「良い子って、何だと思う?」ベッドに身体を預け、窓の外を眺めながら問い掛けてくる。そんな哀愁漂う彼女の頭を撫で答えた。
「それは…」
「……きろ。起きろ、逸樹」
まどろみの中で、声がする。
うっすら目を開けて声の主をみると、見覚えのあるメガネ親父がいた。
「…何だよ父さん」
「何だよとは何だ。そこは『おはよう』だろう」
「…深夜3時に叩き起こしてる癖に何を言ってる…」
「3時は朝だ」
「暴論過ぎるだろ…時間感覚どうなってんの…」
父の時間感覚に驚きながらも、渋々起きる事にした。
「それで、何で父さんはこんな早くに起こしたんだ?何か用事でもあったっけ?」
「ああ、今から新しい家に行くぞ」
その言葉を聞いた瞬間、時が止まったような気がした。
「…は?今、なんて…?」
「だから、今から新しい家に引っ越すんだ」
「……聞いてないんだけど」
「言ってないからな」
「こんのバカ親父!言っとけよ!」
「はっはっは!サプライズだ」
ドッキリ大成功と言わんばかりの子供のような父の笑顔に、俺の拳が疼いた。
「6時には出発するから荷物まとめておけよ」
「家具はどうするんだよ」
「昨日お前が眠った後に売ったり運んだりしたんだ」
「あ、そう…」
まあ、だいたい俺が眠るのは夜の9時だ。今はテスト期間とかじゃないから遅くまで起きてることはない。
文句を言っても決まってしまったものは仕方が無いので、大人しく荷物をまとめた。
「ふぅ……こんくらいで良いかな…」
俺は私物が少ないから直ぐに終わったのだが、矢張り参考書やらなんやらがめちゃくちゃ重い。
「父さーん、終わったよー」
「おう。お疲れ、逸樹」
「ん、ありがとう」
終わったことを父に報告に行くと、栄養ドリンクをもらった。
すっかり広くなったリビングを台所から眺めながら父と一緒に栄養ドリンクを飲んだ。
「でも、何だって急に引っ越しなの?」
「そりゃあ俺が再婚したからだろうが」
「ブーッ!!」
「汚えぞ、逸樹」
「ゲホッ…い、今…再婚っつったか…!?」
「あれ、これも言ってなかったか?」
「聞いてねぇよ!!」
本当にこのバカ親父は…!そんな大事なことは言っておけよ!
「済まん済まん。すっかり忘れてた☆」
下手くそなテヘペロを披露する父。絶対に許さねぇ…
「…再婚したって、挙式したのかよ?」
「いや、届けだけだ」
「……その人に子供は?」
「娘が3人だ」
「娘……」
おいおいふざけんなよ。中高で女子と会話なんてほぼしてねぇぞ……しかも3人だと…
「年はみんなお前と近いから大丈夫だろ」
「余計に無理なんですが」
「はっはっは!お前さてはDTだな?」
「黙れ眼鏡」
「酷くない?」
泣き真似をする父を無視して俺は絶望していた。まだ小さい子なら大丈夫なのに…年が近いって……本当に無理なんだが…
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