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ついったに載せた30日CPチャレンジのやつです。
三人称視点。中3、付き合ってる📕🐺📕(📕🙂📕)。
わがままなぬくもり
「きりーつ、気をつけー、れーい」
黒板の前に立って挨拶をする学級委員長の声は声変わりしたばかりで随分とキツそうだな、とぶるーくは思う。さようなら、喉仏が際立つ細い首から出される声は教室中に響き渡った。もちろん、女子の高いよく通る声も。それらが教室の隅へ消えるよりも先に気の抜けた声がそこら中を包み込んで廊下へ駆けていった。
受験期間なせいで通常よりも重くなっているリュックを背負って一番前のスマイルの席へ向かう。ぶるーくが机まで到着した時、スマイルは教卓の前で先生と何やら話していた。あぁ、そうか、日直。毎日代わる日直は放課後、今日の振り返りを書かなければならない。そういえば今日はスマイルの担当だったか、と朝の記憶を掘り起こす。
「すぐ終わらせるから」
「りょーかぁーい」
スマイルの隣の席へ腰掛け、しばらくスマイルの様子を眺める。しかしだんだんと飽きてきたぶるーくは一生懸命なにかを書くスマイルに声をかけるが当の本人は「あとちょっとだから」と視線すらこちらに向けず頭を撫でて、それで終わり。はしゃぐペットを宥めるような仕草に構ってくれないのを悟ったぶるーくは机に突っ伏して眠りに入る体勢をとった。
*
思っていたよりも遅くなったな、とぶるーくの方に視線を落とす。窓から送られる少し冷たい風がまるでトイプードルのような髪を揺らした。おい、とトイプードルに手を伸ばす。
「起きろ、帰るぞ」
「……んん、なに……もう終わったの……」
一度起き上がって目を擦った後、まだねむい……と駄々をこねはじめたぶるーくにスマイルは少しの愛らしさと苛立ちに似た感情を覚えた。何度声をかけても適当な返事ばかりで、ついに置いていってやろうと考える。小さな溜息を一つこぼし、踵を返す。右足を一歩前に出したところで腰に腕がぐるりと巻き付いた。
「ん〜すまいる〜……行かないでえ………」
「はぁ?」
ぐっと足を進めようとしても余計に強く巻き付かれるためもうどうしようもできない。じゃあどうすりゃいいんだよ、と犯人に直接問うと寝ぼけた声で寝ぼけた返答がスマイルの耳に届く。
「今日スマイルん家泊めて……」
「は? ……いや、無理だろ、母さんに聞かなきゃ」
「じゃあ今聞いて」
「…………」
しばらく沈黙が続く。ぶるーくの突然の要望を一度無視して再び教室を出ようと試みる。動いた。が、ようやく動いた身体はぶるーくと木製の椅子を引き連れて前に進んでいた。ガガガ、と椅子から悲鳴が上がる。スマイルは再び小さく溜息をついた後、自身のリュックから十円玉を取り出した。
*
「……いいってさ」
「んへへ、ありがとう。じゃあかえろ」
「お前なぁ……」
折り畳まれていたぶるーくの身体がぐぐっと伸びた。スマイルが先に歩きはじめた時、伸びを終えたぶるーくが小さく「スマイル」と名前を呼ぶ。蚊の鳴くような声だったせいで流石に気づかないか、とぶるーくは教室の壁の時計に目をやった。時刻は五時前。再び視線を前に送るとスマイルがこちらに振り返って手を軽く伸ばしている。
「ほら、早くしろ」
「……ん、」
繋いだ掌から伸びる指はすぐにお互いの指と絡まる。外はようやく九月らしく涼しくなって、寒いくらいだ。昨日までの汗ばんだ互いの手がもうすっかり懐かしく、愛おしい。