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「え? 本当にそれだけでいいのか?」


「はい、そう書いてありました」


現在俺たちは、ミノリ(吸血鬼)たちがいる部屋とは別の部屋で向かい合って座っている。(正座で)例の二人は俺の膝《ひざ》の上で寝《ね》ている。


「いや、でもそれだけで戻るなんてことは……」


「……私を疑うのですか?」


「い、いや! 別にそんなことは……」


「別にいいです。マスターが信じないというのなら、私もこれからあなたを信じないことにします」


「わ、分かったから、機嫌《きげん》を直してくれよー」


「……じゃあ、抱《だ》かせてください」


「えっ……? コユリ、今なんて……」


「勘違いしないでください。私はその子たちを抱《だ》いてみたいという意味で言ったのですよ?」


「え? ん? ああ、そういうことか。それなら、そう言えよー」


「勘違いしたマスターの方が悪いです」


「はいはい……ほら、今ぐっすり眠《ねむ》ってるから、そーっとだぞ、そーっと」


「は、はい、頑張ります」


俺はまず、マナミ(茶髪ショートの獣人《ネコ》)をコユリ(本物の天使)に抱っこさせた。


「か、かわいいものですね。幼児というのは」


「だよな、すっごく癒《いや》される」


「ええ、これがマスターだったら、全身にキスをしているくらいのかわいさです」


「ええ……」


「……半分、冗談《じょうだん》です」


「いや、そっちのほうが逆に怖い」


その時、マナミはコロコロと横転して俺の膝《ひざ》まで戻ってきた……。


「……えーっと、シオリの方はまだだったよな」


「……はい」


「気持ちを強く持つんだぞ! コユリ!」


「はい、分かりました」


俺は、シオリ(白髪ロングの獣人《ネコ》)をそーっと、コユリ(本物の天使)に手渡した。


「にゃー、むにゃ、むにゃ」


シオリの寝言を聞いて、少し笑みを浮かべたコユリの顔は、シオリに負けず劣らず結構《けっこう》なものだった。


「よーしよし。いい子ですねー」


「コユリはいいお母さんになれるよ。きっと」


俺がそんなことを言うと、コユリは。


「将来、結婚したら子どもは何人欲しいですか?」


「えーっと、最低でも二人かな。できれば男一人と女一人」


「分かりました。今日は無理ですから、明日にでもやりましょう」


「そうだな……って、何をだ?」


「それはもちろん、子作りです」


「ええ!? いやいやいやいや! そんなことできるわけないだろう! だって、お前はまだ……!」


「静かにしてください。二人が起きてしまいます」


「あっ、すみません」


「むにゃ、兄《にい》にー」


シオリはそう言うと、マナミと同様にコロコロと横転して、俺の膝《ひざ》まで移動した。


「……そ、そうだ! 元に戻す方法の肝心な部分を聞いてなかったな。早く教えてくれないか?」


「はぁ……仕方ありませんね。では、言います」


「お、おう」


コユリ(本物の天使)がいつも以上に真顔になったため、いつもより圧を感じたが、ここで怯《ひる》むわけにはいかない。

俺はそう決心すると、コユリが話し始めるのを待った。


「……体内にある『グリーンドウ』の成分を別の何かで打ち消せばいいので、マスターの血液を二人に飲ませるだけで治ります……以上が二人を元に戻す方法です」


「そ、そうか。なら、さっそく……」


「できれば、口移しでお願いします」


「……それは勘弁《かんべん》してください」


「冗談《じょうだん》ですよ。間に受けないでください」


「お前って、そういうイジワルなところあるよな」


「そうですか? 私はいたって普通ですが」


「さいですか。えっと、何か刃物でも持ってくるかな」


俺が二人の頭を畳《たたみ》に移動させた後《あと》、立ち上がろうとすると、コユリは俺の両手を握《にぎ》ってきた。


「え、えっと、どうしたんだ? コユリ」


「……マスター、私は」


「え? 何だ? 聞こえないぞ?」


「私はもう我慢(がまん)できません!!」


コユリは、俺を押し倒すと同時に馬乗りになった。


「うわっ! コユリ! ちょっと待て! 一旦、落ち着け!!」


「もう無理です! |散々《さんざん》じらしておいて、それはないです! いったい、いつになったら私の気持ちに応《こた》えてくれるんですか!!」


「待て待て! 急にどうしたんだよ! お前らしくないぞ!」


「ふふ、ふふふふ、いつもの私は偽《いつわ》りの私。これが本当の私です。マスター、私の気持ち、受け止めてください」


「わ、分かった! 分かったから、一旦《いったん》、離《はな》れてくれ!」


「いやです。マスターは私のもの。私だけのもの。私を永遠に愛してくれる唯一《ゆいいつ》の存在。私のために生きて、私のために死んでくれる必要不可欠な存在……だから、誰にも渡しません!」


「コユリ……待て……やめろ!」


「ふふふふ、大丈夫ですよ、マスター。痛いのは一瞬《いっしゅん》だけです。だから、動かないでくださいね?」


「俺の血を吸うつもりか」


「はい、その通りです。私の体の中をマスターの血液で満たしてください」


「……そんなことは、させない!」


「どうするつもりですか? マスターにできることは何もありませんよ?」


「さて、それは……どうかな!」


俺は、コユリ(本物の天使)の首を両手で掴《つか》んで固定し、そのまま頭突きをすると、すばやく二人のいる方に行き、両手の親指の先端《せんたん》を噛《か》んで、二人の口にねじ込んだ。

すると、二人から緑色の光が放たれた。


「あれ? わ、私、なんで葉っぱでできた服を着てるの?」


「ホントだー。ねえ、ナオ兄。何か知ってるー?」


その二人の声がとても懐《なつ》かしく聞こえた俺は二人をギュッと抱きしめた。


「マナミ! シオリ! 元に戻ったんだな! 本当によかった!」


二人は、少し慌《あわ》てた様子で。


「ふぇ! え、えーっと、私たちは何もしてないですよ?」


「ナ、ナオ兄、不意打ちは反則だよ」


「そんなことはどうでもいいんだよ。とにかく、元に戻って本当によかった」


俺たちがそんなことをしていると。


「私の……私だけのマスターの血を……飲んだなああああああ!!」


コユリ(本物の天使)が鬼の形相で、突っ込んできた。

俺たちは、それに応戦しようとしたが、そこまでしか覚えていなかった。なぜなら、これは……。



「うわああああああああああああああああああ!!」


夢の中での出来事だったのだから。俺は、辺りを見回して、状況を確認した。

右肩には『グリーンドウ』があり、そばにはコユリ(本物の天使)が寝《ね》ていた。

俺は、夢の中でのコユリの行動がこちらの世界にも反映されるのではないか? と少し不安になったが、そんなことはないと思ったため、恐る恐る手を伸ばすと。


「……ん、あれ? 私……寝《ね》てた?」


コユリが目を覚ました。コユリは目を擦《こす》りながら背伸びをすると、あくびを一回した。すると、その直後に俺に気づいて。


「あっ、マスター、おはようございます。よく寝ていましたよ。あと、可愛い寝顔でした」


そんな感じのことを言った。そんなコユリに対して、俺は。


「ん? あ、ああ、そうだな。いやー、すっかり眠《ねむ》っちゃったよー。あははははは」


「その肩にある花は夢を見せるそうですよ」


「えっ? そうなのか?」


「はい、そうです。いい夢の時もあれば悪い夢の時もあります。今回マスターはどんな夢を見ましたか?」


お前が俺たちを襲《おそ》ってきた夢だなんて言えるはずないよな……。


「え、えーっと、みんなとピクニックに行った夢だったよ! あー! 楽しかった!」


「そうですか。それは、よかったです」


「あははは……ところでみんなはどこにいるんだ?」


「……殺《や》りました」


「え?」


「全員、私が、殺《ころ》しました」


「またかあああああああああああああああああ!!」



こうして、俺は何度も、何度も、何度も、何度も、コユリ(本物の天使)が誰《だれ》かを襲《おそ》う夢を見た。

『死に戻り』ではなく『殺し戻り』であった。とにかくコユリが誰《だれ》も襲《おそ》わないようにすればいいんだな。よし、これでいこう。そこで、俺の出した答えは。


「これ、何回目かな?」


俺はそう言いながら起き上がって、布団《ふとん》の脇に正座で座っている、コユリ(本物の天使)の方を向いた。すると、コユリは。


「マスター、顔色が悪いようですが、どうかしましたか? 私が癒《いや》して差し上げましょうか?」


「……コユリ。その……すまない。今の俺は、お前の気持ちに応えることはできないんだ。だから……」


「……最初から分かっていますよ、そんなことは。ですが、いつか必ず、あなたの全てを取りに行きます。なので、それまでは大人しくすることにします」


「……ああ、その時になったら、な」


その直後、夢世界のコユリ(本物の天使)は光の粒《つぶ》となって消えていった。

その直後『グリーンドウ』が空中に出現し、俺に話しかけてきた。


『おめでとう。君は見事に試練をクリアした。報酬として、元の世界に戻すのと僕の『永久記憶保存《エターナル・キープ》』を贈与するよ。受け取ってくれるよね?』


「ああ、もちろんだよ。というか、いつから夢だったのか教えてくれよ」


『君が倒《たお》れる前までは、現実世界にいたよ』


「そっか……ありがとう。おかげでスッキリしたよ」


『それじゃあ、戻ろうか』


「ああ、そうだな」


こうして俺は、本当の世界に戻ってきた。俺が布団《ふとん》で目を覚ました時に天井の次に見たものは、いつのまにか俺の右手にあった『グリーンドウ』であった。

その花は、俺に気づくと、ふわふわと俺の頭の中に吸い込まれるように入っていった。

どうやら、先ほど夢で言っていた『永久記憶保存《エターナル・キープ》』という力を俺に与えたらしい。

本当は、『グリーンドウ』のナゾを解《と》いたシオリ(白髪ロングの獣人《ネコ》)にあげたかったのだが。

それにしても、自分の力を持つのにふさわしい人物かを見極めるためとはいえ、あんな怖い夢を見させるなんて、腹黒い花だな。

まったく、いい迷惑《めいわく》だよ。

そのあと、みんなが集まってきて俺に「心配させるな!」とか「無事に目を覚ましてくれたからよかった!」などと言ってくれた

ちなみに、今は四月十四日の昼前である。そのため、俺は、ほんの数時間の間しか眠《ねむ》っていなかったことになる。なんとも不思議な話だ。

さて、次はどこを目指すのかな? 俺がそう思っていると、ミノリ(吸血鬼)が。


「ナオト! 次は『若葉色に染まりし洞窟《どうくつ》』を目指すわよ!」


そんなことを言ったので、俺は。


「なるほど。よし、それじゃあ、次の目的地はそこに決定だな! ミサキ!」


「了解したよ、ご主人……我《わ》が外装よ……『若葉色に染まりし洞窟』を目指して、十一時五十分の方向に全速前進!!」


ミサキ(巨大な亀型モンスターの本体)がそう言うと、ミサキ(巨大な亀型モンスターの外装)が徐々に速度を上げながら、前進し始めた。(注:俺たちの住んでいるアパートは巨大な亀型モンスターの甲羅《こうら》と合体している)


「しゅっぱーつ!」


俺が拳《こぶし》を天井に振り上げながら、そう言うと。俺以外の全員が。


『しんこーう!!』


俺のマネをして、元気な声でそう言った。まだまだ俺たちの旅は続いていく。ゴールは見えない。けど、確実に進んでいることは分かる。だから、俺たちは進み続ける。ゴールを目指して。



「……ふふふふ」


その時、その様子を黒いローブでほぼ全身を隠した状態で上空から見ている者がいた。その人物の正体が分かるのは次回かもしれない。

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