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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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「お前さ」


また盛大な隈を作って教室に入ってきた青木を見るなり、赤羽が笑った。


「睡眠薬でも処方してもらったらいいんじゃねえの?」


「うっせ」


青木は短く言うと、自分の席について机に突っ伏した。


昨夜、いくら布団を被って寝ようとしても、偶然目撃した桃瀬と黒崎の情事がチラついて眠れなかった。


やっと意識が遠のいたかと思うと、自分の股間を桃瀬が舐め上げていて、やっと夢の入り口に吸い込まれたかと思うと、黒崎が後ろから覆いかぶさってきた。


だからと言って2人を想像して一人で抜くのは違う気がして、一晩禁欲を貫いたのだ。


(いや、なんか2人をオカズにするのも白鳥を裏切るような気がしてなー……)


顎をテーブルについたまま顔を上げると、


「よっ!」


登校したばかりの白鳥がこちらをのぞき込んでいた。


窓から差し込む朝陽が、これでもかというように白鳥の金髪を反射させている。


「昨日は途中でごめんね」


「あ、いや……!」


慌てて身を起こす。


「あの後、一人で大丈夫だった?」


「え!?だ、大丈夫に決まってんだろ!何があるって言うんだよ?」


声が裏返った青木を、白鳥はパチクリと瞬きをしながら見下ろした。


「ごめんね、拾わせて」


「――――?」


青木は白鳥の端正な顔を見つめ返しながらフリーズした。


「あ」


「え?」


「やば」


「……何が?」


そのとき、


「――白鳥!!」


教室に怒号が響き渡った。


振り返ると、教室後方の出入り口に、背の高い男がドアに寄りかかりながらこちらを睨んでいた。


「緑川先輩……!」


白鳥が眉間に皺を寄せながら呟く。


「……げ」


青木はその男が持っている標語ポスターを見ながら口を開いた。


「――――」


それですべてを察したらしい白鳥は、黙ってその男の元に行った。


「なんだこのザマは。特別棟の廊下に散らばってたらしいぞ」


直毛の黒髪を掻き上げながら、男は切れ長な目で白鳥を睨んだ。


「すみません。ちょっと昨日予期せぬトラブルがあって……」


「トラブルがあったら、ポスターをバラ撒いて帰るのかお前は」


男の隙のない言い方に、クラスメイト達がざわつく。


「あ!俺です、それ!!」


青木は慌てて立ち上がった。


「俺が一緒に手伝ってるときに落としてばら撒いちゃって!拾っとくって約束したのに、ちょっといろいろあって忘れて帰っちゃって」


青木は、じっと男を睨んでいる白鳥と、顎を突き出して白鳥を見下ろしている男の間に立ちはだかった。


「すみませんでした!全部俺が――」


「俺は!」


青木の言葉と声を、


「白鳥に命じたんだ」


男の低い声が遮る。


「命じたって……。いくら先輩でもただの生徒でしょ」


青木は男を睨み上げた。


「あんたそんなに偉いんですか?」


「なんだと……?」


白鳥だけを睨んでいた視線が青木に向く。


「この際だから言わせてもらいますけどね。白鳥に辛く当たったり、一人にあんな量のポスターを押し付けたり、ハッキリ言ってこんなのイジメですよ」


青木はその男からポスターをぶん盗った。


「俺、イジメは絶対許さない|性質《たち》なんで。ポスターなら俺が放課後一人でやっときますよ。それでいいでしょ」


青木はゆっくりと見せびらかすように自分の黒髪をかき上げた。


「青木……!」


白鳥が背中に寄り添ってくる。



「――勝手にしろ」


男は青木と白鳥を順に睨んだ後、1-3の教室を後にした。



「青木~!!!」


男の姿が見えなくなった途端、白鳥は青木に抱き着いた。


「おおー!!!」

「なんか知らんがよくやった!」

「かっけー、青木くん!」


わけのわからないであろうクラスメイト達も、嘲笑の混じった拍手をする。


「あ、どうも。はは……」


青木は頭を掻いた。


「あの先輩、マジでひどくてさー!ホント困ってたんだよ!」


白鳥が頬を擦り寄せてくる。


「あー、なんか性格悪そうだったもんな」


青木は苦笑いをした。


「でも、いいの?あんなふうに啖呵切っちゃって。青木、風紀委員でもなんでもないのに」


青木は笑った。


「そもそも昨日のことは俺が悪かったんだし、反省の意を込めてポスター貼りくらいさせてよ」


「え、一人で?せめて一緒にやろうよ!」


白鳥が首をブンブンと横に振る。


「いやいや。アイツに見られてまたなんか嫌味言われたらいやだからさー」


青木はポスターを手で揃えながら言った。


「もう忘れた。なんだっけ?アイツの名前」


「……緑川先輩?」


白鳥が口に出すのも嫌そうに言った。


「緑川、ね……」


実験のことは7人しか知らない。

授業、クラス、委員会、部活、放課後。


学校生活を過ごしていく以上、緑川のようなモブの存在はあるし、そうでなくても白鳥は目立つ存在だ。絡んでくることも仕方がない。


しかし――


(邪魔だな……)


青木は彼が去っていった後方の扉を睨んで、ため息をついた。


「でも青木さ」


白鳥が身体を離しながらこちらをのぞき込んだ。


「昨日、なんでポスターをバラまいたまま帰ったの?」


「あっ……とそれは……!」


青木は目を反らした。


「ジャ〇プの発売日だったのを思い出してさ!寮のそばってみんな買うからすぐ売り切れちゃうんだよ!だから焦ったんだよね!」


慌てて取り繕うと白鳥は、


「ふーん」と、無表情でこちらをのぞき込んだ。


「んで?買えた?ジャ〇プ」


「ん、うん!無事買えたよ!!」


「チェン〇ーマン、最終回だったらしいね。面白かった?」


無表情のまま聞いてくる。


(チェン〇ーマン……!?なにそれ。チェンソーの化身かなんか?顔からチェンソーが生えてたりすんのかよ!?)


小学生の頃は読んでたときもあったが、中学に上がってからはたまにコンビニで眺めるだけになってしまった。

さらに拘置所に入ってからは、何が連載されているかさえわからなくなった。


「ああ……ええと……」


「――いつの話してんだよ」


背後から低い声が聞こえてきた。


「チェン〇ーマンなんてとっくに終わっただろ」


赤羽が白鳥を睨みながら振り返っている。


「ジャ◯ププラスで続編やってるけど?」


「…………あれ?そうだっけ」


白鳥は笑顔に戻った。


「なんか勘違いしてたみたい。又聞きの又聞きだから!」


そういうと彼は笑いながら席に戻っていった。


(なんだ?今のは……)


白鳥の変な態度に首を傾げつつ、腕にずっしりとかかるポスターの重みに、青木はうんざりしてため息をついた。



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