「なっ・・成宮北斗ですっ!今回私の講演会をやります!ぜひ・・・私の話を聞きに、きっ・・来てくださいっっ!」
三台のスマホが付いたカメラ棒を向けられて、緊張した北斗がうわずった震えた声で言った
カメラマンがため息をついて首を振った、正勝も肩を竦めて言う
「もっと自然にできねぇ~のかよ!」
「きっ・・・緊張するんだよっ」
ダラダラ汗を掻きながら、北斗が直立不動でカメラを睨む、今や北斗にはほぼ一日中動画撮影用のカメラクルーがついてまわり
アリスはすぐにその状況に慣れたが北斗はなかなか慣れず、スマホを向けられるとすぐに緊張した
ネットでもテレビでも自分を見ない日はなくなった、つい先日までは平凡な牧場主だったのに、自分の運命が信じられない
そんな忙しい中、北斗の唯一の慰めは、週中の午後一日だけだが街宣の無い夜に、妻と二人で夕食の後の穏やかなひと時を過ごす事だった
雲のない夜空に天の川が、銀色のきらめきを放ちながら広がっている、これほど空いっぱいの星は絶対にここでしか拝めない
お腹も満たされた二人は庭に直哉が設置した、ハンモックに揺られ、北斗はその星空を眺めていた
アリスはスプーンが重なるように、北斗の脚の間に落ちつき、背中を彼の胸にぴったりくっつけてもたれる
こうすると守られていると感じ、アリスのお気に入りの体制だ
ハンモックの横のテーブルには、直哉が作った地元産のビールの瓶が、キンキンに冷えて二本あり、飲みたくなったらすぐに手が届く
アリスはタブレッドでAppleの創始者「スティーブジョブズ」の大学卒業スピーチを北斗に見せていた
「ジョブズに比べてオバマの、スピーチは単調な言葉を何回も繰り返し言うの、その方が誰にもわかりやすく心に残るもの」
「うん・・・・ 」
「あと私の好きなのは植松努さんね、彼は自らの生い立ちから始まって、人生観を余すところなく語り、淡々と語るけど聴衆に広く感動をもたらしたわ・・・ 」
北斗がアリスの髪を指で梳かし、やわらかな感覚を楽しんでいる
「うん・・・・・・ 」
「集会のメインは最後の貴方のスピーチよ、北斗さん!この言葉だけは入れたいってワードある?」
アリスが自ら作成した虎の巻バインダーを広げて、サラサラ何やら思いついた事を書き溜めて行く
この虎の巻バインダーは今回の選挙で、二人の大切な心臓部分にもなる、二人の選挙草案やすべての、街宣のスピーチメモがここに書かれていた
「君のその虎の巻バインダーは最強だな、君の考えるスピーチはどれも魅力的だ」
「これさえあれば北斗さんは必ず当選するわ!だって歴代の民衆の心を動かした人物の、スピーチが盛りだくさん記録してあるんだもの、逆に無くなったら大変!、人を動かすスピーチには本音でないといけないし、その一言一言に魂を宿らせないといけないってスピーチの達人たちはみんな口を揃えて言うわ 」
「(言霊)だな 」
アリスの心の中が温まり、今自分が最も得意な事をしている時に感じる、ワクワク感を抑えられずにいた
周防町の投票結果に民意を反映させるには、何をどのタイミングでスピーチするかが大切だ
小さい頃・・・大きな子供部屋で一人ベッドに寝転んで、母が揃えてくれた「世界の偉人」シリーズを読んで興奮していたことを北斗に話す
おこがましいけど子供の頃は、この世界に新たな何かをもたらす、人物になりたいと思っていた
彼は微笑んで少し眠たげだけど、熱心なアリスの話を聞いてくれた
満点の星空の下、アリスは北斗に背中から抱き抱えられる
彼はきっと寒くないのだろう、着古した真っ白のタンクトップの生地が背中に触れ、筋肉質の腕ががっしりアリスをホールドしてくれる守られていると心から安心する
顔を横に向けて首元の彼の匂いを吸い込む、いつもと同じ彼のボディーソープに彼自身の体臭がする大好きな匂い、なんだか血液の中に砂糖が溶け込んでいくみたい
「いつまでたっても飽きないの・・・・・」
「うん?何が?」
北斗はアリスの肩を揉み始めた、的確に北斗の指がアリスの凝っているツボを押す
ああ・・気持ちいい・・・
「でも・・・君には沢山苦労をかけるな・・今日もうぐいす嬢をしている時に・・・心無い道端にいた人に怒鳴られたって聞いたぞ、俺はもう慣れっこだけど・・・君がそんな目にあっていると聞くと・・・ちょっと凹む・・・ 」
北斗がアリスの頭のてっぺんにキスをして、人差し指でアリスの頬を撫でると、ゴロゴロと喉を鳴らす音が聞こえてきそうだ
「大変なんかじゃないわ、あのね・・・北斗さん・・・・」
「うん?」
「私今幸せなの、毎日が楽しいの、とっても素晴らしい旦那様のために、今までの自分の積み重ねがここにきて試されているわ、まるで今までの私のキャリアはあなたに、使うためにあったのかもしれないと思うほどよ」
アリスの戸惑いも、恐れもないまっすぐな瞳に、空の星にも負けじと瞬く、北斗の心は進撃に打たれる
「うん・・・・」
「ずっと考えていたの・・・・自分の何を信じられるか・・・何が得意か・・・需要があるかどうかは関係なく・・・私はずっと何をして生きていきたいか・・・・」
「見つかった?」
アリスが首を捻って彼を見つめる
「私の夢に北斗さんは欠かせないの・・・北斗さんが牧場主をやれば、私は立派な牧場主の妻になりたいの、北斗さんがこの町の町会議長になるなら、私は町会議長の妻になりたいの 」
アリスが北斗に向かって微笑んでいる、部屋のオレンジ色の照明に半分、照らされている彼女は綺麗でかっこいい・・・
でも北斗の腕の中で頭をもたれさせていたので、髪はくしゃくしゃだ、こんな彼女を見れて幸せだと心から感じる
「結局の所・・・・私はあなたの妻でいたいの、それも・・・、ただ家でじっと夫の帰りを待っているだけの妻じゃなく」
プッ・・・「想像も出来ないな・・・・それじゃとっておきのスピーチを、二人で考えないとな・・・」
北斗が腕の中にアリスを引き寄せ、両手を恋人繋ぎでギュっと握る
クスクス・・・・「動画が見れないわ・・・・」
北斗はアリスに全身全霊で信頼されているのを感じて、心に力がみなぎる、自信が湧き、褒められている晴れがましさがある・・・・
―彼女も魔法を使えるな―
北斗は思った、これはどう表現すればいいのだろう、35年間自分が求めて来たものだと思ってもいいぐらいだ
人生に虚しさを感じ始めていた時、神から遣わされた女性、自分にぴったりの、自分のために生きてくれている女性、それはきっとお互い様なのだろう
「君は世界で最も貴重だ・・・・・」
北斗がそう囁いてアリスの耳にキスをする
「キスはダメ・・・ 」
「どうして?」
北斗がお預けをくらった犬のような目で懇願する
「だって・・・・はじまっちゃうもの・・・まだ他にもやらなきゃいけないこともあるし」
「俺はいつでもはじまるのを待ってるよ」
彼はずっとアリスの太ももを撫で続けて言う、そんな風にされたらアリスはいちころだ、この手触りの他に何も考えられない
彼がゆっくりパンティーの上から、アリスの股間を撫でる、胸の先を優しく円を描くように撫でる、ワンピースの部屋着の下はブラジャーをしていない
時間が周りのすべてを止めようとしている、アリスの呼吸が苦しくなる
こんなに満たされているのはいつ以来だろう、もしかして初めてかもしれない、心のどこかに不安はある、だがこの穏やかな気分に影を落とすことは無い
空は真っ黒なベルベッド地に散りばめた、ダイヤモンドのように星が輝いている、アリスはそれを眺めながら彼の愛撫に溺れる
生まれてからずっとここで暮らしていたように思える、北斗さんと一緒にお福さんやナオ君達に囲まれて、そしてこの腕に抱かれている素晴らしい男性
北斗がデニムのジッパーを降ろして、もうすでに鋼のようになっている自分のモノを露わにした
「その子を出してどうするつもり?」
アリスは警告するようにわざと睨んで言った
「北斗さん?私はしないわよ」
北斗は毛布を持ち上げ、アリスをまたがらせて脚の間に滑り込んだ
「何もするつもりはないさ」
とぼけてみてる
「ほら・・・念のためってヤツだよ、万が一・・・思いがけない幸運が、舞い込んで来た場合に・・・ 」
「思いがけない幸運?ふぅん 」
アリスはタブレッドを持ったまま少し腰を浮かせた、もうジョブズのスピーチどころではなくなった、北斗がアリスのパンティのクロッチの部分を、指でずらす
そして北斗が先端を円を描くように擦り合わせる、もうすっかり濡れている、こんなに濡れていたら痛くないのがわかっている、アリスはあの快感を思い出し、期待に心を震わせる
ぴったりスプーンが重なった体制のまま、アリスをまたがらせ、なんとハンモックの上で北斗が一突きで入ってきた時
思わずアリスは大きな声を漏らしそうになり、自分で自分の口を押えた
「おっと」
北斗は囁いた
「すまない・・・幸運が舞い降りて来た」
アリスはその北斗のとぼけ様がおかしくて、声をあげて笑った
ケラケラ「この体制・・・すっごく変!」
アリスの笑いの振動が北斗の体に伝わり、とりわけたった今ひとつになった所を刺激する
ハァ・・・
「おぅっ・・アリスッ・・・そんなに笑うと・・・ 」
よく濡れていて北斗をぎゅっと温かい筋肉で包んで笑っている、動いてないのにイきそうになり、北斗は目を閉じて震えた
ああ・・愛の最中に彼女を笑わせるのは最高だ
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