「…やっぱり可愛いなぁ…りっくん……」
髪を洗い流し終われば男は俺の身体をタオルで包んでベッドに連れて行く。男は俺の頬にキスをして新しい目隠しを俺に着けて抱き枕のように俺を抱きしめながら眠った。
(翌朝…)
ジャー…カチャカチャ…と音がして俺は目を覚ました。
『っ……っぶ…ぅ”…ぐッ…』
俺は起き上がろうとすると腕がシーツに擦れてうつ伏せになってしまう。顔が枕に埋もれてこのまま窒息死でもしてやろうかなんて思いながらそのまま体内の酸素が無くなり始めて苦しさも増していく。
「ちょッ!!!」
男は俺を咄嗟に抱き上げて仰向けに寝かせる
『ッ”……ッは…はぁッ…ゲホッゴホッ……』
「何やってるの…!口があるんだから助けてって言ってよ…君が居なくなったら…僕は…」
男は言葉を続きの言葉を言おうとしなかった。男は俺を抱きしめながら静かに泣いていた。
『……離せ…知らない奴に誘拐されて、足取られて、目隠しされて、監禁されて…その犯人に助け求めるほど俺は落ちぶれてないんだ。ずっとこのままなら死んでやる。どうせ足が無いんだ、一人で生きていくこともできない、誰かの補助が無いと何もできない…お前の所為だ、俺はお前を絶対に許さない…』
ここまで言えば男も諦めるだろうと思い、俺はそう言った。
「ッ…ごめ…僕…」
『取り敢えずこの目隠し外せ、お前の意見を聞くのはその後だ。』
「ッ…うん、分かった…」
男は目隠しを外す。やっと犯人の顔が見れる部屋は明るく、目を慣らすのに少し時間がかかった。少しずつ男の顔がはっきりとしてくる。
『ッ…?』
男の顔に見覚えが無い。
『お前…誰だよ…』
「やっぱり覚えてないか…ごめんね…」
俺は訳が分からなかった。此奴は誰だ、なんで俺を誘拐した、俺を殺さない理由は…すると突然頭に激しい痛みが走った。
『ゔッ…痛”ッ…なんで急に…ッ…』
「中学の頃、事故に遭ったのは覚えてる?りっくんは頭を打って一部の記憶を失った。生活に支障を起こさない程度に記憶は取り戻したけど、僕と過ごした記憶が戻っていない…僕たちは親友だったんだ、一番のね…」
男が言葉を発する度に頭の痛みが増してゆく。
『黙れ…!!!…嘘つき…俺が事故に遭った時、彼奴も一緒だった…彼奴は…俺を庇って…』
「即死した。」
『ッ!』
俺は苛立ちの末、はらわたが煮えくりかえりすぎて泣きそうな程だった。
「何勝手に勘違いしてるの?僕は君を価値のある人間として見ている。だからそんな馬鹿な妄想はやめるんだ。君のお友達は事故で即死した、今君の目の前に居るのはただの誘拐犯。…さてと、顔も見られちゃったことだし、仕事に取り掛かろうか」
俺は男を目で追いながら何をするのか不安そうにする。
「…そんなに見られると恥ずかしいなぁ…手も自由にしてほしい?別にいいけど、勝手に動かないようにね?逃げたら腕が無くなると思って過ごして。」
男は俺の腕を縛っているロープを解き、俺を解放した。何を考えているのか分からない…俺を誘拐した理由は?何故殺さない?そんな言葉が脳内をぐるぐると回っている。
「君は本当に分かりやすい顔をするよね、表情が豊かで飽きないや」
男は楽しそうに笑いながらそう言った。俺は男の顔を見ていると怖くなってきた。震える声で俺は下記を述べた。
『…なんで俺を誘拐したんだ…?』
男は一瞬黙り込んで口を開いた。
「…一目惚れ、かな?」
男は思いついた言葉を発しているだけにしか見えなかった。何故なら、俺は男と面識が無かったから。俺はベッドのシーツを握りしめ、男に怯えていることがバレないように男を睨み続けた。
「君の脳内に僕は居ない。でも僕の脳内には君が居るんだよ」
『……言ってる意味が分からない…』
俺は男を信じることができない。信じたくもない。
「見せてあげる。おいで」
男はまた俺を抱き上げようとした。俺は男を拒絶した。
『ッやめろ!!!』
俺は男を両腕で突き飛ばしてベッドの隅に逃げた。
「痛いなぁ…なんで突き飛ばすの?君が一番知りたがってる“誘拐の理由”を教えてあげようとしたのに。」
男は車椅子を持って来て再び俺を抱き上げようと近付いて来た。俺は身体を縮こませる。男は俺を両手で抱き上げ、そっと優しく頭を撫でた。
「大丈夫だよ、痛いことはしないから、ね?」
男は俺を車椅子に乗せ、複数のベルトで俺の身体を固定した。
「落ちないようにするための安全ベルトだから、キツかったら言ってね?」
俺は黙り込んだまま車椅子で別の部屋に運ばれた。男が部屋の扉を開け、部屋の中に入った。目の前に広がった光景は、俺の写真。絵。そして、鍵のかけられたショーケースには、俺の両足が……俺は衝撃で言葉も出なかった。
「綺麗でしょ?君のカルテもあるよ、事故後の写真も、この部屋は全部君で溢れてる…僕は毎日此処で君を見ていた…」
男は愛おしい物を見るような目で語った。この男の気味悪さには吐き気がした。
「君はやっと僕のものになったんだ、これからは僕と二人きりで幸せに暮らそうね?」
『ッ…もう…解放してくれ…』
俺の精神は壊れ、涙が零れた。家に帰りたい、死にたくない…これ以上身体を奪われるのも嫌だ。俺は涙をぽろぽろと零しながら男を見上げた。
「……可愛い…」
『…は…?』
此奴には何をしても無駄なのか…?と、俺は思い始めた。男は俺の額にキスをしてリビングであろう場所に運んだ。男はキッチンの方に行き料理が盛られた皿を次々と運んで来た。
『…これは…?』
俺が料理を見詰めながら男に問いかけると、男は楽しそうに笑いながら話し始めた。
「これはね、鯛のカルパッチョ、これがフルーツサラダ、これはね、あ、パンとごはんあるけど、どっちがいい?」
『…パン…』
「やっぱり?パンが好きなことも知ってたよ、○○レストランに行ってたことも。あのレストランの料理好きなんでしょ?味を真似するの頑張ったんだよ?ほら、食べてみて」
男はスプーンで料理を一口サイズ程に掬って俺の口元に運ぶ。当然俺は食うつもりは無い。俺は口を閉じたまま顔を逸らす。
「…なんで食べないの…?暫く何も食べてなくてお腹空いてるはずでしょ…?ごはん食べないと元気出ないよ?」
男は一度スプーンを置いて俺の頭をそっと撫でてきた。撫でられた瞬間、何故か涙が込み上げてきた。涙目になりながら俺は顔を逸らしたままでいる。俺は泣きそうになりながら震える声で男に下記を述べた。
『ベッドまで連れて行ってくれ…この車椅子に座っていると落ち着かない…』
「…分かった、」
男は返事だけをして俺をベッドまで連れて行き、車椅子から下ろし、ベッドに寝かせた。
『悪い…さっきの料理は食べられない…粥とか…スープなら食べられるから、』
すると、男は察したように行動をする。
「そうだよね、何も食べていなかったのに急に固形物なんて食べられないよね、待ってて、すぐ作るから」
男はそう言うと、キッチンの方に行き、何かを作り始めた。俺は男が居ない間に逃げようと考えたが、自分の足を見ると諦めるしかないと思ってしまうようになった。なんで俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだ…とも思い始めた。ベッドの毛布を自分で肩のあたりまで被り、涙を堪えながら目を瞑る…
いつの間にか眠っていたのか隣には男が座っていた。俺は男を見上げる。男は何か難しそうな本を読んでいて俺が起きたことには気付いていない。俺は上半身に力を入れ、起き上がった。
「…わ…起きたの?おはよう、お粥作ったのに寝てるから…今日はちょっと疲れたかな?お粥、食べれそう?」
男は驚いたように俺を見る。粥の美味そうな匂いが漂ってきて俺の腹がグゥ~…と鳴った。俺は恥ずかしくなって顔を逸らした。
「ふふっ、気にしてないから恥ずかしがらなくてもいいよ、持って来るからちょっと待っててね」
男はベッドから下りて再びキッチンの方に行った。暫くボー…ッとしていると、男が底の深い器を持って来た。蓋を開けると、ホワ…と湯気が立ち、より食欲が出る。梅粥を作ってくれたのだろう。微かに梅の香りが漂ってくる。
「熱いから僕が食べさせてあげるね」
男はスプーンで粥を掬い、ふー…ふー…と息を吹く。
「はい、口開けて?」
男は俺の口元にスプーンを寄せる。俺はカパッと口を開け、男が粥を口の中に入れるのを待つ。男は口にそっと粥を流し込み、俺の様子をジッと見詰める。
『…ん…美味い…』
「…!ほんと?よかった、」
男は満面の笑みで喜んだ。俺は男に心を許したように思わせて此処から逃げる作戦を考え始めていた。俺はベッドの壁側に身体を寄せ、男に手を伸ばす。
「……?」
『自分で食べる。』
男は俺を介抱するように粥を食わせたかったのか、俺の言葉を聞くと少し落ち込んだように俯く。
『傍に居てほしいなら俺の要望は叶えろ。』
「…分かったよ…」
男は俺が火傷しないように器の周りにタオルを巻いた。妙なところで気を遣うのが気持ち悪い…俺は粥をスプーンで掬い、口に運んで食べる。暫くして完食すると、男はホッとしたように笑った。
「全部食べれたね、安心したよ」
『……』
俺は黙ったまま器を近くにあるテーブルに置き、男を見詰める。
「さっきからよく目が合うね、もしかして僕のこと好きになってくれた?」
『は…?』
突然男が訳の分からないことを言い始めた。俺はイラついてしまったが、ぐっと感情を堪えた。するとその時、何処からかインターホンの音がする。耳を澄ますと、それは上から聞こえていた。俺は絶望した。音が上ということは此処は地下室。階段は当然ある。足さえあれば逃げられたのに…俺は希望の光を失い、表情が消えた。
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遅れましたーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
ほんとすみません!!
それでは気を取り直して、
皆さん!誘拐犯からは逃げられない第3話、いかがだったでしょうか!「男」は顔を見られてこの後『俺』をどうするのでしょうか!楽しみですねぇ~
※「男」は『俺』のことを「りっくん」と呼んでいました!実は、『俺』の本名は『榊 竜胆(さかき りんどう)』りっくん、という名前は小学生の頃のあだ名だったのです!「男」は何者なのでしょうか?
次話を乞うご期待!!
誘拐犯からは逃げられない、をどうぞこれからもよろしくお願いします!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
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コメント
7件
これ大好きです😭フォロー失礼‼️続き待ってます💘
いやマジで好き!今まで1番かも