京都呪術高専の会議室に、重苦しい空気が漂っていた。戦闘の報告を受け、教師たちが集められている。
「……つまり、不知火陣は”呪霊の改造”を行い、呪力なしで戦う術を持っていた、と」
鹿島泰弘が眉をひそめながら言った。彼は京都高専の教師であり、呪術理論の専門家だ。夜蛾の師の一人でもある。
「ああ。奴の戦いは異常だった。呪力を持たない。だが、呪霊を利用することで、それを補っていた」
夜蛾正道が答える。
「呪力がないのに呪術を扱うか……興味深いな」
鹿島は腕を組み、思案するように目を閉じた。
「確かに、呪霊の改造技術は脅威だ。だが、それを利用できれば、こちら側にとっても新たな可能性が生まれるかもしれん」
「……どういう意味ですか?」
庵歌姫が疑問を投げかける。
「簡単なことだよ。“呪霊の力を術師が完全に制御できるようになれば、それこそ最強の兵器になる” ということだ」
その言葉に、一同が凍りつく。
「……そんなこと、呪術師の在り方として許されるわけがない」
楽巌寺嘉伸が厳しい表情で言う。しかし、鹿島は口元に薄く笑みを浮かべた。
「”許されるかどうか”ではなく、”実現可能かどうか”が問題だろう?」
夜蛾は鹿島の態度に違和感を覚えた。
(何か……おかしい)
その違和感は、次の出来事によって確信へと変わることになる。
翌日――
夜蛾が研究室で呪骸の調整をしていると、鹿島が訪れた。
「夜蛾、少し話がある」
鹿島は冷静な表情で、扉の前に立っていた。
「……何の用です?」
夜蛾は警戒しながら問う。
「お前の呪骸研究についてだ。最近、成果を上げているようだな」
「まあな」
「お前は”自律する呪骸”を作りたがっているが……それには決定的な要素が足りない」
鹿島は静かに言った。
「足りない要素?」
「”魂”だよ」
夜蛾の目がわずかに見開かれる。
「お前の呪骸は優秀だ。だが、それらは命令実行に過ぎない。“魂”を組み込むことができれば、呪骸は生きたように動く」
「……そんなことが可能だと?」
夜蛾は信じられないという表情を浮かべる。だが、鹿島はゆっくりと懐から札を取り出し、それを夜蛾の机の上に置いた。
「これは、不知火陣が使っていた技術の一端だ」
夜蛾は驚愕する。
「……なぜ、お前がそんなものを?」
鹿島はわずかに笑みを浮かべる。
「夜蛾、お前は賢い。俺と共に来い。お前の技術と、不知火の技術が組み合わされば、呪術の新時代を築ける」
「……まさか、お前……」
夜蛾は愕然とする。
鹿島は、すでに不知火陣と繋がっていた のだ。
「呪術界はもう時代遅れだ。呪術師は呪霊を狩る者ではなく、呪霊を”利用する者”になるべきだ」
「……ふざけるな」
夜蛾は怒りに満ちた声で言った。
「お前が言っているのは、呪術の在り方を根底から覆すことだ! 呪霊の利用は、術師の存在意義を否定することと同じだ!」
だが、鹿島は冷笑した。
「……お前はまだ分かっていないな、夜蛾。どのみち、呪術界はこのままでは滅びる」
「!?」
「俺は、お前の技術を認めている。だからこそ、お前に選択肢を与えているんだ」
鹿島は再び札を夜蛾の前に押し出した。
「お前も来い。そうすれば、お前の望む研究を思う存分進められる」
夜蛾はその札を見つめた。
(……俺の研究が……進められる……?)
一瞬、心が揺らぐ。
だが――
「……答えは、”否”だ」
夜蛾は静かに言い、札を突き返した。
「そうか」
鹿島はため息をつき、背を向けた。
「なら、残念だよ。お前とは、もうここで決別する」
次の瞬間、鹿島は印を結んだ。
「”呪骸制圧術”――起動」
突然、夜蛾の研究室に置かれていた呪骸たちが動きを止めた。
「……!?」
夜蛾の目が見開く。
「お前の呪骸研究には、俺の教えが根底にある。俺には、お前の術式をある程度”封じる”手段がある」
「……くそッ!」
夜蛾はすぐに呪力を練ろうとする。しかし――
「”拘束の印”」
鹿島がさらに印を結ぶと、夜蛾の体が重くなった。
「……呪力封じか……!」
「流石だな、すぐに気づくとは」
鹿島は悠然と微笑んだ。
「さて……お前には、しばらく”おとなしく”してもらおう」
その言葉と同時に、夜蛾の意識が暗転した。
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