――7年前、灰色の空の下。
雨が降っていた。冷たい雨。まるで、この世界が最初から終わっているかのように、音もなく降り続けていた。
その中を、小さな少女が一人、傘も差さずに歩いていた。
白川結那、10歳。
痩せた身体。ぼさぼさの髪。大きな瞳には、何も映っていなかった。
結那の家は、地獄だった。
父親は暴力を振るい、母親はそれを見て見ぬふりをする。
食事もろくに与えられず、彼女はただ「そこにいるだけの存在」だった。
でも、泣くことはなかった。泣けば、もっとひどいことになるから。
――そんな日常が、永遠に続くと思っていた。
だが、ある日。
家が燃えた。
炎はすべてを包み込み、黒い煙が空を覆った。
結那は、ただその光景を見つめていた。
恐怖もなければ、悲しみもない。ただ、ぼんやりと立ち尽くしていた。
「……きれい……。」
初めて見た、「世界が変わる瞬間」。
その時だった。
「お嬢ちゃん、大丈夫か?」
声をかけてきたのは、吉田だった。
まだ30代の吉田は、すでに異能の使い手だった。
そして、その目は結那と同じ、何かを失った瞳をしていた。
「お前……ここで何してる?」
「……わかんない。」
「家は?」
「燃えた。」
「家族は?」
「……わかんない。」
吉田は、その答えを聞いて少しだけ目を細めた。
「……お前、名前は?」
「結那……白川結那。」
「結那か。……強くなりたいか?」
「……?」
「もう、誰にも傷つけられないくらい、強くなりたいか?」
結那は、少しだけ考えて、頷いた。
「なら、ついてこい。」
――その日から、結那の人生は変わった。
《吉田の元での修行》
地獄だった。
でも、家にいた頃よりも、ずっとましだった。
毎日、倒れるまで戦い、血を流し、骨を折った。
でも、誰にも殴られるよりも、自分の意志で強くなる痛みの方が、ずっと心地よかった。
吉田は何も教えてくれなかった。
ただ「自分で掴み取れ」とだけ言った。
そして、結那は掴んだ。
――異能、《ナイフ》を。
異能を、ナイフに押し込む異能。
すべてを焼き尽くす力。
そして、結那は強くなった。
誰にも傷つけられないほどに。
……だが、心は焼け焦げたままだった。
《現在――戦場にて》
雨宮:「お前の炎……相変わらず、綺麗だな。」
結那:「黙れ。お前の言葉なんか、聞きたくない。」
燃え盛る炎が、結那の周囲を舞う。
白川結那――炎の奥には、まだ少女が泣いている。
コメント
2件
今回も神ってましたぁぁぁぁ!!!!! わぁお、、やっぱ皆悲惨な過去持ってんだなぁ、、、 まあ、そんなことがあったからこそ今こんな風になってしまっているのかもだけど( あ、あと全然関係無いんだけどまたほのぼの番外編見たいなーッテ、、、(((( 次回もめっっっっさ楽しみいぃ!!!!!!