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「はぁ、なんで俺が着いて行かなきゃならないんだよ!」
王城を後にしたグレイ達は酒場に来ていた。
酒場にはガラの悪そうな人が多く、冒険者なども多数いた。酒臭くてあまり居場所の良い所では無いが話し合うならここが1番らしい。
「えーと、そんなに嫌だった?」
グレイが聞くと赤髪の青年は目を鋭くして睨みつける。
「嫌に決まってんだろうが!魔王を倒せなんて命令クソくらえだ!師匠に言われたから顔出しに行ったけどよ。どうせ選ばれねえと思ってたのに。大体、なんで俺を選ぶんだよ。もっと強い奴なら沢山いただろうが。」
思った通り、彼は魔王を倒す気なんてない。
「君さ、魔王倒すなんてめんどくせーって思ってたじゃん?だから選んだ。」
そう言うと青年は訳がわからないと眉を顰める。
「はぁ?なんで勇者パーティでそんなやつ選ぶんだよ。本末転倒じゃねえか。」
「だって、ゆっくり旅したいじゃん?せっかく自由になったんだし沢山寄り道したいもん。」
グレイが言うと青年は目を丸くし、そして威勢よく笑い出す。
「はっ!なんだその自分勝手な理由。良いぜ、気に入った。その代わり、俺も自由にやらせて貰うぜ。」
「うん、勿論だよ。そうだ!自己紹介がまだだったね。僕はグレイ・モルトだよ。君は?」
「オレはブレイン・ハルトだ。殴る蹴る斬るなら俺に任せろ。で、お前の得意はなんだ?」
ブレインに言われグレイは少し考えを巡らせる。自分に得意技なんてあっただろうか。
「えーと、受け身と人の気持ちを読み取るとか?」
「あ?どういう事だ?」
「えーと、例えば嘘を付いていたら癖とかからすぐ分かるし、ブレインが魔王討伐めんどくせーって思っていたのもすぐ分かった。ブレインさ、僕がまともな勇者だったら金巻き上げようって思っていたでしょ?」
指摘するとブレインは焦った表情する。
「は?そんな事思ってねえよ!」
「あはは、そこまで焦ったら僕でなくても分かるって。」
「はぁ、思ってたよ。てか、なんで分かるんだよ。」
「表情には出てなかったけど。うーん、勘?」
「なんだそりゃ、、、」
グレイのこの特技は奴隷生活で学んだ物だ。持ち主の表情や歩き方、息遣いなどから八つ当たりされるかどうかを見極めたり、食事の供給を交渉するタイミングなど見極めようとするうちに自然と身についた。恐らくその特技が無ければグレイはあの世界を生き抜く事はできなかっただろう。
「てか、そういう特技を聞いてるんじゃねえんだよ!戦闘で何が出来る?」
「え?何も出来ない。剣も持ったことないし。避けるとかならできるかも。」
ブレインはしばらく項垂れていた。
話がひと段落し、2人は王都の近くのガリシエル高原でモンスター狩りに来ていた。
「仕方ねえからしばらくの間冒険者ギルドの依頼受けるぞ。強くならねえと旅すらできねえからな。」
初めての依頼は高原に出るスライムの退治だ。書いてある場所に向かうとプニプニしてて、跳ね回っている水色の生命体が草むらから飛び出した。
「おーこれがスライム。」
「初めてでもコイツくらいなら倒せるだろ。俺はここで見てるから」
ブレインは近くの木に腰掛ける。
スライムは全部で6体おり、今にも攻撃する機会を伺っている。グレイは先ほどもらった剣を抜く、剣はとても重く持つだけでやっとだ。
「やぁ!」
なんとなくでスライムに振り下ろすとスライムが破裂し、体にスライムがかかる。
その隙に他のスライムがグレイに体当たりし、グレイは倒れる。剣が重くて立ち上がることが出来ず、スライムがさらに追撃、5匹のスライムがグレイに一斉に襲い掛かり、グレイは体力を奪われていき、、、
「なんでスライムに負けてんだよ!」
ブレインが斧を振り下ろすとその余波だけでスライムが全部破裂した。
「いやー強力な魔物だったね。」
「お前どんだけ弱いんだよ!こいつが勇者とかマジでこの国頭おかしいんじゃねえか!?」
「ほんとだよね。まぁ、スライム一匹倒したし、上出来上出来!」
「10歳のガキでも倒せるんだよ!あいつら。」
「ブレイン、ちょっと待ちたまえよ。僕は思うんだ。成人男性に散々殴られ続けた僕があいつらに負ける訳がない。」
「あ?まぁそれはそうかも。」
「つまり、この勇者の剣は僕には重すぎる。軽いやつ買おうよ。」
「はあ、こいつを選んだ勇者の剣の気が知れねえぜ。」
「僕しか持てないんだし仕方ないよね。筋肉つくまで待って貰わないと。」
「旅に出るのいつになるのかわかんねぇな。」
王都に帰り、その日は宿で夜を明かした。布団は王城の物ほどでは無かったがとても熟睡出来た。次の日鍛冶屋に向かう。鍛冶屋には斧やレイピア、ロングソードにナイフなど様々な武器が置いてあった。
「おーい、おやじ。いるか?」
ブレインが呼ぶと奥から小柄で恰幅の良いおじさんが出てくる。
「ん?ブレインか。なんか用か?」
「ああ、こいつの武器を作りてえんだ。」
「武器って、、、既に相当な業物持ってんじゃねえか。」とグレイの腰につけた剣を見る。
「あーそうなんだがよ。こいつには扱いきれねえんだわ。宝の持ち腐れって奴だ。だから軽いナイフとかを見繕ってくれよ。」
「なるほどな。ちょっとその剣見してくれねえか?」
彼がその剣に触れるとバチっと言う大きな音と共に彼を拒絶する。彼の手は黒く焦げており、煙が出ている。
「おっと、なるほどな。この剣、意志を持ってるな。自分が認めた人間以外には絶対に触らしちゃくれねえ。難儀な物だな。」
彼は腕にポーションを掛け治療しながらグレイを見る。
「体格からしてお前さん、相当ひ弱だな?これじゃあナイフくらいしか持てねえな。もしくは金はかかってしまうが軽量化のバフ付きの剣か。どっちがいい?」
「それなら剣の方がいい。金なら王から沢山もらってるし、最終的に使うのは剣だ。使い方は覚えといた方が良い。」
とブレインが話す。
「それもそうだな。」
「あと、装備も軽くしたい。鉄の鎧とか絶対重量オーバーだ。」
「革装備も用意しておこう。」
そのまま、グレイは蚊帳の外でブレインとおじさんだけで話が進んで行った。
「ほら、出来たぞ。」
あれから5日ほど経ち、新しい剣と鎧が作られた。装備制作の間ブレインの訓練が施され、グレイの体は動けるのがやっとな程全身筋肉痛だった。
「うぅ、体が動かない、、、腕上がらない、、、」
「こいつ、過酷な環境にいた割にはすぐ根を上げるな。」
「あんまり初心者を虐めるなよ。さ、お待ちかねの新装備だ。」
グレイは装備に着替え、剣を手に持った。革の装備は鉄と違い軽く、動きやすい。剣も見た目の割にかなり軽く、グレイでも充分振り回す事ができた。
「おじさん、いい感じだよ!これなら戦えそう!」
「おう、気に入ったようで良かったよ。ところで値段の話だが、」
領収書には見た事ないような数字が並んでいた。
「武器ってあんなに高いんだね、、、使わなくなるのが勿体ないや。」
「まぁ、武器を自分のランクに合わせるのはよくあるからな。アレくらいなら普通だぞ。それに多分お前が勇者の剣を使えるようになるのはまだまだ先の話だよ。」
「えぇ、そんな事ないよ!すぐ振れるようになるし。」
「腕立て10回も出来ない奴が何言ってんだ。」
ブレインは意外と面倒見が良いんだろう。やはり、この人を選んで正解だった。心の中でそう思うグレイだった。