「帰るぞ。」
放課後、部室の前で工藤を見つけて、気づいたらそう声をかけていた。
別に大した意味はない。ただ、今日はなんとなく、こいつと一緒に帰りたかった。
「え?」
驚いた顔をする工藤を見て、俺は少しだけ目をそらす。
「早くしろ。」
「は、はいっ!」
慌てて荷物をまとめる姿を横目で見ながら、俺は自分の行動を振り返っていた。
(…なんで、わざわざ誘ったんだっけ?)
自分でもよくわからない。ただ、昨日のことがずっと頭に引っかかっていた。
**「これからもずっと先輩の隣にいてもいいですよね?」**
その言葉が、なぜか耳にこびりついて離れなかった。
***
帰り道。
隣を歩く工藤は、楽しそうに笑っていた。
「昨日、私のこと意地悪って言いましたよね?」
「言ったな。」
「でも、それって…私が先輩のことを気にしてる証拠だと思いません?」
俺は足を止めた。
(…何を言ってるんだこいつは?)
工藤が俺のことを気にしてる?冗談だろ。
「だから、これからもずっと先輩の隣にいてもいいですよね?」
「……。」
心臓が、一瞬だけ跳ねる。
(こいつ、ほんとにこういうことを平気で言う…)
「……勝手にしろ。」
そう言って、さっさと歩き出す。
「ふふ、やった♪」
俺の隣で、工藤は楽しそうに笑っていた。
(なんでこいつはこんなに無邪気なんだ…)
なのに、俺の胸の奥は、妙にざわついている。
こいつが隣にいることが、だんだん当たり前になってきて。
(……隣にいるのが当たり前になったら、いなくなったとき、俺はどうなるんだ?)
そんなことを考えてしまう自分が、少しだけ怖かった。
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