西暦1500年、国の経済は全てが財閥に支配され、皇室や政府などがむやみに楯突くことが不可能となった。
「立夏様、本日から貴方がこの財閥の会長となります。」
・ 目次
第1章 破綻
第2章 殺人
第3章 矜恃
第1章 破綻
あの頃の記憶は鮮明に覚えている。
「被告人2名を死刑とする。」
脳裏を貫くほどの衝撃が頭に走る。
一族の人間達が小言を囁き始め、暗黙のように周囲も囁き始める。
裁判にかけられた財閥夫妻の死刑判決、歴史上で最も最悪な記録を残した。
それだけの罪を犯し、隠蔽し工作したのだ。
豪邸に移動する車の車内での殺風景な空気、前会長の秘書が告げる言葉までもが、その様子を意味する。
「貴方はこれから日本のトップとなるのです。皇室よりも絶大な権力を保持する財閥を担っていく、その自覚をお持ちください。」
いとも当たり前のことを言いたて、強調する秘書の言葉にうんざりする。
「分かりきっていることを言わないで。命令よ、財閥元夫妻に面会したいと希望する者がいると伝言なさい。」
物言い出来ない者だと過信していた者が財閥の理想像のように形成されていることに呆気にとられていた。
「かしこまりました。会長。」
自分が仕えるべき主人だと理解したようだ。
「会長就任おめでとう、立夏。親がいなくて寂しいと思うけれど、わたくし達がついているから安心なさい。お兄ちゃんは独学だけを希望されているから、役員代表でいいわよね?」
隣で俯く兄は祖母を見ずに頷くばかり。
世間一般的でいう出来損ない、私生児、除け者。
同情するに値しない穢れた人間が何故この空間に居続けられるのか、勘違いしているだけなのか意図が分からない。
「答えなさいよ、この穢れもの。本当になんであんな穢れた女の子供がこの場にいるのか疑問で仕方ないわ。お祖母様やおじい様だって鬱陶しく感じているのに。やっぱりこの子供を一族の人間にいれるのが間違いだったのよ。」
傍系の従姉妹は愚弄するように言う。
「美鈴、そんなことを言わないであげて。冬楓だって来たくてこの一族にきたわけじゃないんだから。」
兄を庇うつもりでなくこの場の脇役に仕立てあげようとする従兄弟の長男。
「でも、あながち美鈴の言ったことは間違いじゃないだろ。成績は優秀なくせに財閥一家特有の髪色を受け継いですらいないんだぜ。」
事実を公言することで権力を誇示する従兄弟の次男。
「…..良かったよね、本来なら施設送りなはずなのに。早く出ていってよ。」
常に寡黙であるが、冷酷さゆえに敵と判断した者には嘲る従兄弟の三男。
それを黙認しながら、祖父と談笑する祖母。
可哀想に、と哀れみを見せる傍系血族達。
全てがとち狂ったように破綻するものが今、侵食を始めている。
息を殺しながら空気を吸う兄を見て、あぁこの人も周りの者と等しい者なんだと再認識する。
空になったグラスにワインを入れ、飲み干した。
「…..陛下が、正式に契約なさった親交誓約書にはお兄様が未成年までの間は白鳥家の元で教育を受けさせることを義務付けると記されています。」
「なんだよ、立夏はそいつの味方すんの?どこがいいんだか。そんな男の。」
従兄弟の次男が溜息をつき、そっぽを向く。
不貞腐れた顔で、不満なことを表しているよう。
「豪邸へと着きました。」
突然の運転手の発したことに一同が唖然する。
この見目麗しいに値しない野蛮な者たちが住む豪華な邸宅。
本邸は直系血族のみが住むことを許可され、その他の邸は傍系血族と使用人が住む場所となっている。
車から降り、本邸へと向かっているところ、服の袖が強く引っ張られた。
後ろを振り返り、見たのは兄の姿だった。
「…..何故あんなことを言った?」
眉をひそめ、凝視する。
「事実を述べただけです。少しはお兄様も自身の意見を尊重してみてはいかが?」
呆然とする顔が少し面白おかしい。
「本当に父親違いだと思いたくないな、お前は。」
少しの寒気が身をよだすような風が口の中へと入り込む。
「お前だなんて、白鳥家の品格を崩すようなことはおっしゃらないで。貴方は白鳥財閥の一員なのですから。」
完璧を模倣した最善な回答。
兄は一瞬の隙にも気づかないようだった。
少しの好意があると期待させるような発言が、作りこまれたものであり、直に精神を破綻させてしまうようなものを。
憂いは時に人を変えてしまうようなもの。
それすら気づかないその身体が杞憂で仕方がない。
【元財閥夫妻が語る。あの日の真実とは。】
朝、7時半のニュースは全てのチャンネルがあの日起きた出来事の一存や真実などだった。
それを見て朝食を食べる貴方は何を思っていたのか。
彼らの関係がいつ破綻し、いつ殺人を犯そうという信念を抱いたのか。
娘の私ですら、到底理解には及ばない気がした。
「ごめんなさいね、2人とも。私達がいなくなってしまって。」
謝罪の意を込める夫人の瞳は人一倍暗く、理解してほしいなどという無理難題を押し付けているに等しかった。
涙を浮かべて反省の意を示していると検察官側が法廷で発言をしていたが、所詮平民上がりの女を擁護する者は誰一人としていなかった。
今この瞬間もそれは変わらない。
「そもそも、この女が一族の元へと来たのが間違いだったのだ。母上が言わなければこんな問題事起こらずに済んだのに。」
元会長は責任を子供の前で夫人に押し付け、自分は過ちなど犯していない。全てはこいつのせいだと言わんばかりに相手を罵る。
「私のおかげで次期会長が産まれたっていうのに、なんで貴方はそんなこと言うの?!こんなことなら殺人なんて犯さなければ良かったわ…..。冬楓さえ産まなかったら、…..。」
息子が居る前で、後悔を募る。
悲痛な叫びが今にも聞こえなそうな表情で、自身の母を見つめる兄をどう対応すべきか分からない。
「そんなに言うなら、産まなければ良かっただろ。今になって文句言うなよ。そんなんだから夫にも愛されないんだろ。」
口を閉ざすばかりの息子が自ら初めて意志を嘆いたのが自分への悪口だなんて思ってもみないはず。
呆気にとられ、暫くの間夫人は口を閉ざすままだった。
全面が白で覆われ、精神を空虚させる室内だからこそ余計に言葉を発せなかった。
「立夏は….私達と離れて寂しいか?」
素朴な瞳で、期待を込めた表情に心底気持ち悪さと、煩わしさを感じた。
「寂しいなんて未知の感情、どこかへと置いてきてしまったようです。まぁ、その要因は知る余地もないですけれど。」
元母親と父親を嘲笑う。
格が落ち、価値すらも杜撰になれば私の世界からその者達は要らない存在となる。
それが今の世の中であり、一家の暗黙の了解となっていることに今更気づかない。
その時点で貴方達は平民や奴隷以下になった。
「お前まで私を馬鹿にしているのか?ただの子供が….その地位にいるだなんて。努力して培ってきたものを台無しにするな!」
小さな部屋の中に大声で赤子のように嘆く元会長を誰もが驚愕する。
警官が慌てて宥めようとすれば、怒りの矛先が再度こちらへと向き、危害を加えようとする。
「お父様、この世は賢く刃を扱わないと生き残れないのです。ただ貴方はそれを誤って扱い、罪を犯してしまっただけ。誰もが擁護してくれる、愛してくれると勘違いなさらない方がよろしいかと。」
「帰れ!二度と面会に来るな!!」
「そのつもりですわ。貴方が二回目の面会を望もうとした時、既にご逝去なさられているかもしれませんが….。」
警官が複数人となり、元会長を連行し、その様子を呆気ない顔で夫人は見ながら共に面会室を出ていった。
残された私達は沈黙のまま。
「お前は….あの二人と再度面会したいと思うか?」
「少しは思うかもしれないですね。死刑囚とはいえ、私の両親ですから。」
「….お前は俺とは違って愛されていたからな。ちゃんと。」
妬みではない、ただただ一筋の羨望ばかりの表情を兄はする。
私もこの時は彼と同じ子供に過ぎなかった。
見栄を張る財閥会長ではなく、ただの15歳の子供に。
第2章 殺人
初めての罪を犯した時、自分を産んだ母親が塵を見るような目で冷たく睨んだ。
母親が殺人を隠蔽していることは薄々気づいていたが言葉に出せずにいた。
それすら気づかない甘えた脳みそが凝縮された塊をもつような自分の妹が情けで情けで可哀想だった。
法廷でも、邸宅の中ですれ違った時でさえ。
「冬楓様は会長や奥様がいなくなって寂しくないのですか?」
ある1人の従者に問われる。
親を殺したいと思わない環境で、親に感謝し、神に懺悔するのが当たり前だと思っている家庭で育ったような者に何と言葉を発せばいいのか、困窮した。
そして、襟懐に隠す一つのものがあった。
それをどう発言しようと、それは周りの人間がすぐさま理解してくれるとは限らない。
「黙れ、当たり前のことを言うな。うざったらしい。」
「も、申し訳ございません….。私はただ善意で言ったのに。」
従者は唇をこれでもかと言うほど震わせ、額に冷や汗を垂らし、相手を陥れる。
「早くあいつの所行けば。俺と関わるとろくな事ないよ。」
面倒を知らずに甘やかされて育ってきた温室育ちの者にこういう奴を押し付けさえすれば、酌量される。
従者は妹の元へと行き、全てのことを話すような素振りをする。
何とも思わずに平然と聞くふりをする妹はずる賢い。
あの生き方さえすれば、過ちを犯さずに済んだのに。
様々な後悔と、小さな悟りが俺の精神を破綻させた。
「お兄様、このミネガ・イリスの作品をご覧くださいまし。とても美しいですね。まるでガラスの彫刻のようです。お兄様、貴方はどういう作品がお好きですか?」
世界で最も有名だというリベルージュ美術館での作品は欠陥したものをちり集めてくれるような感動を与えてくれる。
同じ存在には程遠い妹が興味をもってくれているようなフリをしているのを見逃しはしなかった。
一瞬の隙も見せずに自己韜晦しているのも憎たらしい。
そんなのをしなくとも作品のように輝ける瞬間は妹には人知れずある。
やはり目の前にいる人間は模擬している。
「俺は….どの作品も好きではない。」
「そうなのですね。どういう作品がお好きで?」
「ただ1色だけが塗られている作品。現代にはそんなものないが。」
「お兄様がつくってみればいいのです。世界にはたくさんの改革があったではありませんか。それと同様にお兄様が芸術の世界を変えてみてはどうですか。」
小さく一驚する。
突拍子もないことを言い、アイディアをプラス思考に変えてしまう。
必死にもがき苦しみ、心を段々と偽りの形だけで埋め、笑顔だけで人を呑気にさせる妹は順道ではない。
ただ彼女にとってそれらが順道ならば、順道なのだ。
「何を言っているんだか。自分が何を言っているのか分かっているのか?」
「えぇ。これは本心です。訝ないでいただけるかしら。」
初めて妹の本心が薄々見えた気がした。
まだ親の手助けが必要な13歳の子供であり、足りない口で達者に話す子。
隠すのが下手で、言葉に本心が隠れている。
無意識のうちに少しだけ口元が緩んでしまう。
「….あんたのことをそう思ってはいない。ただ、面白かっただけだよ。」
もしかしたら目の前にいる彼女は罪を犯した俺を宥恕してくれるかもしれない。
少しの期待を込めれば裏切られた所で悲しいと思わずに済む。
「許しませんわ。私が許す人間だと思っているのですか?」
悪戯が含む笑顔でそう呟く。
親を失ったが微かな希望だけを頼りに生きているのが目に見えてわかる。
「思っていると言ったら?」
「….どうでしょう。それはわからないです。」
「….そう。なぁ、あんたは俺がどんな人間でも許してくれるか?」
彼女を一点に見つめる。
夏ではないのに、額には汗が滴り落ちる。
不明瞭な表情をし、俺を奮い立たせる状況をつくろうとしているのがわかるが、一瞬の刹那の時間でそれが恥じるべき行為だと認識した。
「….不思議そうに見つめるな。気味が悪い。」
「ごめんなさい。許していただけるかしら。でも私はお兄様がどんな笞罪を起こそうと何とも思いませんわ。」
数多の灯火が心中へ光り、それが消えずに永遠とさせるような暖かさを感じた。
彼女は心さえも偽り、無いことにしようとしているだけ。
それを気付かないとは兄として、人として杞憂で仕方がないのだ。
「あら、白鳥会長ではございませんか。役員代表の方もいらっしゃるのですね。」
格式高い財閥関係の者のみが入ることが許可されるパーティー。
彼女の前にいる背が高く、誰もが魅了されるロングヘアが特徴的な女性が少々苦手に感じる。
ワインをもちながら、俺の全身を下から上と視線を送ってきた。
彼女にとって身なりは相応しいかどうか判断しているのだ。
「仲花令嬢、お久しゅうございます。兄は滅多に社交界へ顔を出しませんから。申し訳ございません。」
「へぇ。あまりニュースでご覧にならないから存じなかったわ。氏名を名乗ってくださる??」
「白鳥 冬楓です。冬に楓と書いてふゆかと読みます。」
「….素敵な名前ですね。私は仲花 美月です。美しいに月と書いてみずきです。何卒よろしくお願いしますね。」
屈託のある笑顔で、物怖じせず氏名を名乗る。
貴方ごときを覚えるつもりは無いと言われているように見えた。
令嬢こそが災いの的であり、災難の中心となっているのを周りの者は気付こうとしているのか。
「えぇ、よろしくお願いします。仲花さんのことは、よく妹から伺っております。とても素敵な女性だと。」
妹の頬は徐々に桜のように色がピンク色に染まり、視線を逸らした。
自明のことだが、相手を油断させ、隙を見せるように仕向けていることが俺の目には丸見えだった。
「えっ、そうなのですか?とても嬉しいです。白鳥会長がそんな事を仰っていただなんて少し驚きました。」
また小さな仮面を被り、自らを偽る令嬢に辟易する。
スタッフからワインが入ったグラスを貰い、飲みながら手を離す。
会場に大きな音が響き渡り、皆が行き場もなく混乱し、疲弊していた。
「このワイン、毒が入っています。少量のですが。」
一瞬で会場がざわめき、俺達の方へと視線が向けられる。
こうなることを想定していないように、令嬢の慌てふためく姿が実に絶品だった。
「お兄様、一先ず医務室へとすぐに向かってください。こちらの会場は私が対応いたしますので。」
「お前は何もしなくていい。毒も少量なら耐えられる身体となっている。これも全て誰かが仕組んだ事なのだ。何となく検討はついているが。」
「….さすがですね。確か、本日の会場の主催者は仲花財閥の方でしたわね。料理や飲料等も全て仲花財閥の方のはずですが….。」
一気に会場にいる者達の顔色が変わる。
数分前の穏やかな何気ない雰囲気から一変して何もかもが変わる。
「警備員、何を突っ立っているのですか。早くこの者達を取り押さえなさい。」
「はい!」
「私はやっていないわ….!その穢れた男が全て仕組んだことよ!!信じなさい….!」
死人に口なしということわざが最もお似合いな元令嬢は必死に無罪を訴えながらも拘束され、会場を後にした。
これ程までに心の中に留めておきたい出来事はこれまでに無かった。
これは罪に入るのか、否か、齢15の彼女はどう思うのだろう。
第3章 矜恃
扉を開けると、物思いにふける頬に傷がついた青年が立っていた。
唇にリップが付いてよれていた。
「殺したんだ。パーティーでワインに毒を混入させたあの令嬢を。」
彼を見ても、何かを混濁させる感情が然り気なかった。
本能が彼を追い求めて地獄の淵まで追い続けるべきだと言っているのかもしれない。
「何をしてほしいのですか。ただ慰めて、宥めてもらおうと考えているのですか。」
「分からない、分からないよ。そんなことあいつらから教わってない。感情の在り方なんて。」
心の中で何かが割れる音がした。
「冬楓お兄様。自ら知ろうとしないから、あなたの心は破綻していくのです。助けてほしいなら、助けてと言えと何回も言っているではないですか。」
床に転げ落ちる死体を見ながら彼の元へと近付く。
彼はそれを拒絶するかのように窓に寄り掛かる。
行き場を失い、切羽詰まった焦りから切迫する彼の表情。
唇を噛み、端的に話す。
「つくづく穢れた人間ですね。あなたは。」
「は….?」
「堕ちるところまで堕ちて、独りだからと行動を起こしたあなたが、穢れていると言っているのです。令嬢を殺したあなたを世間が認めてくれるとお思いですか?」
「うるさい….。あんたはどっちなんだよ、救世主なのか悪魔なのか。あんたらのその目だけが怖くて、嫌いだったんだよ。両親を思い浮かばせるその目が。」
彼の透明な殺意、鋭い視線、救いの無い瞳が私を絶望と化す。
少しずつ息が荒くなり、私を突き飛ばし、見下ろした。
「あんたさえいれば俺は何も要らないと思ってた。でもそれもまた過ちの思いだったんだな。」
むせび泣く彼は、普段の強がる青年の姿ではなかった。
令嬢を処理する時に流れた血が、手元まで流れて指の1本1本が赤く血液で染まる。
「気持ち悪いだろ….?その血。穢れた男の血がついてどう思う?」
直感的に下手な回答をしたら、令嬢と同じような姿となってしまうと察知した。
手のひらを見つめ、血を舐める。
彼の表情が引き攣り、瞳が揺れているのがこの目で分かった。
「私も穢れた女に過ぎないのです。気持ち悪いでしょう。こんな醜態を貴方に晒して。」
「はっ、無様だな。一介の財閥会長がここまで落ちぶれてしまうなんて。….なぁ、これを全国に流したらお前はどうなると思う??」
何かの含みがある笑顔で遺体を見た。
舌には血の滲みが出てコクが出るように鉄の味がし、気持ち悪くなりそうだった。
刹那の瞬きをする暇もない短時間で、咳をする。
口の中にある血が床に垂れ、吃驚した。
「批判を受けて、哀れみの目を向けられるでしょう。承知の上で行った事ですわ。流したいなら流してもらっても構いません。」
私の堂々たる姿に呆気にとられ、唇がこれでもかと言うほど揺れた。
恐怖で溢れ出す失墜が今幕を開けた。
「……….もういいよ、お前を絶望させてやろうと思っていたのに。そしたら手を差し伸べた時に一緒にどこかへと堕ちていってくれると思ったのに。」
「まだ希望があると羨望していればいつかその日が来るかもしれないですのに。残念でしたね。」
「出てってよ。それで警察に通報して俺を死刑とすればいい。死んで生まれ変わりたいんだ。」
苦悶だけが残る顔で後ろを振り返った。
「私はここを出てあなたを密告するようなことはしません。自分で申告なさって。」
「…..はは、お前ならそう言うと思ってた。」
少しの期待が、大きな期待へと変わる時に未成年だったあなたの顔つきが変わった。
嗚呼、享受よ。神からの享受を受け取り、それにしたがって良かった。
大切な人からの祈祷文こそ、重みがあり価値がある。
その空いた穴の空っぽぐらいが今無くなった。
「人を殺したことについては私は悪いと思っておりませんわ。過ちだとも思っておりません。私はあなただったら地獄の淵まで共にいける自信があるのです。」
「…..じゃあ堕ちるところまで堕ちて、俺だけを好きでいて、俺だけを愛してほしい。お前じゃないとだめなんだ。」
たくさんの転落を経験したあなたが怖かった。
何かを追躡して、行き彷徨ってた過去のあなたとは違う。
つくづく私も変わったものだと彼の触れられた手で実感した。
「大好きです。お兄様。私はあなただけが好き。愛しています。」
「….俺もだよ。立夏。」
あなたと共に堕ちていけるのなら私はレールを跨いで、外れてでも足跡を辿っていく。
罪の償いはあなたではなく、私の責任であり重荷なのだから。
さようなら、私の掻い潜る人生よ。
共に私達は部屋を出て、外の人生へと放浪していった。
「お兄ちゃん、誕生日おめでとうございます。これで5回目ですね。」
「お兄ちゃんのためにお菓子を買ってきたんです。お母様に内緒ですよ。」
「私はお兄ちゃんの方が後継者に相応しいと思います。お兄ちゃんは私を推薦したのですか?」
「お兄様、今日作ったアフタヌーンティーです。メイドと一緒に作ったんですよ。ご一緒にどうですか?」
「お兄様、これからは私と2人っきりの生活となりますね。」
「お兄様、大好きです。」
立夏との関係は依存に近しいものだった。
だが息苦しい彼奴らのようではなく、心地よく手に留めておきたいと感じさせるものがあった。
初めて会話した日を立夏は覚えているのだろうか。
その時は財閥の令嬢と、令息という立場で目を合わせずに一言だけで儚い終わりを告げていた。
君が漏らした穢れた男の子と言うのは血筋ではなく、性格だったのだと今更実感した。
「本当に穢れた男と一緒に過ごしていいのかよ?」
「えぇ。私はあなたを嫌いではないから、心さえも欺いていたのです。嫌う態度さえとればあなたは私のような卑怯者から離れると思ったから。」
「なら、もうそうしなくていいんだ。解放されるんだよ。」
普通の恋人として、俺たちは笑い合った。
俺たちが幸せになる方法はこれしかないんだよ。
どれだけ選択肢があろうと。
もう開放されるんだよ。
どこへ行こうと、俺は彼女を一人にはしないから。
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5日間で9000文字とか天才。 え、兄妹恋愛すきです!!! にしても凄すぎない?兄と妹の各目線で書かれてるからかお互いの気持ちが分かるし会話とか気持ちからしてどういう性格なのか分かる 🥲 最後の台詞がとてもいい。 お互いに依存してるオーラ溢れ出してる。 2人だけの生活、2人だけの世界、これからの2人を私は永遠に応援していきたい。
12日から書き始めて5日間。およそ9000文字.....きついよーーーー😭 自分よく頑張った。ストーリーつまんなくても許して。