小指に巻いた糸。
幼い頃、自分達の想いがちゃんと伝わるように、と願いを込めた糸を貴女はまだ繋いでいますか。
〖第1章 絶えない静寂の裏 〗
心因性失声症。ストレスのせいで声が出なくなるというもの。
世間は甘えだなんだ言うけれど、実際は泣きたくても泣けない人魚のように、伝えたくても伝わらないもどかしく悲しいものだ。
『空気女』『気持ち悪い』様々な言葉の槍を向けられることだってある。
でも僕はまだ知らない。 彼女の受け持つ運命の過酷さを。
僕には一人、声が出せない幼なじみがいる。
幼稚園のとき、突然パタンと彼女の声がでなくなったのだ。
そこから彼女はどんどん自信を無くし、今では笑うことさえほとんど無い。
『おはよう 夏向』
待ち合わせ場所に着くと、手話でお互い会話を始める。
あの日から彼女の為にと、手話を猛勉強して会話をするくらいにはできるようになった。
彼女は声が出ないだけで、耳は聞こえるのだが、彼女だけが手話をして苦労するなんて間違っていると思ったのだ。
『おはよう じゃあ行こう』
小さく頷く彼女の横を歩きながら学校へ向かった。
話す時は手話。たまに僕が声を出して話すこともあるけれど、あまりそういうことは彼女の前ではしないようにしている。
「あっ、やば」
忘れ物に気づき、つい声が出てしまった。
『どうしたの?』
『忘れ物しちゃった』
そう言うと彼女は少し悩んだ顔をした後に『貸してあげる』と言ってくれた。
『いいよ そっちも同じ時間に理科あるでしょ?』
あっ、というような顔をして少し俯いてしまった。
『でも ありがとう』
笑顔ではないが、彼女は嬉しそうだった。
彼女の顔から笑顔は見られないけれど、その他の表情から彼女がどんな気持ちなのか、どう思ったのかは大体分かるのだ。
コメント
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ふぃやぁぁぉぁ( 二人の関係素敵すぎゆ…! 投稿ありがとうございます!!!!!!