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それから、俺たちは須藤とあったことをすべて話した。
まずは雫との一件。
予測だが、木下たちを集めて雫を襲わせたのが須藤だということ。
そしてその後、須藤に校舎裏で脅されたこと。
次に花野井との一件。
体育祭が終わった後、花野井に強引に迫ったこと。
そして俺のスマホを叩き割ったこと。
その時の映像も一ノ瀬が瀬那に見せた。
次に、一ノ瀬たちも知らない瞳さんとの一件。
屈強な男二人で俺と瞳さんを襲わせたこと。
あの時の須藤は、自分の欲しいと思ったものが手に入らないことにひどく苛立っていた。
そして最後に、ついこないだの一件。
精神的におかしな様子だった須藤が俺たち四人に手を上げようとしたこと。
そんな長い話をしている間、一ノ瀬たち三人は苦悶の表情を浮かべていた。
そりゃそうだ。
一ノ瀬を除いて、これまで一緒にいた須藤の“裏の顔”を生々しいほどに知り、そのときのことを思い出してしまったのだから。
「……これが俺たちが知ってる須藤についてだ」
「そう、だったんだ」
瀬那がようやく口を開く。
話をしている間、瀬那はずっと黙っていた。
きっと信じられない話ばかりだったんだと思う。
「じゃあ彩花が前に言ってた話はほんとだったんだね。ごめん、信じれなくて」
「いいよいいよ、気にしないで! 宮子ちゃんの立場だったら私だって信じてなかったと思うし」
花野井の言う通りかもしれない。
それほどに須藤は裏の顔を隠すのが上手かった。
本能的に裏を感じ取っていた一ノ瀬を除き、みんなが須藤の表の顔が全部なんだと信じ切っていた。
「弥生は直接何かされたわけじゃないんだ」
「そうだね~。う~ん……うん、何もされてないよ~」
いやいや、一応葉月も自販機の前で言い寄られてただろ。
葉月にとっては覚えておく価値もない、ということなんだろうか。
こうしてみると、葉月の神経が一番図太いのかもしれない。
「そっか、そうなんだね。北斗には“裏の顔”がある。それは間違いないんだ」
「間違いない。それに裏の顔は凶悪だ。特に自分の思い通りにならないと、かなり凶悪な手段を取ってくる」
「凶悪な手段……」
「だからもしかしたら瀬那の視線を感じるっていうの、須藤の仕業かもしれない」
正直、今の須藤の精神状態ならやりかねない。
「あたし、どうしたら……」
瀬那が俯き、頭を抱える。
間違いなく、今の瀬那はターゲットにされている。
話を聞いて、瀬那も最悪の事態を想定したんだろう。
「お姉ちゃんーーーー!!!」
遊具から萌子ちゃんが瀬那に向かって楽しそうに手を振る。
瀬那は顔を上げ、ぎこちなくもそれを悟られぬよう笑いながら応じた。
目の前に困っている人がいる。
――困ってる人がいたら、絶対に見捨てるな。それが男だ。
……そうだよな、父さん。
「大丈夫だ、瀬那」
「九条……?」
「今の須藤がそんなに強引な手段に出るとは思えない。さすがの須藤でも、そこら辺の理性はまだ残ってると思う」
「でも……」
「それに、念のため瀬那の安全が確保されるようにこっちで手配しておく。だから安心してほしい」
「え? どういうこと?」
瀬那が首を傾げる。
「説明するのが難しいんだけど……知り合いの伝手があって。だから大丈夫だ、安心してほしい」
「…………」
言葉を尽くしたが、瀬那はまだ困惑した様子だった。
そりゃそうだよな。
今までほとんど話したことのないクラスメイトの、それも教室の端っこにずっといるような奴から言われた言葉で安心できるわけがない。
どうしたら瀬那を安心させられるんだ。
必死に頭をひねらせていた――その時。
「大丈夫よ、瀬那さん」
一ノ瀬が瀬那の肩に手を置く。
「良介が大丈夫って言ってるの。だから大丈夫だわ」
「え?」
すると一ノ瀬に続いて、葉月が瀬那の肩に手を置いた。
「私たちね~? 九条くんに助けられてきたんだ~。だから、九条くんの“大丈夫”は大丈夫って知ってるんだ~」
「弥生……」
続けて花野井がぽんと手を置く。
「そうそう! 私の良介くんは最強なんだから!!!」
「彩花……」
そして瀬那が再び俺の方を見る。
俺は瀬那をまっすぐ見つめ、力を込めて言った。
「最強かはわからないけど、やれることはやるよ。――瀬那は守る。“俺が”大丈夫にするよ」
「っ!!!!」
瀬那が目を見開く。
やがてふっと笑みをこぼすと、
「あはははっ! ……そっか。うん、そっか」
腑に落ちたのか、何度も頷く。
「なんかあたしも、九条のこと間違った見方してたみたい」
「間違った見方?」
「そ、間違った見方」
瀬那が立ち上がると、俺をまっすぐ見つめてくる。
「ありがとね、九条。なんか元気出たわ。あたしもあたしで頑張ってみる。だってこれは元々あたしの問題だし」
「そうか。ならよかった」
瀬那がにひひっと笑う。
その笑顔は眩しくて、圧とか鋭さとかそんなものはどこにもなかった。
やっぱり予想通り、瀬那はいい人だ。
そんな瀬那を傷つけさせるわけにはいかない。
宣言した通り、ちゃんと対策しよう。
一ノ瀬が、葉月が、花野井が信頼してくれたように。
俺が瀬那の“大丈夫”になろう。