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次の日の朝、まずはジェラードと落ち合った。
ジェラードが錬金術師風の服を用意してくれたので、早速エミリアさんに着替えをしてもらう。
「わぁ! エミリアさん、可愛い!」
「えへへー♪」
錬金術師かと言われれば微妙なところもあるけど、それはそれとして、よく似合ってはいた。
「うん、なかなか良い感じなんじゃないかな?
アイナちゃんと並んでも……うん、少し控えめで良いね♪」
「なるほど、確かに。絶妙なさじ加減ですね」
「着慣れない服を着ると、緊張しますね……!
それではアイナ様、今日はよろしくお願いします」
「……え?」
突然エミリアさんから、『様』付けで呼ばれて怯んでしまう。
「いえ、ほら。アイナ様はわたしのお師匠様ですから!」
「えぇー? もうその設定に入っちゃうんですか?」
「アイナ様! 弟子のわたしに敬語なんて使わないでください!」
……ぬぅん。
何だかやりにくいぞ……?
「えーっと……、うん、それじゃ、うん……。
それではアンジェリカ。今日はしっかりお供をするように!」
「はい、かしこまりました!」
……正直、本気でやりにくい。
「そういえばアイナちゃんって、エミリアちゃんにもまだ敬語なんだよね。何で?」
「え? 何でって言われても……」
そう言いながらエミリアさんを見ると、『そういえば』という顔で見つめられる。
でもそれ、お互い様なんですけど。
「うーん。私は昔から、明確な上下関係が無いと敬語を使っちゃうんですよね」
それは何だかんだで気楽なのと、やっぱり尊敬するところがある人には敬語を使っておきたい、という私なりの価値観だ。
「上下関係かぁ……。
そういえば主従関係のルーク君とか、使用人たちには敬語を使っていないよね」
「使用人とは言っても、見るからに年上の人は敬語にしちゃいますよ?
庭木職人のハーマンさんとか」
「なるほど、それはそれでアイナちゃんらしい……?
うん、とっても良いと思うよ♪」
「……褒めてはいませんよね?」
「いやいや、一応は褒め言葉のつもり♪」
「そうかなぁ……。
ところでジェラードさん……もといブライアンさんも、いつもとは違う服ですよね」
「うん、気付いちゃった? 少し、胡散臭そうでしょ?」
「え? 胡散臭さを狙ってるんですか?」
「そうそう、こういうのが良い味付けになるからね。
さて、表に馬車を待たせているから、そろそろ行こうか。ちなみに増幅石は持ったよね?」
「さすがにそれは忘れませんよ……!
あ、でも念のためチェックをお願いします」
増幅石を4つ入れた立派な箱をアイテムボックスから取り出して、蓋を開ける。
「うん。1、2、3、4……っと。全部あるね」
「アイナ様! わたしも確認しました!」
「3人で確認すればもう完璧ですね。では、このまましまっておきましょう」
「収納よーし!」
アイテムボックスに立派な箱を入れた瞬間、ジェラードが真面目を装った声で、指差し確認をしながら言った。
「……ブライアンさんもノリノリですね」
「ふふふ、ここからがコーディネーターの腕の見せどころだからね。
それではアイナ様、そろそろ行くことにしよっか♪」
「えぇー? 今日は二人とも、その呼び方なんですか!?」
「さすがにコーディネーターが『ちゃん』付けするのはおかしいでしょ?」
……ま、まぁ。確かに……?
でも何だか、居心地が悪いというか……、うーん?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
馬車に乗って、静かに揺られながら王都の街並みを離れていく。
街門を抜けて、そのまま郊外に向かって――
1時間も経った頃、ようやくグランベル公爵のお屋敷が見えてきた。
「……うわぁ。大きい……」
遠くからでも分かる、かなりの広さを持った敷地。私のお屋敷が一体、いくつ入るのだろうか。
さすが公爵家、広さからして半端ない。権力って凄いなぁ……。
「グランベル公爵のお屋敷は、この辺りでも1、2を争う大きさですからね。
親族も一緒に暮らしているので、それも仕方ないんですけど」
「ああ、なるほど。それじゃ、大きくせざるを得ませんね」
私のお屋敷は私だけを中心にしているけど、例えば私の家族も一緒に住んでいるのであれば、そこからまた使用人が増えたりするわけで。
そうなると建物も大きく、敷地も広くなってしまうよね。
あちらこちらを眺めながら引き続き馬車に揺られていくと、大きな門を通り抜けて、広い庭を通り抜けて、そしてようやくお屋敷の前に辿り着くことができた。
「――ようこそおいでになられました。
こちらは錬金術師アイナ様の御一行でよろしいでしょうか」
馬車が止まると、グランベル家の使用人が近付いて聞いてきた。
それに答えたのはジェラードだ。
「はい。昨日お約束を頂き、参上しました。
本日はアイナ様とその弟子のアンジェリカ様、そして私ブライアンが、公爵様にお目通りを願えればと思います」
「かしこまりました。
それでは馬車はあちらに。お三方は、こちらから屋敷内にお入りください」
グランベル家の使用人から丁寧に促され、私たちは馬車から降りて、お屋敷の中に入っていった。
お屋敷の中に入ってみると……やはり、かなり広かった。
同じ『お屋敷』とは言っても、私のお屋敷に比べて圧倒的に広い。
置いてある調度品もさらに豪華だし、使用人の数も少し見えた人数だけで、あっさり抜かれてしまった。
ひたすらに感心しながら進んでいくと、とても立派な客室に案内された。
「……はぁ。凄い客室だこと……」
いや、別に張り合うつもりはないんだけど、どうしても比較してしまうというか。
しかし慣れというのは怖いものだから、きっとここに住んでしまえば、このレベルでもいずれは慣れてしまうのだろう。
そんな状態で私のお屋敷を見たら、きっと『お屋敷』ではなく『居住スペース』なんて感じてしまうかもしれない。
となると、レオノーラさんが以前私のお屋敷を『居住スペース』って言っていたのも分かる、というか……。
客室のソファーに座ってエミリアさんやジェラードと話をしていると、しばらくしてから人の気配を感じた。
その気配に釣られて扉の方に目をやると、ちょうど一人の男性が入ってきたところだった。
背格好は、少し恰幅の良い感じ。
豊かな髭を蓄えていて、髪の毛も健在。実に堂々とした風貌――
私たちは立ち上がって、その男性が近付くのを待った。
「――初めまして。
私がグランベル家の現当主、ハルムート・クレイグ・グランベルです」
グランベル公爵は悠然と右手を差し出しながら、穏やかに微笑んできた。
私も右手を出して握手……で、良いんだよね? 実はここら辺のマナーは、良く分かっていなかったりするんだけど。
でも、細かいマナーよりも笑顔! 好意を向けておけば、向こうも悪い気はしないだろう。
そんなわけで、思いっきり笑顔を作りながら――
「初めまして。アイナ・バートランド・クリスティアです。
今日はお時間を頂きまして、誠にありがとうございます」
「ようこそいらっしゃいました。今日はよろしくお願いしますね」
私の笑顔に、グランベル公爵も良い笑顔を返してくれる。
今日はこのまま上手く終わりそう!
……そんなふうに思わせる力が、そこにはあった。公爵スマイル、恐るべし。
私の挨拶が終わったあとは、ブライアンことジェラードと、アンジェリカことエミリアさんの挨拶に移る。
それも問題なく終わって、良い雰囲気のまま着席を促されたので静かに座る。
――さぁ、ここからが本番だ!