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私は階段を駆け下りて、靴を履き替え体育館に走る。
今までの頭の中が、一気に整頓された気がする。
早く。
早く孤爪くんに会いたい。
心に溢れかえったこの気持ちを、伝えたい。
ずっと、ずっとこと言えなかったこと全部。
最初から、あの日からずっと我慢してきたこと全部。
私は、走っていた足を止めた。
体育館前にある階段。
私と彼が、初めて会話した場所。
夕日に反射して綺麗に輝く金色の髪。
猫背で座って、スマホを見る。
そんな私の大好きな人は、ゆっくりと顔を上げた。
鼓動が、早くなる。
私は、大きく息を吸った。
「研磨くん!」
私は彼の名前を呼び、体育館に走る。
研磨くんは、一瞬驚いて目を見開いたが、それから自然と笑顔になった。
上下に肩を揺らし、呼吸を整える。
「座りな。」
私を見てそう言った彼の隣に、腰をかけた。
「…部活、終わったの?」
「うん。今さっき。」
「…黒尾先輩達は、?」
「先帰ってもらった。今日水曜だから、××に会えるかなって思った。」
研磨くんはストレートに私の質問に答えた。
自分で聞いて、そう返答された私は、何も言えなくなってしまった。
「××は?委員会の仕事、終わった?」
「うん、1か月前ぐらいから担当してた教室、やっと片付いたんだ。….ちょっと肩痛い。」
そう言って私は苦笑をする。
「そっか。お疲れ様。」と研磨くんもニコニコしてくれた。
私は、決心がついたように、ふーっと息を吐き、研磨くんを見つめる。
目が会い、どきんとした。
伝えなきゃ。
研磨くんの気持ちに、応えなきゃ。
「け、研磨くん…あのね。」
言いなれない下の名前。
だけど、教室で話したあの時から、心のどこかで、呼びたいと思っていた彼の名前。
ずっと我慢してた分まで、彼の名前を沢山呼びたい。
研磨くんは優しい顔で私を見る。
「私は…研磨くんのことが好きです。本当に本当にに大好きです。」
どんどん緊張で下がっていく顔を上げ直し、また研磨くんと目を合わす。
「笑ってるところも、優しく話してくれるところも、たまに、意地悪してくるところも、歌うとこも、走るとこも全部!全部、どんな研磨くんも、大好きです。」
顔が熱くて、息も苦しくて、きっと顔が変になってるに違いない。
それでも私は、研磨くんを見続けた。
しばらくぽかんと私を見つめていた研磨くんが、突然私の方に近づいた。
いきなりで、すごくびっくりして、私は一瞬固まった。
髪の毛と、ジャージから、ほんのりと香る甘い匂いで、私は研磨くんに抱きつかれているということに気がついた。
心臓の音が、研磨くんの音なのか、私の音なのか、分からなくなりそうだった。
「…ごめん、もう少し、このままで。俺、今、多分めっちゃ顔キモイ。」
研磨くんは私の耳元でそう言った。
私は思わず笑ってしまう。
「…けど、めっちゃ、嬉しい。」
研磨くんはさらに私をぎゅっと抱き締めた。
私も研磨くんの背中に、腕を回して、抱き締める。
私の心は、幸せでいっぱいだった。
研磨くんに会えてよかった。
話せてよかった。
好きって言って貰えて、本当に嬉しい。
そっと私の体から腕を離した時、彼の顔が、夕日で照らされる。
いつもの優しくて、私を安心させてくれる笑顔。
研磨くんの手が、私の顔に触れる。
その瞬間、私たちの唇は、夕日の光と共に重なった。
[完]