異星人対策室のジョン=ケラーだ。朝イチで愛娘であるカレンに拒絶されると言う核爆発並みの衝撃を受けてノックアウトされてしまったが、すぐにメリルが事情を説明してくれて事なきを得た。危うくビルからダイブしてしまうところだった。
予定より少しだけ早くティナがホワイトハウスへ戻って来たが、大統領と私に話があるから人払いをと頼まれた。大統領は分かるが、何故私まで呼ばれたのか分からない。だが、彼女の要望である以上無視するわけにもいかん。
直ぐに大統領補佐官のマイケルに確認したが、幸い大統領のスケジュールには余裕があるらしく直ぐに場は整えられた。
私?今朝の醜態を見ていた部下達からティナ関連以外の仕事を請け負うと暖かい言葉を貰いスケジュールも空いている。本音を言えばティナ関連の仕事も任せたいのだが……いかん、考えるな。胃が痛くなってきた。
さて、防諜処理が徹底された部屋で大統領と二人でティナの話を聞いたのだが……聞きたくなかった。宇宙にはとんでもなく危険な連中が存在しているようだ。
何故信じたか?ティナが我々を騙す理由が見当たらないし、何より善意の塊である彼女がわざわざ伝えてくれたのだ。信じる他あるまい。彼女は本日の記者会見で世界中にセンチネルの脅威を知らせたかったみたいだが、大統領が止めた。
無用なパニックを引き起こす可能性を心配した大統領の言葉にも一理あり、公表は各国首脳との情報共有を済ませてからとした。
こうなると、各国の宇宙開発機構を統合していたのは幸いだ。統合宇宙開発局では直ぐに外宇宙へ向けたメッセージの発信が大統領命令で中止される運びとなった。
もちろん反発する職員或いは国もあるだろう……個人レベルまで制限するのも難しいな。
「ティナ嬢、代わりに国連で各国首脳を集める場を作る。そこでセンチネルについて訴えてくれないだろうか?」
「分かりました。皆さんに合わせますが、発信だけは出来るだけ早く止めてくださいね」
「もちろんだ。約束しよう」
やれやれ、ティナとの出会いは地球にとって福音だったが、同時にセンチネルと言う人類滅亡を引き起こす脅威の存在を知ることになった。やはり宇宙は侮れないな。問答無用で殺しにかかってくる相手にどう対処すれば良いのか。
……見付からないようにするしかないな。異星人対策室室長として統合宇宙開発局に強く要請しよう。私が要請すれば、宇宙人絡みであると理解してくれる筈だ。
話し合いが終わり、ティナと昼食を共にした。残念ながら大統領は多忙のため参加できず、またティナの要望もあって私とメリルだけが参加。リクエストに答えてファーストフードを気軽に食べた。
私も最近は歳を感じて余り脂っこいものは避けていたのだが、若返ったからかハンバーガー等も美味く感じる。
ティナもその小柄な身体に似合わず良く食べる。彼女のAIが教えてくれたが、アード人の一日に必要なエネルギー量は地球人の平均よりも2倍から3倍だそうだ。翼を持ち、空を飛ぶのだ。それだけエネルギーが必要なのだろう。
そう言えば、一部の学者さんはティナの身体データを熱望していたな。もちろん拒否した。彼女は大切な客人だし、年頃の女の子だ。未知の存在に興味を牽かれるのは分かるが、少しは配慮して貰いたいものだ。
「美味しいかい?」
「はい!」
「それは良かった。たくさんあるから遠慮無く食べなさい」
「はーい」
「ほらティナちゃん、口にソースがついてるわよ?」
「んむ……」
メリルも甲斐甲斐しく世話を焼いている。いつの間にかちゃん付け、砕けた口調だ。ティナからの要望らしい。仲良くやれているようで何よりだ。それに、昨日に比べれば穏やかな時間が過ぎている。
夕方に予定されている記者会見だが、ニューヨークでの出来事で全世界が熱狂している。またティナの存在をマスコミが嗅ぎ付けたみたいで、急遽参加したいとの要望が山のように来た。
もちろん断ることも出来たが、それでは要らぬ憶測を呼ぶとして急遽会場を変更することになった。選ばれた場所は数年前に完成したばかりのオペラハウスだ。
何故ここかと言えば急な決定だったので空いている場所が限られており、その中でもホワイトハウスから近いことが理由となった。
ここならば広い空間で多数の人員を収容することが出来る。我がアメリカだけでなく、各国の報道陣も大勢詰め掛けることになるからな。
FBIはもちろんCIA、更に地元警察や軍まで動員してメディア関係者以外の入場は禁止し、身元確認は当然として持ち込むものも厳しく制限する厳戒態勢を敷いた。持ち物検査は衣服を全て脱いで行う徹底ぶりだ。
ここまですると事前に公表したのだが、それでも参加者が減ることはなかった。いやむしろ増えたと言って良い。昨日の出来事は余程世界に衝撃を与えたのだろうな。
「兄さん」
物思いに耽っていると、メリルが私の足をさりげなく叩いた。ああ、そうだった。大切なことを忘れていたよ。
「ティナ、記者会見まで時間まだはある。良ければ異星人対策室の事務所に招待したいのだが、どうかな?」
こちらは準備で大忙しだが、一時間だけ時間が取れた。
「是非ともお邪魔したいです!」
「良し、決まりだ。場所はここからそこまで離れていない。直ぐに車を手配しよう」
余り目立ちたくはないが、まさか歩かせるわけにもいかん。
「あっ、場所さえ教えてくれたら直ぐにいけますよ?後は転移できる場所の写真をくれたら完璧です」
「それは助かるな、では現地で落ち合おう」
私はメリルを伴ってホワイトハウスから異星人対策室の事務所一階に向かった。
到着後、10分程度待っているとソファーの近くが光り、ティナが現れた。いや、何度見ても不思議な光景だよ。
「お邪魔します」
「良く来てくれたね、ティナ。君を歓迎するよ」
手空きの職員達も集まって、ささやかな歓迎会を開いた。
「あの時の天使さん!」
「ふぇ!?あっ!ニューヨークの!」
歓迎会の最中、愛娘のカレンをティナと会わせることが出来た。カレンも会いたがっていたし。もちろん改めて大統領の許可を貰った。
「あの時はお礼も言えずにごめんなさい。そして……助けてくれてありがとうございました!」
「あははっ、そんなに畏まらないで欲しいかな。怪我をしてる……?」
「逃げる時に頭をぶつけてしまって。額と頬をちょっと切っちゃったんです」
そうなのだ。包帯とガーゼが痛々しい。傷が残らなければ良いのだが。
「私はティナ。貴女、お名前は?」
「カレンです。カレン=ケラー」
うむ、ティナには事前に伝えていたからな。
「やっぱりジョンさんの……女の子の顔に傷が残ったら大変だよ。動かないでね?」
ティナがカレンへと手を向けて目を閉じた。次の瞬間淡い光がカレンの傷口を包んだ。これは、魔法か!?
みるみるカレンの傷が消えていく!アード人は医療シートを使わなくても傷を癒せるのか!?
神々しい光景を目の当たりにしたジャッキー=ニシムラ(実は裸族)はこう語る。
「銀髪美少女天使と金髪美少女JKの接触だと!?……ふぅ…」
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