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「もしかして、葵ちゃんの弟くん?」
私が結月の名前を呼んだことで矢上さんは弟だと気付いたのか、そう問い掛けてくる。
「は、はい……」
「何だ、そっか。でも、弟くんがどうしてこんなとこに?」
その疑問は私も聞きたいところだ。
まだ1次会も終わってないし、ついさっき電話で終わったら連絡する旨を伝えたはずなのに。
怪訝そうな表情の結月は矢上さんの質問に、
「何? 弟の俺が来ると何か不都合なことでもあんのかよ? 葵に用があるから来たに決まってんだろ? 外野は引っ込んでろよ」
鋭い視線を向けながらそんな言葉を言い放った。
「ちょっと、結月……」
態度の悪い結月を咎めようと私が口を開いたけれど、それよりも先に矢上さんが、
「ごめんごめん、気を悪くしちゃった? 怒らせるつもりは無かったんだよ。けど、お姉さんの合コンにわざわざ出向いて来るなんて……君、葵ちゃんのことが好きだったりするのかな? だとしたら俺も黙ってられないかな? 弟って言っても君と葵ちゃんは義理の姉弟なんでしょ? だったら他人みたいなものだし、恋路の邪魔はされたくないんだよね」
表情こそ穏やかなままだけど、まるで挑発するかのように負けじと結月に言い返してきた。
「ウザ。何で見ず知らずのアンタにそんなこと言われなきゃならねーんだよ? つーか義理でも家族には変わりねぇし、他人のアンタより葵のことは分かってんだよ。少なくとも、葵はアンタみたいな男は苦手だと思うぜ? なあ、葵?」
「ちょっと、結月!」
「何だよ、もしかしてお前こういう軽い男がタイプな訳?」
「そういう問題じゃないって……。矢上さん、すみません、弟が失礼なことばかり……」
「いいって、気にしてないよ。それにしても、その様子じゃ弟くん、帰るつもりもないだろうし、葵ちゃんも今日は帰った方がいいかもね? とりあえず一旦部屋戻ろうよ」
「すみません……。結月、ちょっとここで待ってて。みんなに一言断ってくるから」
「そいつは信用出来ねぇから俺も付いてく」
「もう、失礼なことばかり言わないで! いい? ここで待ってて!」
「……ッチ。分かったよ。すぐ戻って来いよ」
結月の挑発には乗らず、更には私に今日は帰った方がいいと助言してくれた矢上さん。
みんなに一言断りを入れる為に部屋へ戻ることに決めた私は、渋る結月にこの場で待つよう念を押してから矢上さんと共に部屋へ向かって歩いて行った。
部屋へ戻る道すがら結月の姿が見えなくなると矢上さんはすかさず「葵ちゃん、連絡先、教えてよ」そう言いながらスマホを取り出して連絡先を聞いてくる。
正直あまり教えたくは無いけど断りきれない私は「はい」と返しながら連絡先を交換した。
そして、矢上さんがみんなに上手く説明してくれて私は一人抜けることになって、結月の元へ戻って行った。
「もう、終わるまで待っててって言ったのに」
「お前がいきなり電話切るからだろ? しかもあの男、お前に迫ってたし、助けてやったんだから感謝をしろよ」
「…………」
カラオケ店を出た私たちは繁華街を歩きながら先程のことについて話していた。
まあ確かに矢上さんに迫られたときは困っていたから助けてもらって良かったけど、そんな恩着せがましい言い方はどうなのだろう。
「それで、これからどこに行くの? 泊まるって言ってたけど……」
「まあ、ひとまず飯でも食おうぜ。俺腹減ってるし」
「何も食べてないの?」
「ああ。さっきまでカラオケ向かいのカフェでコーヒー飲んでただけだし」
「え? 漫画喫茶に居たんじゃなかったの?」
「カフェの方が近いし、すぐにお前を迎えに行けたからな」
「って、初めから迎えに来る気だったの?」
「まあ。どーせお前、途中で抜けられなさそうだから、迎えに行って連れ帰ろうとは思ってた」
「何でそんなこと……」
「決まってんだろ? お前が合コン行くなんて面白くねぇからだよ」
「え……」
「それに、合コンに来る奴なんてろくなの居ねぇに決まってんじゃん。さっきみたいな男とか」
今の結月の言葉は、どういう意味なのだろう。
私が合コンに参加するのが面白くないなんて、どういう意味で口にしたのだろう。