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外は静かだった。
それもそのはず。今の時間は午前3時。
まだあまり人は起きてない時間帯なのだ。
普通なら寝てる時間なのに、何故か私はお昼時のように目が覚めている。
あの1口サイズのものが喉を通る感覚が。
あの肉を裂く音が。
あの手の内から流れ込んでくる液体の感覚が、まだハッキリと残っていた。
それらを思い出すと、途端に気分が悪くなって顔を下に向ける。
顔を畳へと向けると、私の膝の上で眠るお母様が大きく私の視界に映された。
「……お母様。」
そっと赤子を触るように、優しく指を触れる。
もうあの温かさはなく、ただただ冷たい温度が神経を通して伝わってくる。
「愛してる。」
お母様から言われた言葉を、同じように返す。
愛してる。
意味はあまりよく分からなかったが、きっとこの言葉は「大好き」と似た言葉。
お母様は、私のことが大好きだから。
着替えを求めてタンスを漁ると、奇跡的にまだ綺麗な状態のものがパーカー、スカートと1着ずつ残っていた。
今の格好のまま外に出てもいいのだが、万が一血塗れの私を見られてしまっては町が大騒ぎになってしまう。
タンスから出した服に着替えようと今着てる服を脱いでると、低い声が少し遠くから聞こえた。
玄関に続く廊下の方を向けば、そこには黒い髪に大きな布を1枚頭から通しただけの、私より小さな子がいた。
「名無し。」
彼の名前を呼べば、その子は口元だけで笑顔を見せる。
ベタベタの髪は鼻までしっかり隠されており、私も13年ほどの付き合いだが、未だに顔をちゃんと見たことはない。
リビングを横切って歩いてきた名無しは、私の横に来るとピタリと足を止めた。
「…行くのか?」
口を開けば、ただそれだけ聞いてきた。
私は心を読まれたように思い、少し目を丸くさせる。
「うーん…。もう私がここにいる理由もないし、町の外に行ってみたかったから、丁度いいかなって。」
名無しは頷きもせず、ジッと私を見つめては顔を少しだけ下へ向け「そうか。」と落ち着いた声を零す。
その声がやけに寂しそうな声に感じ、私は名無しの頭に手を乗せた。
「…ありがとう、今まで私の相手をしてくれて。友達なんていなかったから、凄く嬉しかったよ。」
「…別に。自分の姿が見えるのが、ユキしかいなかっただけだから。」
そう。名無しは幽霊だから、他の人には見えない。
でも、何故か私だけ名無しが見えてるから、知り合ってからはよく2人で話していた。
それも今日で終わるのだろう。
私は綺麗な服に着替え終わると、玄関の方へゆっくり向かった。
「どこに行くとかはあるのか?」
背中から名無しの声を聞くと、私は悩むような唸り声をあげる。外のことなんて知らないから、どこに行くも何もなかった。
唯一思いついたのは、町の大きな花畑の隣にある森ぐらいだ。
「自然にたくさん触れてみたいな。あの花畑みたいな場所とか探したいし。」
「…まー、随分と呑気なことだな。人を殺したってのに。」
玄関のドアを開ければ、名無しが意地悪でそんな事を言う。その言葉を聞いて、私はちょっとだけ最低な思考が浮かんでしまった。
「……人殺しかぁ。」
あの人は、死んでよかったのだ。
「私が人殺しなら、あの人達はどんな呼び方をされるんだろうね。」
私は、何度もあの人達に殺されてるのに。