「すみませーん、パスタ一人前追加で!」
「あー!うちも、うちも!しらべちゃんと同じやつー!」
かしこまりました、そう言って店員が厨房の方へ消えてゆく。
俺は財布の中身をもう一度確認し、最悪皿洗いも覚悟しないといけないな、と自分に言い聞かせた。
ストリートライブの後、あおいの強引な誘いに折れたしらべは、一緒に行くことを渋々承諾。
俺たち三人は駅前のファミリーレストランに入った。
一人増えたとはいえ、ファミレスならそこまで金額もいかないだろう。
そんな俺の甘い考えなど一瞬で吹き飛ばすかのように、しらべはどんどんと注文を重ね、そして何故かあおいも負けじとそれに続く。
俺はそんな二人を対面に見ながら、ドリンクバーの野菜生活をすすっていたのである。
「アンタ食べないの?体に悪いわよ」
「てつや食べへんの?うちのんあげよっか?」
誰かの優しさがこんなにも苦痛だった事があるだろうか。俺は引きつった笑顔で答えた。
「あ、ああ。あまり腹が減ってないんだ。俺の事は気にせず、遠慮なく食べてくれ」
「そう。ま、アンタに遠慮なんてするはずないけど」
しらべはそう言いながら、運ばれて来た三杯目のパスタを口に入れた。
俺は一瞬沸いた怒りをぐっと堪え、ずっと気になっていた事を彼女に聞くことにした。
「なぁ、お前……
日比谷おとねと知り合いなのか?」
そう言った途端、さっきまで目の前で勢いよく動いていたフォークがピタリと止まる。
「……なにが言いたいの?」
彼女は、今までで一番鋭い目つきでこちらを睨んでいた。
だが、俺も引く訳にはいかない。そう覚悟を決め、冷静に会話を続ける。
「昨日、楽屋であの人がお前に話しかけた時、少し引っかかったんだ。なんていうか……呼び方、とかさ。それに今日、日比谷おとねの同期の人と話しをする機会があってな、あの人の昔の話しを聞いたんだ。それを聞いて、なんだかお前と重なってーー
「やめて!!」
そこまで言った時だった。
しらべが大声で強く拒絶し、テーブルを叩いた。
店内の空気は一瞬で張り詰め、静まり返る。
その様子を見て慌ててやって来た店員さんに、俺は何度も頭を下げ、もう大丈夫ですからと言った。
あおいが心配そうにしらべを見つめていると、しばらくして、彼女はうつむいたまま小さな声でポツリと呟いた。
「……悪かったわね、大声出したりして」
俺はすぐに質問した事を後悔し、謝ろうとした。
誰にだって触れられたくない事はある。
俺は彼女のそんな部分に、土足で踏み込んでしまったんだ。
すまない。そう言う俺に、しらべはすぐにこう答えた。
「別にアンタが謝る事じゃないわ。
あの人は……日比谷おとねは、わたしの実の母親よ」
俺はそう話すしらべを黙って見つめていた。
全く驚かなかったのかと言われればそうじゃない。だが、心のどこかでそんな気はしていた。ただそれだけの事だった。
しばらくの沈黙の後、彼女が口を開いた。
「あまり驚かないのね。なんだか拍子抜けだわ」
あっけらかんとした様子でそう言って、再びフォークを動かし始めた。
「いや、驚かなかった訳じゃないよ。知らなかったしさ。ただ、何となくそんな気がしていただけだ」
「アンタに気づかれるなんて、あたしもまだまだね」
それよりーー
そう言って、目線をパスタから俺に向ける。
「アンタは大丈夫なの?プロデュースするなんてデカい口叩いてたけど、あてはあるの?」
うっ、痛いところを突いてくる。
そういう所が母親にそっくりなんだよ、と思いながらも、俺はあおいの方を見てこう答えた。
「まぁ、とりあえずはな」
「とりあえずってなに?なにがとりあえずなの?なら言ってみなさいよ。この先どうするか」
しらべが、ここぞとばかりに怒涛の攻撃をけしかける。
俺は口を開こうとするが、自分の頭の中でも纏まっていない事を言葉にできるはずもなく、ごにょごにょと口籠っていると
「ほらみなさい!アンタなんかにこの子を任せていられないわ。明日の夕方、もう一度ここに来なさい。あおいと二人でストリートライブをするから。わかった?」
俺は母親の事を聞いた時の数倍、驚いた顔をした。
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