と思って前へ出ると、
「ルカスさん? あれ、まだ姉たちが戦ってますけど、どうされるんですか?」
すかさずウルシュラから声をかけられた。
「怪我人もいるみたいだし第一波の魔物が残り少なくなってるから、そろそろ出ておこうかなと」
「あ、本当ですね。でも、姉たちが完全に戻って来てからでもいいと思いますよ!」
戦士たちの強さも大体理解したし、俺だけここに待機する意味は無いはず。
「え、しかし……」
「姉の強さは分かっていただけたはずです。戦士たち全員もそうですけど、魔術師の魔法を間近で見たことが無い人たちばかりですのでルカスさんのお強さを見せつければ、きっとルカスさんに対する見方が変わるはずですよ!」
それもそうだ。ウルシュラは俺の強さを知っている。それなのにここに控えさせているのは、アルシノエの強さを見せたかったわけか。
しばらくして手前に見えていた魔物は一掃された。立てないほど怪我を負った男たちはいないようだが、疲労はかなりありそうに見える。
「ふぅっ……。どうだい? あたしらのような攻撃は見たことが無いだろう?」
ギルドマスターのアルシノエにはまだ余裕がある。しかし他の戦士は休みを挟まないと厳しそうな気も。
「アルシノエさま! ルカスさんは治癒魔法が得意です。彼らを回復してもらうのはいかがでしょうか?」
ウルシュラは自信満々な顔で俺を見る。第二波の魔物到達までは少し間があるし、治癒魔法をかけてもよさそう。
そんなウルシュラに対し、
「へぇ? 魔術師といやあ、範囲の攻撃魔法だけかと思っていたがそんなことも出来るのかい? 万能の魔術師か。そいつはいいね! しかし、こいつらにとってはいつものことさ。回復は無用だよ」
アルシノエはあっさり断った。傷だらけの肉体を勲章にしている戦士がいるのは聞いたことがある。ここではそれが当たり前かもしれないが、せめて今回受けたダメージ分だけでも治してやりたい。
「で、でも、ルカスさんは回復させるのも得意としてるし、すぐに元気になりますよ?」
「この町の戦士にそんな甘ったれた奴は無用だよ! それに回復に魔力を使っちまったら、今以上に魔物を取り逃がしちまうんじゃないのかい?」
どうやら魔術師にいい印象を持っていないとみえる。ウルシュラを追い出したパーティーが関係していそうだが……。
「……じゃあこうしましょう。次の魔物を全て視界上から消し去ったら、皆さんを回復するというのはどうですか?」
「視界上から? 第二波、第三波関係無く全滅をさせる――そういうことかい?」
「そうです」
相当疑われてるな。
「ウルシュラ! ルカスはそんなに強いのかい?」
「は、はい。それはもう……!」
「本当に本当だね? あんたを追い出した魔術師みたいに口先だけの奴はこりごりだよ!」
妹であるウルシュラにまくしたてて聞くなんてどれだけ魔術師嫌いなんだ。いや、この場合はウルシュラを守っての発言か。
「――もうすぐ第二波の魔物ども……それもよりにもよってゴブリンの大群が近づいて来る。そこまで言うなら、一人でやってみな! 取り逃がしも許さないよ!」
「すぐに終わりますので、ご安心を!」
俺は武器も無しに、町と戦士たちを背にして前面に立った。
「おいおいおい! ひ弱な魔術師一人に町を託せんのか?」
「ギルドマスター! 魔術師なんざ信用出来ねえよ!」
「妹さんには悪ぃが、魔術師は――」
だが無策に思えたのか疲れを見せる戦士たちが地面に座り込み、口々に文句を言い出し始めた。それもそのはずで、この場で立っているのはウルシュラとアルシノエだけだからだ。
そんな状況下で、向かって来る魔物はゴブリンの大群と後ろに控える巨人族が数百以上といったところ。
力を見せつけるにはちょうどいい数ともいえる。
「ちっ、ゴブリンキングも見えているじゃないか。本当に大丈夫なのかい?」
アルシノエも文句を言っている中、彼女の声をかき消すかのように俺は冴眼の力を解き放つ。
そして――一瞬、空が真っ白に輝く閃光が走る。辺りにいた彼らやアルシノエは光に耐えられずに咄嗟に目を覆い、戸惑いながら声を張り上げた。
「――な、何だ、何が……!? バ、バカな……!! 魔物どもの姿が無い……だと!?」