もし、和解できていなかったら、
ぴくりとその身体を一度震わせ、轟は突っ伏していた机から顔を上げる。そのまま何をするでもなく、ぼーっと机の一点を見つめた。木目がこと細かに見えて、意識が現実から離れていく。
体育祭を終え、入院している母に会いに行ったのは、3日ほど前だ。まだ気持ちの整理がつかず、ごちゃごちゃと心が音を立てる。これをどうすればいいのか分からなくて、ただただ気持ちが悪い。
母とあった瞬間が、また脳内で蘇る。お互いに気まずくて、無言だった。お母さんと震える声で呼べば、母は椅子に座り込んだまま身を引いた。
母は怯えていた。
醜いと言った左側に
氷を溶かしていくこの熱量に。
火傷の痕を残してしまった負い目に。
轟は母の怯えを取引きたくて、1歩前に進もうとして。
母が出した氷が、轟の足元にパサりと刺さった。呆然としている轟に対し、母の顔からは血の気が引いた。それを見て、無意識に個性を出してしまったのだと気づく。ごめん、と謝った。怖がらせて。ごめん、ごめんなさい。と、気づけば自分の口から、漏れ出てくるこの謝罪ばかりで、違う、こんなことがしたかったんじゃない。会って、話を、したかっただけなのに。
母に会いにきたこの足で、轟はいつの間にか病院の廊下を駈けていた。はぁ、はぁと息がなるのは走っているからか、悲しさからか、もしくは、両方か、どうしたの、と声をかけてくれた看護師に答えることも出来ず、ただがむしゃらに走って、家まで逃げ帰った 。
お母さんと話はできた?と出迎えてくれた姉の服の裾を、勢いのまま掴んだ。え、と困惑した姉に構うこともせず轟は、簡単な事じゃなかった……!と涙混じりに呟いた。
会って話して、分かり合うことは簡単だと思っていた。母との暖かい記憶があるから、母にも自分との暖かい記憶があるのだと、勝手に想像していた。
母にはそんなものがなかったそう思ってしまえるほど、あの時記憶だけが、強く残って、他の記憶を覆い隠していた。心の奥底に、しまわれてしまっていた。
どうれば、どうればいい。どうればまた向き合える?
ただ、あの頃みたいに笑いあって、抱きしめて欲しいだけなのに。
ずる、と再び、轟はさっきと同じように机に突っ伏た。
昼休みのがやがやとした空気から離れたまま、轟はそっと目を閉じた。
焦凍、と読んでくれた母の声が酷く遠い
どんな声で、呼んでくれたっけ。
おかあさん。そう呼びかけてくれる人はもう、いない。
この世界線もあったのではないでしょうか、
轟くんはもう、おかあさんとは、呼びませんね。
ここから家族が変わっていくかは轟くん次第ですね。
こちらも、溜まっていた下書きの1つです。
最後まで見ていただいて有難う御座いました。
まだまだこういう系を出していくので、そちらも、見ていただけると嬉しいです。
コメント
3件
うっ"あぁ"上手すぎて直視できないッ! 神様っ!!
見ていただき有難う御座います。 こういう世界線もあったのではないかと思い書きました。 読み切りです。 誤字っていたら言ってくださると嬉しいです。修正します。