「…僕ねてた?」
「そりゃもう気持ちよさそうに」
「!!びっくりしたあ…なんだせんせーか」
「わるかったな俺で」
「いや別に??むしろ先生はラッキーだよ、なんせイケメンな僕の寝起きなんてレアな姿みれたからね」
「あぁ、、そう、」
「んーーー」
と言いながら伸びをするニキ。男子高校生にしては長めの黒髪が風になびいている。
その容姿端麗さとダウナーな見た目からは想像つかないコミュニケーション力を持ち合わせた彼は所謂学校の人気者。教師の間でも度々話題に上がっている。
彼の担任になったのは今年になってからだが、噂通りの性格で、クラスを盛り上げてくれているためクラス担任としてはありがたい存在だった。遅刻魔であることと、若干ナルシストな点を除いては。
一方で、1対1で会話したことはほとんどなく、彼本来の性格や雰囲気などはあまり掴めていない。
しかも彼は、自身の高校時代1番関わってこなかったタイプ、つまり陽キャ。言ってしまえば、個人的には苦手なタイプ。何人もいる生徒のうちの一人なのに、なぜか接するのに緊張してしまう。
「ー?、、、、ん、、せ?
せんせー???」
「うお、すまんぼーっとしてた」
「なにー?つかれてんの?そりゃ先生だって疲れるよねえ金曜日だしー」
「まあ…せやな…」
今日はつい、思考に耽ってしまう。働き詰めの1ヶ月だったし、自分が思っていたよりも疲れているかもしれない…いやあるいは…
「そんなことより、ニキ、お前今日また遅刻してきたのに、なんで居眠りなんてしとったんや」
「…いやあ、、?別に…??」
「なんや急に歯切れが悪い」
「気のせいですよぉー?」
(明らかに触れてほしくない感じを出してきたな…)
「、、ゲーム!最近夜中までゲームしちゃって!!そのせいです!!!」
「おぉう、そうか」
誤魔化しだなとも思ったが、ゲームが好きと新学期の自己紹介で言っていた記憶がふと蘇る。元バスケ部でゲームにも強くて、無敵やないかいと心の中でツッコんだのも記憶に新しい。
「まあなんでもええけど、とりあえず、俺職員室戻るからまだ残るなら戸締りよろしくな」
「え、窓開けてたのせんせーじゃないの?」
あたふたとしているニキを教室に放置したまま廊下をすすむ。
「ゲームは程々にせぇよー」
「ちょ、せんせーまってよーーー!」
なんて声が聞こえてきた気もするが、まあ、別に待つ筋合いは無い。なんてたって今日は華金。さっさとこの職場を出るために、足早に廊下を歩いた。